敵国の兵士たちと色々あって仲間になったので一緒に冒険を始めることにした

ニト

第0章 前置き

プロローグ



 光の国と闇の国。世界と共に生まれた国であり、神々が作った世界最古の国である。

 その2つの国はとある山の中にあり1つは山の中にある開けた平地。もう1つは山の中にさらなる山がありその山脈付近に位置する。

 山を覆い隠すかのように濃い霧が1年中漂いとても強い魔獣と精霊が世界最古の国を見ようと足を運ぶ人々に牙を向ける。そんな伝説やお伽話のような場所を下界の人々は楽園、又の名を――。


「エデン……かぁ」

「どうしたんだリリィ」


 朝日がよく見える崖の上の花畑。そこに1人で立っていた少女はリリィと呼ばれた。白銀の髪とオーロラの瞳を持つ少女ことリリィは声のする方へと振り返る。するとそこには黒髪と赤い瞳を持つ少年、クロトが立っていた。


「なぁんだクロトか」

「なんだとは酷いじゃないか」

「また、ピーニャがイタズラしにきたのかと思ったのよ。身構えて損しちゃった」


 そんな彼女の心境を聞いたクロトは彼女の昔馴染みであるピーニャのイタズラ好きにも困ったものだと思ったが、誰も止められないのは目に見えているので苦笑いを浮かべるしかなかった。


「何を見てたの?」

「アレだよ」


 リリィはそう言って高さ1万メートルはある山を指差す。視線の先を見たクロトは納得したような表情を浮かべて「なるほどね」と呟いた。


「なんか変な感じよね」

「ん?」

「少し前まではあそこで暮らしてたのに……今はここで君たちと一緒に暮らしてる」


 少し前までは想像もしてなかったと続けて言うリリィにクロトも確かにと頷いた。

 彼らは少し前まで敵同士だったのだ。国や信仰する神が違うからと深く考えず、先祖たちが続けてきた戦だからと武器を構えて命を奪い合った。

 彼らの出会いもそんな戦争の中でたまたま敵として刃を交えた時に初めて顔を合わせたのだ。


「産まれた場所が違うだけで敵対するなんておかしいってなんで気が付かなかったんだろうね」

「大人たち……いいや、オレたちも頭が硬かったからかな?」


 冗談混じりで言うクロトにリリィは鈴のような声で笑う。そんな彼女の笑い声に釣られてクロトも笑う。

 そんな2人の前にライオンと鷲が合わさったような生物、グリフォンが風を巻き起こしながら大空へと舞い彼らの故郷であるエデンの方へと飛び立つ。


「グリフォン……」

「エデンならともかくここら辺で見るのは珍しいって聞いたけどなぁ」


 クロトの口から溢れたエデン、又の名を楽園。それはリリィとクロトが暮らしていた光の国と闇の国がある場所。今、彼らがいる下界では伝説上の場所やお伽話に出てくる想像上の場所だと言われていた。

 しかし、エデンは存在する。その証明はクロトたちであり、彼らの他に下界へと迷い込んだ同胞たちだ。


「本当に私たち以外にもこの世界に来た人がいるのかな?」

「ギルドマスターはそう言ってた。それにこっちの人たちはオレたちと違って道具に頼らないと魔法が使えない。だから魔法を補助する道具も作れない。作れるのはオレたちの同胞だけ」


 この下界に産まれた生物は一部を除いて魔法が使えない。道具を使うか体に直接魔法陣を書き込むしか方法がないのだ。そして、その道具と魔法陣を開発するのもまたエデンで産まれた者にしかできない。


「会えるといいなぁ」


 すでに遥か遠くにまで飛んでいったグリフォンを遠目に見るリリィの眉は少しだけ下がっており彼女の瞳はどこか迷いがあるように見える。


「帰りたくないの?」

「そんなことないよ!お父様やお母様のことが心配だし……あそこは私の故郷だもん。でも、帰ったらまた君や君たちの仲間と戦わなくちゃいけなくなる。それは……嫌だなって思っただけ」


