第37話
(厚顔無恥な御尊顔を拝んでやろうじゃないか)
人込みの最前列までなんとかくると、王城の方から豪華な馬車がやってくるのが見えた。まだ、通り過ぎてはないようだ。
「結局戦わないのか……どうなることやら……」
「騎士2人に払える額ではないのだろ…他の国剣騎士は金を払っても参戦しないらしいぞ」
「たった2人じゃ、ワーツは止められないだろ……我らがクリスタ様が直に戻る…それまで耐えるしかない……」
見物人たちの話を盗み聞くに、国剣騎士団はたった2人で戦争を止めようとしていたらしい。
(そりゃ国も金を払えないか……)
戦争はそんな少人数で戦局を変えられるようなものではない。変えられるのなら、俺はとっくに傭兵でお金持ちだ。
(ノービアが脅かされているのは分かってる……でも1人じゃどうしようもないんだ…すまないマリア…アイク…)
辺りが声で溢れる。馬車が近づいてきたようだ。
「あれがエブバの騎士様か……馬車に乗ってないんだな…」
「騎士は馬車に乗らないルールでもあるのだろうか?」
「さあな…騎士様のことはよく分からん…」
騎士は馬車に乗らず、後ろを歩いている様だ。金髪の黒鎧の騎士と背の高い黒鎧の騎士が2人並んで喋っている。
(こいつらが国剣騎士団か……色白金髪に浅黒黒髪…見覚えはないな……国剣騎士団は奴らと関係なく新設された騎士団なのかもしれない……一応デバイスのカメラ機能で取っておくか…)
検証以来はじめてつかうカメラ機能だ。撮影後は、ちゃんと取れているかすぐにフォルダで確認する。
「あーあ、金が払えんばかりに滅ぶのかこの国は…」
「まだワーツはここまで攻めてきてない…直に主力も戻ってくる…まだ分からんぞ」
(こいつら…民衆に丸聞こえなのが分かっていないのか……厚顔無恥にも程があるだろ)
「ワーツの攻めがここまで遅いとは俺も思わなかったんすよね……先読みのアインってやつが老将と相打ちになったのが良かったんでしょう……でもそれも無駄死にっすね」
「確かに、その兵士が相打ちになってなければ、とっくに戦は終わっていただろうな……そこが分岐点なはずだ……やはり戦争は唯の人数差で勝敗は決しない……強者のみが戦況を左右する……」
騎士たちの話を盗み聞こうと途中から無意識に追いかけていた。
(…強者のみが戦況を左右するだと……じゃあこいつらは本当に2人で戦争をとめられるとでも思っていたのだろうか……)
「じゃあ、ノービアが負けるのはその先読みってやつが死んだせいですか?」
「他に強者がいなければそうだろうな……どんな場面だったかは知らないが、私ならそこで相打ちは選ばない」
「まぁ、ロイドさんなら負けることはないでしょうね…」
「俺がその兵士だとしてもだ…なんにせよノービアが滅ぶとしたらその兵士のせいだな」
「弱いから奪われる…自然の摂理っすね」
2人の騎士は今もまだ周りを気にせず話し続ける。
(マリアの兄であるアインが馬鹿にされるのは構わない……だがアイン1人の責任でノービアが滅びることになるとも思わない…戦争は数だ…1人で頑張っても変わりはしないだろう……この騎士の言い分はいまいち分からない)
(でもアインが守ろうとしたノービアを放り出して、滅びるとか吐かしてるのはむかつく……投げ出したのならさっさと帰ればいいのに……)
1人で憤っていても仕方ない。顔を確認するという目的も達成したし、切り替えて教会に向かおうと踵を返す。
振り返ると、なんとそこにはマリアがいた。その雰囲気は明らかに怒っている。
(ついてきていたのか…分からなかった……聞いていたのか相当怒っているな…まずい!)
