第14話

目覚めると、馬車の中だった。すごく体がだるい。なんとか立ち上がり外に出る。太陽が眩しい。


「にいちゃが起きたー!」「にー!」「!」


子供たちに見つかり、群がられる。みんなも近づいてきた。


「ありがとう!」「体は大丈夫か?」「もう終わったかと思ったぜ、感謝する」「お前あんなに強かったんだな」


それぞれ言いたいことを言ってくる。バンダナが前に割って出る。


「よぉ、回復したか?」

「ああ、みんな無事でよかったよ」

「お前のおかげだ。まさに救世主様だな」

「ハハ…ここは?」

「街道から少し離れたところだよ。お前急に倒れるから死んだのかとビックリしたぞ」

「あー、限界だったんだ。許してくれ」

「救世主様を責めたりしないさ。服は穴も開いて、血で汚れたから変えといたぞ。傷はなさそうだったが、本当に大丈夫なのか?」


バンダナが心配してくる、みんなも気になるのか黙って聞いている。


「中級ポーション飲んだから多分大丈夫…」

「中級ポーション!?マジックポーチにも驚いたが、まさかあれ全部ポーションじゃないだろうな?」

「鞄…漁ったのか…?」

「替えの服を見つけるのに仕方なくだよ!お前奇麗好きだったから、持ち歩いてるかもしれないと思ってな。本当にあるとは思わなかったけど……悪かったよ…だけど俺たち漁り屋だぜ、仕方ないだろ…」


バンダナが慌てて言い訳を述べている。俺もスカベンジャーだ、そういわれると痛い。

周りは、中級ポーションとマジックポーチの話でざわついている。


「ん…」

まだ体が本調子じゃない、少しよろける。群がっていた子供たちに支えられた。


「大丈夫か!?」

「ああ…」

「馬車で休もう。お前たちは作業に戻ってくれ」


馬車の中まで移動し、壁にもたれかかる。子供たちも含め、みんな離れていく。


「にいちゃ、早くよくなってね!」「よくなって…」「…」

「ああ、頑張るよ…」


俺は馬車で安静にする。バンダナは残って、話を再開した。


「マジックポーチの中は、着替え以外手を付けてないぞ。見ただけだ」


まだ、言い訳を続ける。


「もう別にいいよ…それより作業って?」

「恨むなよ…作業ってのは、壊れた馬車の修理だ。御者台以外は大丈夫だったから、直して売りに出す」

「ふーん……で、これからどうするんだ?」

「…これから?これからって、俺たちはスカベンジャーだ。15になるまで死体漁るしかないだろ?15になったら冒険者か傭兵、それが俺たちが生き残る方法だ。お前だってそうだろ?」

「そうか…そうだよな……でも、悪い。俺は、もうできそうにない…」


俺は、契約で手紙を北の国まで届けに行かなければならない。バンダナがそれを不思議がる。


「ん…どうして? ああ…そうか、ポーション売れば金持ちか。それに1人で大人8人も殺しちまうんだ、違う仕事のほうが儲かるか?」

「北の国に予定ができた。そっちに向かう。」

「北の国!?それってノービアか?ポーションにマジックポーチといい、なにかあったのか?」


北の国はノービアというらしい。いろいろあった。契約させられたり、シャワー浴びれたり、平原で襲われたり、腹に穴も開いた。けど、こいつとももうすぐお別れだ。特に語らなくていいだろう。


「ちょっと手紙を届けに行く。大事な用事なんだ」

「手紙?…そうなのか……じゃあ、もうすぐお別れか……」

「そう…お別れだ…よくあることだろ?」

「よくあること……そうだな…。でも、なんか……お前とはずっと一緒に生きてく感じがしたんだよ」

「……なんだそれ…フッ……」


驚きで思わず笑みが出る。男に言われても嬉しくないが、意外と悪くはない。


「笑うなよ!お前と俺にリズ、ニア、スフィアの5人で冒険者になってる夢をたまに見るんだ、それのせいだ!」

(いや、その言い訳のほうが恥ずかしい気もするが……リズ、ニア、スフィアは子供たちのなまえなのだろうか…)

「なまえ…」

「ん?ああ、悪い。お前、名前嫌いだったな」

(俺は名前が嫌いだったのだろうか…)

「?」

「いくら教えても、名前で呼ばないし、お前の名前も聞いたことない。途中からすごく嫌がるから、お前の前じゃ名前は禁句だったんだぞ。めんどくさい」

(そうか…別れが続いたときに、辛くなるから名前は覚えない…そう決めたんだった…)

「悪かったよ…」

「今でも嫌なのか?離れることになるなら、俺も、みんなも救世主の名前くらい聞いておきたいだろ?」

(そういわれても…、俺は名前を捨てたんだ)

「別に嫌ではない」

「そうなのか?じゃあ、訳あって本名が使えないのか?魔法が使えるし、貴族の隠し子とか?」

「ずけずけくるな…別に…名前がないだけだよ」

「…名前がない…なんだよそれ、そんなの勝手につけちまえばいいじゃないか」


バンダナが笑いながら言う。


「そんな奴、孤児にはいっぱいいるぞ。ニアの名前だって俺がつけたんだ。なんなら今つけちまうか、俺が救世主にぴったりのありがたい名前をつけてやる」

(偽名ってやつか、別にあってもいい。あってもいいがこいつに付けられるのはなんか癪だ)

「んー」


バンダナが勝手に考え始める


(こいつにつけられる前に自分でつけちまうか。なんかないか…)

(名前、名前……名前といえば、どうしてステータスには名前が反映されないのだろう…?いや、別に名前はステータスとは関係ないか…ステータスといえば俺のステータスの一番上には謎の単語があったな…確か……)

「よし、決めたぞ!お前の名前は「user7」カエ…え? ゆーざーなな?」

(バンダナが名前を決めようとしていたから、咄嗟に謎の単語を発してしまった)

「ああ、俺の名前はuser7でいい」

(まあ、偽名だ。別になんでもいいだろう。こいつに決められるよりはましだ)


「ゆーざーななか、んー呼びづらい名前だな…ゆーざーな、ゆざなな、ゆざーな、ゆざな…ユザナ!いいな!じゃあこれからお前はユザナだ」

(勝手に略された……)

(…ユザナ…ユザナか…なんかむず痒い)

「いいよ…それで…」

(しょうがない、別に悪くはないしな)

「んじゃ、俺も手伝いに行くかな、あまり長居するとさぼりだと思われちまう。ユザナはゆっくり休んどけよ」

「ああ」


バンダナが立ち上がり、歩き出す。


「なぁ」

「ん?」

「名前…ありがとな…カイ」


バンダナの少年カイは振り返り笑顔で答える。


「こっちこそ、助けてくれてありがとな!ユザナ!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る