第12話


「ん……やばっ!」


日暮れまで目を閉じて魔力を回復させようとしていたら、いつのまにか眠ってしまった。


辺りはすでに暗く、時刻は19時だった。急いで、地図を起動して、街道を確認する。


「ふっ……」


あまりのタイミングの良さに、思わず笑ってしまう。たった今、2台の馬車がキャンプの入り口を通過した。その護衛の内2人が、あの日拠点を襲いに来た人攫いと一致していたのだ。


「準備するか…、待ってろよ…みんな…」


魔力は全回復している。魔道具には、魔道具魔力250、自己魔力50が入ってる。魔法換算すると、自己魔力で6発、魔道具魔力で2発分だ。準備を急ぐ。




数刻後、2台の馬車が目の前を通り過ぎるのを物陰から確認する。敵は護衛は6人、御者2人だ。隠れて、1人ずつ魔道具でステータスを確認したところ、前の馬車の御者は一般人程度のステータスで、後ろの馬車の御者は最大魔力量が135と多かった。おそらく魔法使いだろう。護衛6人のステータスは平均20で特に突出したステータスはなかった。護衛は先頭、真ん中、最後尾の左右バラバラに陣取っている。確認が終わるとリングの魔道具は戦闘では使わないので、魔道具魔力だけ50ほど残し、後は抜き取る。まだ、この作業だけ時間がかかるのだ、戦闘中にはできない。


(闘気使いが何人かいるはずだ…全員闘気使いとして対処したほうがよさそうだな)


敵は護衛6人、魔法使い1人の7人と仮定して行動する。敵が7人なら許容内だ。普通の御者は最後に対処する。最悪逃げられてもいい。


覚悟を決め魔力を充填する。


物陰から音を立てないように街道に出る。馬車は20m先だ。スカベンジャーで磨かれた隠密行動を駆使し、最後尾の護衛に近づく。


(よし!戦闘開始だ!ウィンドカッター!)


射程内に入った最後尾の護衛2人に対して、両手の手首からウィンドカッターを1発ずつ撃ち、同時に真っ二つにする。攻撃後すぐ馬車に向かって駆ける。

(まず2人)

駆けた勢いのまま馬車の下に滑り込む。御者台の下まで到達すると、右手で真上にいるはずの魔法使い、左手で真ん中左の護衛を狙ってウィンドカッターを撃つ。

(ウィンドカッター)

御者台ごと魔法使いを破壊した。轟音が鳴り響く。真ん中左の護衛に着弾したか確認している暇はない。壊れゆく馬車に巻き込まれないよう右側に脱出する。

(3人目!)

破壊音により、残りの護衛が敵襲に気づく。


「ぐぁぁ!」

「なんだっ!」

「敵襲!!」

「チッ!」


敵が各々の反応を示し、警戒のため闘気を纏う。闘気は魔法に対する絶対的防御だと言われているため、戦闘時に闘気は必ず纏う。

脱出の勢いのまま真ん中右の護衛に向かって走る。敵は赤い闘気を纏っているが、唐突な襲撃に対応しきれていない。俺は闘気に構わず両手を相手に向け攻撃する。


「ウィンドカッター!」


2発のウィンドカッターの内、片方が敵の闘気を破り、もう一方が敵の体を切断する。いつもの取って置き、魔法の2重発動だ。

(4人目)

少し距離を置き魔力を魔法陣に充填する。壊れた馬車に隠れる。


「いでぇぇ!」

「大丈夫か!?」

「何やってんだよッ!!」


真ん中左の護衛が大声で喚いている。敵の魔法使いを倒すのと同時に放ったウィンドカッターはしっかり当たったようだ。あの角度からだと足しか狙えなかったが、しっかり切り飛ばすことができ、戦闘不能にできたようだ。


(残るは、護衛2人に御者1人か…)


MP 9/110、魔道具内残存自己魔力50、魔道具魔力58

充填済み魔法陣4


魔術は今日の昼の内に習得済みだ。2種類の魔力を使えることに気づいてからは簡単だった。右手は自己魔力、左手は魔道具魔力が下地になるように魔力で満たす。魔法陣を描いたインクに下地とは反対の魔力を流して、魔法陣を起動させる。後は必要魔力になるように指で魔力を充填させればいつでもイメージだけで発動可能な魔法陣が完成される。ポイントは、必要魔力以上で魔法陣を起動させないことだ。余剰魔力は魔術発動後、霧散し無駄になる。ちなみに、風魔術の必要魔力は、自己魔力で12、魔道具魔力で48だった。魔法のちょうど半分。女神さまは、やっぱり強欲だ。


(開幕4人を魔術で倒せたのはでかい。最後の1人は魔法を使ってしまったが、大分魔力を節約できた)


壊れた馬車の物陰から敵を視認する。残る先頭にいた護衛2人は、未だ足が切断された痛さに叫んでいる護衛に寄り添っていた。御者は困惑していて、なにが起こっているのか分かってなさそうだ。


「たすけてぇぇ」

「おいおい、しっかりしろよ」

「バカどもが、油断しやがって!」


(2人ともしっかり闘気を纏っているな、油断しているふりをして誘っているのだろう。位置もきっとバレている。思わず不意打ちをくらっても、闘気が魔法から身を守る。敵が魔法使いだということも、気づいているはずだ)


1人は赤いオーラ、もう1人は黄色いオーラの闘気を纏っていた。


(黄色いオーラ…)


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