第38話
私は国剣騎士団のロイド・セネットだ。交渉国を離れようとしたら絡まれた被害者である。この子供は私と手合わせがしたいようだ。乗ってやろう。
「ここでは無理だな…街外にでよう……ついて来い…」
「ちょっ、ロイドさん!いいんすか、こんなガキになめられて……」
シュバルツが苦言を呈する。この生意気な金髪親米騎士とペアを組まされてから、まだ半年も経たないが、一応先輩である私を立てる行動はしてくれているので、邪険にはできない。
「ちょっとな……」
「ちょっとって……」
(シュバルツは納得していないようだ……仕方ない…説得するか……)
「考えがあるんだ…このまま手ぶらで帰ってもノービアでの滞在期間が無駄になる…ちょっとは仕事しないとな……」
「仕事って…生意気なガキを懲らしめるのがですか?」
「ふ……おそらくあの子供の狙いは騎士団への加入ではない」
「…?じゃあなんで、手合わせなんか……確かにあの女と仲は良さそうですが、助けるためだけに騎士と戦おうします?とんだ英雄思想か、ただの馬鹿ですよ」
「まあ、それはおいおい分かるさ……」
「えー…教えてくださいよ…」
「ヒントは奴の手だな」
「て?」
シュバルツが背後を向き、少年の手を覗き込む。
「魔法陣?」
「そうだ……ただの馬鹿ではないってことだな………」
「なんで…あんなガキが…」
しばらく歩くと街の外に着いたようだ。
「さて、ここらでいいだろう」
「ああ」
少年が答える。
(どのような結末になるのだろうな……最近は待機ばかりで退屈だった…楽しみだ……)
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街の外に着き、長身の騎士ロイドと向き合う。
「私は国剣騎士団が1人、ロイド・セネットだ」
騎士が名乗る。
(俺も名乗っておくか……できれば覚えられたくないが……偽名を使うか?……いや、今も偽名だし後が怖い…普通に名乗ろう)
「ユザナ」
「うむ…では、ユザナよ…君は手合わせがしたいと言ったが、騎士団に入りたいという報酬が絡むなら、これは決闘になる」
「決闘…ああ…それでいい」
「そうか……では、ルールと報酬を決めよう」
(よし、想定通りだ……)
「……ルールは先に致命傷を与えたほうが勝ちだ」
「致命傷とは?」
ロイドが致命傷の定義を求めてくる。回復されて勝負が長引かないことが目的なので、そこはどうでもいいが決闘なので明確にしておく。
「中級ポーションを使わなければならないほどの怪我」
「分かった」
「そっちはルール追加しなくていいのか?」
「ふ……大丈夫だ……」
ロイドが少し笑う。気遣われるとは思っていなかったのだろう。
(なめられているのなら、いい傾向だ……)
「じゃあ、ルールはこれでいいな……報酬はどうする?俺が払えるものなんてないぞ…」
「……そうだな…その魔法陣について聞きたいことがある……」
「魔法陣?そんなのでいいのか?後で変えるのはダメだぞ」
ロイドは魔法陣について知りたいようだ。
(まぁ気にはなるよな……でも、騎士が魔法陣なんて聞いてどうするんだ?)
「ああ構わない…君の報酬は騎士団への入隊でよかったかな?」
「……いや、違うな……そんなんじゃダメだ……俺の勝利報酬は国剣騎士団の戦争への参加だ。ノービアとワーツの戦争にノービア側として無償で参戦してもらう」
(国剣騎士団の参加……団員が何人かは分からないが、エブバの精鋭と思われる騎士団が参戦すれば、ワーツも攻撃の手を止めるだろう……ワーツも大分疲弊しているはずだ)
「戦争への参加か……魔法陣の情報との報酬差がありすぎるぞ」
「む……なんだ…?騎士団への入隊はよくて、戦争への参加はダメなのか?本当に臆病な集団だな、あんたらは……」
「……煽ったって無駄だぞ………まあ今回は許してやる」
ロイドは笑っていた表情を元に戻すと姿勢を正し発言する。条件はなぜだか飲んでくれたようだ。
「では、私は国剣騎士団の戦争への参加、君は魔法陣の情報を賭けて決闘を行う。決闘は先に致命傷を与えた者の勝利だ。立会人は……」
周りを見渡し人を探しているようだ。
「…きたな……立会人は彼がやってくれる」
「ハアハア……え……?」
馬車に乗っていた役人が走ってやってきた。やっと追いついたらしい。役人は状況をまだ分かっておらずあたふたしている。
「確か君の名は……」
「……ホトスです……」
「そうそうホトス君だ…すまない……君には立会人をやってもらう……」
「た…立会人?」
「ああ、開始と終わりの合図をしてほしい」
「ちょっと…状況がまだ分かっていないのですが……」
「大丈夫…はじめとおわりの音頭だけでいいんだ」
「えぇ……」
「彼の準備ができたらはじめと言ってくれればよい……」
ロイドとホトスがグダグダなやり取りをしている間に、作戦を考え気持ちを落ち着かせる。
(勝利報酬の変更は呆気なくできたな…それだけロイドが俺を侮っている証拠だろう…ステータスでも確認しておくか……)
デバイスを起動し、ロイドのステータスを開示する。
MP 460/460
STR 34
VIT 32
DEX 28
AGI 30
(見なきゃよかった……MPもAGIも高すぎる……黄色の闘気かは分からんが、纏われたらさらに倍になるのか…攻撃当たらないだろ……)
(でも……ここまできたらやるしかない……ぶっ潰してやる……)
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