 そんな彼女の思いにクロトも同意する。ここまで関わってリリィたちの心に触れた彼もまたもう、リリィたちと命の取り合いなどしたくないのだ。


「オレも同じ気持ちだ。オレだけじゃない。シュウたちも同じ気持ちだ」

「ピーニャだって顔には出さないけど君たちのことはもう仲間だって思ってる。戦うなんて……無理だよ」


 初めて会った時は仲間になれるなんて思ってなかった。一緒に苦楽を共にした同胞たちの命を奪った相手と仲良くなるなんて夢のまた夢だと思っていた。でも、彼らにも大切な人がいて、辛い思いをしたのを知った今はそう簡単に敵だと突き放せなかった。

 リリィは小声で「戦争なんて無くなればいいのに」と溢す。それはみんなが思っていることだろう。だけどそう簡単にいかないのが現状だ。それをわかっていてもリリィには笑顔でいてほしいと願ったクロトはふと思い出したことを口にする。


「シュウが前に言ってたんだ。『どんなに困難な壁があっても俺がこの拳で風穴開けてやる。そうしたら壁なんて簡単に通り抜けられるだろう?』って」

「え?」

「オレたちだけじゃ戦争は止められない。でも、アイツらが居たら機転を変えることぐらいはできるってオレは思うよ」


 笑って言うクロトにリリィはキョトンとするがすぐに口が緩まる。クロトの親友であるシュウは脳筋なので自信満々な顔で拳を握る彼の姿を想像したのだろう。曇っていたオーロラ色の瞳がキラキラと光を放つ。それはまるで絶望から希望を見出したようだった。


「……ふふふっ。何の根拠もないのにすごい自信だね」

「いやー、シュウなら山でも穴を開けちゃいそうだからさ」

「確かにシュウならやっちゃいそうね」


 不安な気持ちがなくなったのかリリィに笑顔が戻る。その様子にクロトの心も穏やかになり思わず彼女の美しい銀髪を黒い手袋越しに優しく撫でた。

 黙って髪をいじられていたリリィがクロトの手袋をジッと見つめるのでクロトは「どうかした?」と声をかけると彼女は少し考える仕草を見せてから口をひらく。


「まだ怖いの?」

「……まぁね」


 心配そうにクロトの顔を覗き込むリリィに彼は顔を逸らし気まずそうにする。彼女に自分の力が効きにくいことは知っているがそれでも大切な人を傷つけるのが怖いクロトは素手で彼女に触れることを拒んだ。

 しかし、リリィと出会うまでのクロトは自分から他人に触れようともしなかった。そのことを考えると成長している方だとクロトは思い直し彼女にそれを伝える。


「これでもマシになったんだよ」

「知ってる。カエデが言ってた」


 クロトの昔からの友人であるカエデが言うならそうなのだろうとリリィは口にするがどこか納得していない様子だった。

 それに気がついたクロトが首を傾げているとリリィは自分より背が高いクロトの顔を掴むために手を伸ばし、掴んだ彼の顔を無理やり自分の方に近づけた。


「誰だって仲間に自分の力が信じてもらえなかったら不機嫌にもなるわよ!」

「し、信じてないわけじゃないよ……」


 あからさまに不満ですと言わんばかりの顔をするリリィにクロトは困ったように眉をハの字にする。彼の困った顔を見たリリィは少しバツが悪そうにするがすぐに小さく首を横に振ってもう一度目尻を上げる。


「もし、君が誰かを傷つけても私が治す。もう、君に怖い思いも寂しい思いだってさせてあげない」

「……頼もしいなぁ」

「本当にそう思ってるの?」


 クロトの言葉に納得いかないリリィはジト目で彼を見つめる。その視線に思わず「体に穴が開きそうだな」と心の中で呟いた。

 それでもリリィの心配するような視線は心地よくクロトの精神を安心させてくれる。彼は自分の顔を掴むリリィの手にそっと自分の手を添えた。


「思ってるよ」


 心からの言葉が思わず口から漏れる。飾り気もないが偽りも一切ない言葉にやっと満足したのかリリィは頬をほんのり赤く染めて頷く。

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