怪盗お姉さんと少年助手〜拝啓、迷宮攻略者さま。貴方が獲得したダンジョンコアを頂戴します。
黒姫小旅
おねショタ怪盗と無限の生命
PREPLAY
第1話 現代ダンジョンマスターにインタビュー!
週末の午前10時36分。
CMが開けて、朝のワイドショー番組は次のコーナーへと移る。
『ワタシは今、C県はM市にあります「イワオ医療研究ダンジョン」からお送りしていまーす!」
ベテランの女性リポーターが、マイクを片手に元気な声を出していた。
黒からブラウンへとグラデーションのあるセミロングヘアと、豊かなバストが動作に合わせてユサリと揺れる。左下にホクロのついた唇がハキハキと開閉するたびに、白い歯が覗いて光を反射する。
『こちらはごく最初期にクリアされたダンジョンでして、攻略者であるイワオさんは医師免許を持つ超インテリな兼業探索者としても有名なんですねー!』
画面上には、リポーターの紹介に合わせて『創立5年!』というポップが浮かぶ。記録にある最初のダンジョン発見が6年前。今回のものは、ようやく攻略テクニックが確立してきた時期だ。
通称ダンジョン。その正式名称は、『怪盗王の遺産』という。
「怪盗王の遺言にもとづき、かの者の遺産を公開する」――と、突然に上がった正体不明の声明に合わせて、ニホン国の各地に次々と機械仕掛けの迷宮が出現した。
あきらかに現代科学の域を超えたスーパーテクノロジーで作られたダンジョンは、危険な警備ロボットやトラップで満載だ。探索しようと踏み入った人間の多くが命を落としてきたが、もしも最奥まで踏破することに成功すれば、ダンジョン内の設備を意のままに操れるアイテム『ダンジョンコア』が手に入る。
管理者権限を掌握して『ダンジョンマスター』となった探索者は、チートじみた超技術を独占することで莫大な富を得て、難関をクリアした偉業に対する惜しみない称賛を浴びる、地球上でもっとも羨望される存在なのだった。
『それではさっそく、院長室へとお邪魔させていただきましょう。もしもーし、ダンジョンマスターのイワオさんはいらっしゃいますかー?』
『はいはい。どうぞお入りください』
重厚な扉の前で、リポーターがわざとらしくノックをすると内側から落ち着いた男性の声が返ってきた。
入室すると、シックな雰囲気で統一された高級調度が並ぶ部屋へとカメラがズームし、奥の執務机に着く中年男性を映し出す。
――中年?
と、首を傾げる視聴者も多いかもしれない。
紹介によれば36才とのことだが、ハリのある肌や瑞々しい頭髪、勢いのある眼力は、20代前半でも通用しそうな精気に満ち溢れている。
『はじめましてー。それにしてもお若いですねー。世の女性を代表する身として言わせてもらいますが、ジェラシーが止まりません』
『いやいや、ハハハ。これも我がダンジョンの恩恵でしてな』
半分本気で嫉妬しているようにも見えるリポーターに、イワオは大口を開けてほがらかに笑った。
『ダンジョンの能力というのは一つ一つ異なるのですが、うちの場合は人間に生命力を注ぎ込むことができるのです。これによって、体を丈夫にしたり、老化を止めたり、傷の治りを早めたりする効果が期待できるのですな』
『おおー。ということは、つまり……事実上の不老不死ってことも?』
『……そう思って来院される患者さんも多いのですが、どうにもどうにも。元気になられる方もいますが、体に合わないのか逆にダメージを受けてしまう方もいるのです』
『なるほどー、リスクもあるんですねー』
『私が若い姿でいられるのも、ダンジョンの力を調べるため日常的に生命力を注入して、どんな反応があるかデータを集めているのが大きな理由なのですよ』
『ご自分の体を実験台に! ご立派すぎて、うらやんでいた自分が恥ずかしいですー』
鷹揚に語るイワオを、リポーターは巧みにヨイショしながら、ダンジョン探索の苦労話や今後の展望について聞き出していく。
そうして対談が一区切りついて、いよいよ件の生命力注入とやらをリポーターが体験してみよう、という運びになった時であった。
『待ってましたー! テレビの前の皆さんもお待ちかね。在りし日の若々しさを取り戻しにいっちゃいまs』
『院長、大変です!!』
リポーターのハイテンションをぶった切るように、イワオの部下が飛び込んできた。
『なんだなんだ。今は生中継をしているのだよ?』
『それどころじゃありません! これを読んでください』
動転した様子の部下は、テレビカメラに映っているのもお構いなしに、手に持っていたカードを差し出した。
イワオはカードを受け取り、そこに書かれている文章に目を通すと、顔色を失くす。
……あなたの管理する『イワオ医療研究ダンジョン』、もとい怪盗王の遺産が一つ『冒涜スル死霊術士ノ魔法書』のダンジョンコアをいただきに参上いたします。――怪盗王の末裔『火天のウリエル』より。
『こ、これはこれは……』
『大変です! たった今、世間を騒がすダンジョン怪盗のウリエルから予告状が届けられました! 繰り返します、怪盗ウリエルより予告状が届きました!』
降って湧いた緊急事態に、リポーターが興奮して喚き立てる。
同行していた番組スタッフたちも、ざわざわと騒いでいる。
部下は右往左往しながら、ふと思い出したように警察へと電話をかける。
大騒ぎになった現場で、イワオただ一人だけは微動だにせず、冷たい目で予告状を睨みつけていた。
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