第15話

夕刻になると、カイの声が響いた。


「よし!完成!」


俺は気になり、馬車から外に出る。体の調子はほぼ治っている、中級ポーションはすごい。

外では、修理された馬車を中心に作業に疲れたのか、みんな座り込んでいる。馬車の近くには、昨日殺した人攫いの戦利品が積んであり、近くの木には馬が4頭繋がれていた。


(昨日の戦闘で逃げなかったのか?怪我は無さそうだ)


カイの隣に立ち、馬車を確認する。上手く修理できている。


「よく直ったな」

「これだけ人数がいれば楽勝だ」

「そう言うわりには、時間かかりすぎだろ」

「木から板材を作るのが大変なんだよ。本当は乾燥が必要なんだが売りに出すなら別にいいだろ」

「馬車と馬、全部売るのか?…片方残しといても戦利品回収には…使えないか…」

「フッ、それを決めるのはお前だろ?馬車も馬も、殺した奴の装備も全部お前の戦利品だ」


カイが笑いながら告げる。


(そうか…全部俺のか…でも…)

「お前らスカベンジャーだろ、戦利品は奪うもんだ。この馬車は修理された時点で奪われたようなもんだから、お前らにやるよ。今なら馬2頭もつけてやる」


全員一瞬驚き、笑い出す。

「なんだそれ…」「太っ腹!」「イイネ」「謎理論…」

「にいちゃさすが!!」「すごい…」


「いいのか?」

「餞別だ、金ならあるしな」


それから、みんなで飯を囲み、シャワーではしゃぎ、馬車で就寝する。

子供たちを寝かしつけ、これからの予定を考える。


(寝る前に予定をたてるか……ん…?)

カイが御者台で黄昏ている。俺は子供たちを起こさないように立ち上がる。


「ユザナも寝れないのか?一日中寝てたもんな…散歩でもするか?」


頷きで返し、外に出て、しばらく歩く。


「キャンプは変えるのか?」

「ん?いや、キャンプは戦争の状況次第だな」


スカベンジャーは戦争の後を追うようにキャンプを変える。


「明日は戦争の情報収集だな、でもその前に人攫いの拠点を襲撃する」

「大丈夫なのか?」

「おう。馬車に乗らされる前、拠点には10人いたんだが、ユザナが8人殺したから、あとは留守番の2人しかいない。それなら俺たちで殺せるし、やばそうだったら逃げるよ」

「俺も手伝うよ」

「それはありがたいが、分け前は平等だぞ」

「ふっ…もちろん」


残る人攫いが黄色い闘気を使えたなら、カイ達では勝てないだろう。念のためついていくことにする。


「ユザナは馬車と馬はどうするんだ?」

「馬の扱いなんてできないし売るよ。カイ達は?」

「一応馬の扱いはできるけど、用途も餌代もないし売りだな。いつもの買い取り屋にもってくよ。てかお前、馬の扱いできないならどうやって馬車運ぶんだよ?」

「あー、どうしよう…」

「しょうがない。俺が往復するか……いや…コージが扱えたか?」

「コージ?」

「ああ、今日、馬の世話を買って出てたから、多分扱えると思う」

「どんな奴?」

「どんな奴って…ああ……えっと…黒髪のでかいやつがコージだな」

(あいつか…ついでに他のやつの名前も教えてもらうか)

「他の名前は?」

「赤い髪の男がライ、赤い髪の女がランだ…この2人は兄弟だな。いつも黒い外套着てる小さい奴は、アックス。索敵が得意。…もう忘れるなよ」


カイが優しく教えてくれる。


「リズ、ニア、スフィアは?」

「お前…」


カイがジト目で見てくる。

「あんなに仲いいのに、名前も分からないなんて、あいつら泣くぞ…」

「わるい…」

「まぁ、しゃーない。…一番お前に懐いてる明るい茶髪がリズ、その後ろにいつも隠れている黒髪がニア、無口な金髪がスフィアだ。絶対間違えるなよ!」

「ああ、もう大丈夫。覚えた」

「どーだか…」


ものすごい剣幕で、釘を刺される。散歩していると近くに大きな岩を見つけたので休憩がてら2人並んで座る。星がものすごく綺麗だ。


「あー…ほんと…もう少しで、奴隷になるところだった……2年前ユザナを拾って本当に良かったぜ」

「?拾われた覚えないけど…」

「あの時は混乱してたからな。お前、あのとき戦場のど真ん中にいたんだ、無理して俺が拾わなかったら死んでたぞ」

「そうなのか…戦場で拾われたなら、俺はカイの戦利品だな。ハハッ…いい拾い物したな…」


(知らなかった。本当に覚えていない。今俺がここにいるのは、カイのおかげなのか。お礼は言わないが心の中で感謝だけしておこう)


「ほんとだよ…その優秀な戦利品が勝手にどっか行っちまうんだもんな、困ったもんだ…」

「名残惜しいなら、ついてくるか?」

「え?…」

「ノービアの予定が終わったら、暇になる。金もあることだし、15まで狩りの練習でもしながら過ごそう。あと2,3年で冒険者だろ?」

「狩りの練習か……確かにあと2年で俺は15だが、あの3人はどうするつもりだ?」

「もちろん、連れていくよ。他の連中も付いてきたい奴は付いてきていい。その場合馬車での移動になるから御者のカイが必要になる。カイが来ないなら1人旅だな…どうする?」

「どうするって…いきなりだな…」


カイを旅に誘うも、悩んでいるようだ。


「……1日時間をくれ……」

「もちろん……、俺さ、昨日見たって言ってた、カイとリズ、ニア、スフィアで冒険者になって暮らしてるって夢、おもしろいと思ったんだ。なんか幸せそうだなって……だからさ、いい返事を期待してるよ」

「……」


(俺が幸せになってはいけないことぐらい分かってる。でも、目的を果たせたとき、幸せになってもいいと思えたとき、取りこぼすことがないように今を生きたい……)

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