第7話 理事長、逮捕です!

 職員室の奥にある理事長室の扉をノックする。


「誰だ?」


 中から麗菜の気だるそうな声がした。


(何だよ……その眠そうな声は。よくこれで理事長が務まるな……)


「綾辻です」


「千尋か。入れ」


 扉を開けて中に入る。すると麗菜がこちらに背を向けながら、机に向かって何かをしていた。


「そろそろ来る頃だと思っていた」


 こちらを向きもせず、麗菜が言った。俺は後ろ手で扉を閉めた。


「話をするときぐらいこっちを向けよ。失礼な奴だな」


 麗菜に文句を言いながら机に近づく。そのとき、俺はとんでもない光景を目の当たりにした。


 理事長室の机の上に、全裸の女性が横たわっていた。それだけでも驚くには事欠かないのだが、俺を絶句させたのは、その女性は首から上が存在しないのだ。首もとには割れたグラスがあり、ダークブラウンの机の上には真っ赤な血だまりを作っている。それが机の端まで流れ、そこからポタポタと血が滴り落ちている。


 麗菜は振り返ると、ニヤリと口元を歪ませ、怪しい目つきで俺を見つめていた。


 理事長の机の上にある女性の遺体を見て、思わず腰を抜かした。


 麗菜は机の上にあったノコギリを手にとると、俺の方へと振り返り、動けないでいる俺に向かってジリジリと近づいてきた。


「く、来るな人殺しっ!」


 麗菜は右手にノコギリを構えると、それを俺に向かって一気に降り下ろしてきた。


 次の瞬間、ギコギコと何かを切る音が聞こえてくる。


(ぎ、ぎゃあああああ! 俺の首の骨がっ!)


 首を両手で押さえながら床に倒れる。麗菜は俺の後ろにあった観葉植物の枝をいつの間にか切り落としていた。


「そこで何をもがいているんだ?」


 切り取ったフサフサの葉がついた観葉植物の枝で、机の上で割れていたグラスとその破片を集める。ゴミ箱にそれらをポイすると、ついでにその葉っぱで、机の上の血だまりを散らかした。


 麗菜は黒革張りの椅子に座り、ふん反りかえると、遺体を前にしながら語り始めた。


「さて……お前がここにやってきたのは予想がついている。大方、普通の体育の授業かと思って、安易な気持ちで更衣室に向かったが、実は急遽、水泳の授業になり、おっぱいだらけの環境の中で卒倒してしまった挙げ句、こんなことになるのは予め予想がついていただろうに、麗菜は全く何の対策もしないで俺を女学院に編入させやがった、これから一体どうするつもりだ、と私に文句を言いに来たのだろう?」


 麗菜の推理があまりにも完璧すぎて、ツッコむタイミングを逃してしまう。


「ど、どうしてそれを!」


 俺にはこの言葉を言うのが精一杯だったが、


「当然だ。お前に盗聴器を仕掛けておいたのだからな」


 という言葉に納得する。


「それなら話は早い。これから一体どうするつもりなんだ? この先、逃げられない状況がきっとあるはずだぜ」


 俺の言葉に、麗菜がふんっと鼻で笑った。


「それなら問題ない。この遺体にお前の首を付け変えて……おい、そんなに引くな。冗談に決まっているだろう。これは私が開発した、リアル女体スーツ『北極三号』だ。これを着ればお前の体は誰がどう見ても女に見える。さあ、試しにこれを着てみろ」


 麗菜はそういうと、女体スーツを俺に向かって放り投げた。

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