第6話

(朝日が眩しい…ベッドが柔らかい…)


夢だ。俺の寝床はこんなに柔らかくない。前住んでいた家の記憶だ。昔はこの時間、妹が起こしに来るまで、二度寝に勤しんでいた。

(懐かしい…もう味わうことのできない時間だ…今起きれば家族に会うことができるだろうか……?)

(起きよう……ベッドからじゃない…夢から)




明晰夢は簡単に解ける。覚めない夢はないが悪夢は簡単に解けてはくれない。

いつもの寝床じゃない、路地裏だ。昨日のことを思い出す。


(疲れてたのか、警戒せずぐっすり寝ちまった……これからどうするか……)


予定を考えながら寝床に向かう。お別れ前の最後の確認だ。途中でいつもの食料を数日分買う。これが一番安い。金はマジックポーチ内の財布から出す。結構入ってた。


(最優先は手紙だな…契約不履行による罰がこわい。後は、魔道具の検証に力をつけること…金の余裕はあるし、ゆっくり安全にいこう)


そうこうしているうちに、いつもの寝床近くまで来た。リングの魔道具を起動して、地図を確認する。外に敵はいないようだ。


(外は大丈夫か…地図だと中の確認ができないのは不便だ。慎重に中を確認しよう)


寝床の中は無人であった。荒らされた形跡がある。昨日やってきた奴らがやったのだろう。


(桶は無事か。桶とシャワーは持っていこう)


物資を確保し、寝床を出る。


(みんな……お別れだ……)


いつかくる離別の時が早まっただけだ。どんな形であれお別れはくる、執着していると命がいくつあっても足らない。仕方がなかった。

みんなとの記憶を奥にしまって蓋をする。いつかきっと忘れることができるはずだ。


「行こう」






手紙の持ち主は、北の国の所属だった。まずは、北の国に入ろう。そこから首都を目指す。馬車は使わず徒歩でキャンプを出る。


(昨日の人さらいに見つかるのが怖いから、最初は魔法を使って走ろう)

「ウィンドアーマー」

リングの魔道具も起動する。地図は常に北側が上に表示されているから、進む方向の確認に便利だ。まずは紛争地帯をさけて進むために、北西に向かう。リングの魔道具は、何回も使っているうちに、起動に魔力を1使うことに気づいた。効果は30分で切れるし、意識して切ることも可能だ。


MP 85/110


ウィンドアーマーの必要魔力は24であった。毎回この値なのかも確認が必要だ。


しばらく走るとウィンドアーマーが切れる。平原は走るのも索敵も楽だ。


(距離は稼げた…ここからは普通に歩くか。余裕ができたら魔道具や魔法の検証をしよう)


歩きながら、これからの検証を兼ねて、魔法について思い出す。魔法は、7柱の1柱である女神様が編み出したシステムだ。教会で高いお布施を払い、女神様に祈って魔法陣を登録する。するとあら不思議、魔力を対価に登録した魔法のイメージと魔法名の詠唱だけで魔法が発動する。この世界では、お金があれば誰でも魔法使いになれる。俺はウィンドアーマー、ウィンドバースト、ウィンドカッターの3種類の魔法を登録させてもらった。


適正属性の確認も教会でできる。これは祈りではなく魔道具だ。俺は風属性のみだった。運がいい奴は、適正が2,3個あったり、上位属性だったりするらしい。ちなみに、適正属性じゃない魔法も使えるが、必要魔力量が跳ね上がる。そのため、最大魔力量が低い人間は、適正属性以外発動できない。属性の種類は、基本属性が火、水、風、土、光、闇の6種類、上位属性が氷、爆破、樹木、金属、雷、空間の6種類がある。このほかにも最上位属性や特殊属性が数種類あるらしい。


次は、魔法陣だ。これは魔道具に刻まれていたり、魔法を登録するのに用いられたりしている。円形に幾何学模様が描かれていたら大体魔法陣だ。魔法陣は魔力を流すと魔法が発動する。そうして発動される魔法を魔術という。

魔術は、女神様ではなく7柱の1柱である太陽神様のシステムだ。魔力を用いて行われる術式は、ほとんど太陽神のシステムらしい。魔術は、同じ効果の魔法と比較しても少ない魔力量で発動できる。しかし、毎回魔法陣に沿って魔力を流さなければならなく、速射性にかける。魔法も魔術も一長一短だが、魔術は魔法陣を刻むのが難しいらしく人気がない。俺もさっぱりだ。女神様が強欲でなければ魔法1強だっただろう。

人気はなくても、魔法陣の内容は機密情報らしく、魔術師は魔法陣を使い捨てにしたり、見られないようにしている。教会も登録の時でさえ、魔法陣を見られないようにするし、魔道具も魔法陣は見えないところに刻まれており、壊すと消えるらしい。魔法陣はなかなかお目にかかれない技術だ。


(…でも…この魔道具、魔法陣が丸見えなんだよなぁ…)


リングの魔道具についてる水晶に目を向ける。そこには魔法陣が数段重なって表示されていた。


(製作者は、絶対解析されることはないとうぬぼれていたのだろうか。それに、この魔法陣の量だ、地図やステータス以外にも機能があるはず。使用魔力量が極端に低いのも秘密があるのだろう、謎の多い魔道具だ)


それからも、検証内容を考えながら北西へと歩き続ける。


日が暮れそうだ。辺りを見回し寝床になりそうな物陰を探す。平原ではなかなか見つからない。木があれば、丈夫な枝に体を縛って寝るのもいい。

数刻後、ちょうどいい物陰をみつけた。辺りを散策し生物がいないか確認する。人や魔物は敵、野生動物は食料だ。


(誰もいないな…飯食ってシャワーでも浴びるか)


飯を食い、今日のご褒美シャワーを浴びる。今日の服を洗濯し、体が乾いたら予備の服に着替えて寝床に入る。


(日が暮れてからの移動は疲れるし、危険だ。日が暮れたら寝て、日が昇ってる間は常に移動できるような生活をしよう)


現在の魔力を確認する。

MP 66/110

シャワー前は最大の110で、水の魔道具起動後は60だった。時計を確認すると、起動後からもうすぐ1時間が経過する。


(水の魔道具の必要魔力量は変わらず50か。起きてるときの魔力回復量は1時間で約6ぐらいだ。睡眠時の魔力回復量は1時間で約22だったはずだ。結構差が出たな……)


ほかにもいろいろ確認したいが、万が一のため魔法は2発分残しておきたい。


(悩むな……1時間ちょっと寝れば魔法1発分は回復するんだよなぁ……、今日はやめとくか……魔力総量がもっと増えればもっと検証できるんだけどな……)


リングの魔道具の起動を止め、今日は眠りにつく。


(魔法のシステムを解明して、少しでも強くなれば、明日も生きていけるはずだ。頑張ろう……)

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