第4話『夕凪の反撃、草よ眠れ』

午後五時、気温三十度。

さっきの猛暑とは打って変わり、やわらかな風が庭を通り抜けていく。

暑さに焼かれていたアスファルトも、少し冷たい空気に触れてほっとする。

その瞬間、6ペリカの中にある“やる気スイッチ”が、ひとつ確実に切り替わった。


「……よし、いける!」


冷房の効いた部屋で数時間、汗をかいた体を休めた。

汗を流したことで、心も少しだけリセットされた気がした。

そして、彼女の目には昨日見た「戦場」が広がっている。


すでにメヒシバやオヒシバは少しへたってきたように見える。

カヤツリグサも、その存在感を少しだけ薄めてきていた。


「だが、まだ安心はできないわ」


再び庭に足を踏み入れると、すぐに視界に広がるのは、昼間の荒れ果てた状態と、今、復活しつつある雑草の群れだった。

しかし、この涼しさが、まるで自分の味方のように感じられる。


「お前たち、昼間の勢いを思い出してみなさいよ!」


6ペリカは改めて力を込めて土を握り、ひとつひとつの草に狙いを定めた。

今ならば、体力も回復している。

ときおりふっと風が吹き抜け、草たちがその度に小さく揺れる。

でも、もはや6ペリカには怖くはなかった。


「今日は、絶対に負けない。」


その言葉は、**“前回の敗北”**を思い出させるものだったが、それでも、今日は自信があった。


最初に手をつけたのは、前回の戦で力を見せつけてきたメヒシバ。

その根をしっかりと引き抜き、思いっきり土から引っこ抜く。


「ほら、抜けた!」


力が抜けた瞬間、気持ち良さに思わず顔をほころばせる。

その後、オヒシバ、カヤツリグサ、ゼニゴケと次々に片付けていく。

確かに、まだあの暑い日中のように威圧的な力はなかった。

雑草たちも、すこし静けさを取り戻し、暴れん坊だった頃の姿を薄れていった。


「今日は、この庭を取り戻す!」


その決意を胸に、ひと株ひと株、確実に根を断ち切っていく。

そして、ようやく残りわずかなオヒシバとカタバミを倒しきったところで、

最後の一息、ひとりの“勝利者”として庭に立ち尽くす。


「やった、やったわ……!」


少し息が切れているけれど、内心では大きな達成感が広がっていた。

不思議と、あの敗北した日と比べると、体力的にはまだ余力が残っている。

それもこれも、冷やっとした風と、涼しい夕暮れの時間のおかげだ。


「お前たち、また生えないようにしっかり対策しておくわよ。来年も絶対、こうはさせない!」


ひと通り抜いた草たちを、土の中に叩き込み、後はじっくり根を取り除く作業に戻った。

空の色が、オレンジから紫に変わり、最後の光が庭を包み込む。

その頃、太陽はすでに地平線の下に沈み、夜が訪れようとしていた。


「……でも、まだ油断できない。明日も絶対、見張っておかないと」


そのまま、6ペリカは庭を見渡しながら、深呼吸をした。

風が心地よく吹き抜ける中で、彼女はしばらく立ち尽くし、余韻に浸っていた。


——やっと、勝利を手にした瞬間だった。


《第四話・反撃記録、完了》

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