「撤回して!!」
マリアが騎士たちに怒鳴る。
「なんだい?じょーちゃん」
「アインは私の兄よ!この国のために命を懸けて戦った!謝って!!」
「…お…おう……まあまあ、わるかった、わるかったって…落ち着けよ」
マリアが金髪の騎士に詰め寄る。
(やばい状況だ…どうする……)
異常を嗅ぎとって、この国の役人と思われる若い男性が馬車から出てくる。
「君!何をしている!離れなさい!」
「ふざけないで!あの人がどんな思いで!!」
「なんだよ……あやまっただろ…」
「…」
ロイドと呼ばれていた、背の高いほうの騎士が剣に手をかけている。
(こいつ!マリアを切るつもりか?こんな街の真ん中で!?)
俺はペンを取り出し、急いで魔法陣を両手に描く。
「とりあえず離れるんだ!」
「許さない!!」
「はぁ…うるさいなぁ…」
「君……離れなさい…危害を加えるぞ」
ロイドが呟くと、その圧で辺りが静まり返る。
魔法陣を描きながら、いつでも魔法を発動できるように魔力を流す。
(まずい……嫌な予感がする……よすんだマリア…)
「あなたが謝罪して……」
「離れろと言っている……私たちは君を切れる特権があるんだ」
(そう…騎士にはいつでも邪魔な人間を切り捨てることができる特権がある……他国で使うにはリスクがあると思うが……)
静寂にも恐れず、今度はマリアがロイドに近づき謝罪を要求する。
「アインに謝ってよ!」
(もう無理か……)
「斬るぞ……」
限界を感じ、人込みの中から一歩出る。
「なあ、騎士さん」
「む……なんだ?」
「え…」
「今度は子どもか…」
「………ちょ…君も離れなさい!」
騎士とマリア、役人がそれぞれの反応を返す。
「あんたら強いんだろ?……俺と手合わせしてくれないか?」
「……え…ちょっとユザナ!」
「………ほう」
マリアが反応するが、黙るように指を口に当ててジェスチャーし、騎士と話を続ける。
「あんたら2人で戦争を止められるとはどう考えても思わない…実際戦わないわけだしな……本当は怖くて逃げだすんだろ」
「あん?なんだ、このガキ……」
「まあ、まて」
金髪の騎士が切れるが、ロイドが抑える。騎士は名誉を慮る。必ず食いつくだろうと思った。
「そうだとして、君と手合わせしてどうなる?」
「勝って騎士団に入る」
「…む……戦争から逃げ出すような騎士団にか?」
「騎士の給金は高いんだろ?団長になるのも簡単そうだしな……」
「……ふ…いいだろう…手合わせしてやる……」
簡単にロイドが手合わせを承諾してくれた。
(プライドだけは高い卑しき騎士どもめ……)
「ここでは無理だな…街外にでよう……ついて来い…」
「ちょっ、ロイドさん!いいんすか、こんなガキになめられて……」
ロイドについていきながら戦いの準備をする。急いで描いたヨレヨレの魔法陣を描き直すのだ。
(勝負に乗ったことを後悔させてやる……)
「……え……え……何が起こった?……え…どうする?……え……」
役人はパニックになり置いてかれている。
マリアが俺に近づいてきて小声で話す。怒りはいつのまにか静まっている様だ。
「何しているのよユザナ!……いくら魔法が上手いからって騎士と戦うなんて無謀よ……逃げて…」
(何してるは、こっちの台詞だぞマリア……)
「大丈夫だ……マリアのほうこそ逃げろ…割って入った意味がなくなるだろ…」
「やっぱり、そういうことだったのね……命を投げ出すような馬鹿な真似をして……全く……」
「いやいや、命を投げ出すような馬鹿な真似をしたのはマリアのほうだろ……危うく死ぬところだったぞ」
(完全にブーメランだ…)
「私はいいのよ、私は……もう…大人だし……」
「大人でも命を投げ出しちゃダメだろ……」
「……そんなことより大丈夫なの?命だけは取られないように懇願するのよ……」
「勝算はある……うまくいけば…ノービアを救えるかもしれない…」
「勝算って………ノービアを救う……何それ?」
「ま、見守っててくれ」
街の外に着いたようだ。ロイドが振り返る。
「さて、ここらでいいだろ」
ここからの交渉が一番の勝負所だ。
(絶対勝ってノービアを救ってみせる……)
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