第9話、街道の盗賊2
「はっ はっ はっ はっ はっ」
アベルは走った。
アベルは……犬人族は走るのが得意だった、持久力もあり長距離を走るのにも慣れている。昼前に街を出たアベルは、夕刻前には目的の町のダンジョン前ギルドへ辿り着いていた。
「これ、お願いします」
ギルドの受付けに、出発した街のギルドで発行して貰った白魔石の買取り証を出す。
「買取り証? 白魔石ですか……」
ギルド職員の顔が険しくなる。
「どうしたんですか? ココに白魔石の在庫があると聞いて来たのですけど」
ギルド職員は申し訳なさそうに。
「すみません、白魔石は本日の午前中に買い手がついてしまい、もう先方に引き渡してしまった後なのです」
「ええ?! じゃあもう無いの! コレ貰っていたんだけど?」
ギルド発送の買取り証を指さす。
「買取り証は、あくまで在庫のあるギルドでの買取り優先権ですので在庫が無ければ無効になります」
「そんなぁ……」
アベルはずっと走り続けた疲れがドッと出たのか、受付けの前で座り込んでしまった。
「もしかすると……明日になればダンジョンに潜っている冒険者の誰かが持ち帰って来るかも知れませんけれど」
「今、最下層まで行ける冒険者が入っているのですか?」
「辛うじて、ひと組み……」
「クーーーッ」
アベルは明日の朝にダンジョンから出てくる予定の冒険者パーティを待つ事にした。
ギルドで教えて貰った宿屋で横になるアベル。
「テツにぃ、大丈夫かなあ……」
そう考えたあと首を振り。いや、大丈夫だテツにぃは僕を信じて待っていてくれる。僕こそテツにぃを信じて白魔石を持って帰るんだ、僕は信頼されている。そう考えて眠るのだった。
朝一でダンジョン前ギルドに着いて冒険者達の帰りを待つアベル。
「あっ、戻られたみたいですよ」
昨日から顔馴染みになったギルド職員さんが、ダンジョンから戻った冒険者を見つけて声を掛けてくれる。
冒険者達の顔は疲れも見えるが笑顔なので、良い成果だったのだろう。
「お帰りなさい、竜の剣の皆さん」
「あっネネさん! ただいま戻りましたー」
竜の剣と呼ばれた冒険者達はダンジョン職員から声を掛けられて笑顔で答えていた。
「皆さんご無事のようで。嬉しそうにされていますが、何か良い物が出ましたか?」
冒険者達は笑顔で顔を見合わせてから、荷物入れから一つの魔石を取り出し。
「白魔石が出たぜ!」
とギルド職員に見せつけるのでした。
ネネと呼ばれたギルド職員さんは、竜の剣の人たちに笑顔で対応した後、アベルの方をみて頷くと。白魔石を購入したい人がいるとアベルの事を紹介した。
「お前が白魔石を購入したいだって?」
僕がまだ若いから甘く見たのか、ニヤニヤしながら近寄ってくる竜の剣の皆さん。
「相場は分かってるのか? 金貨三枚、坊主に払えるのか?」
ギルドを通して小白魔石を売買する場合。相場は金貨三枚、ギルドの取り分が三割で残りが冒険者達の手に入る。竜の剣の場合は四人パーティなので一人銅貨五百二十五枚だ。
「コレでどうですか?」
僕はネネさんに
相場で売れた場合、ギルドの取り分は銅貨九百枚なので。ギルドに金貨一枚、パーティメンバーも一人一枚ずつになるのでコレで十分だろうと、やってきた街のギルド職員さんの入れ知恵だった。
ネネさんは竜の剣の皆さんの顔を見て頷くと。ギルマスに確認してくると言って奥へ入って行った。
竜の剣の皆さんは驚いたような顔をしている。
ネネさんが戻ると、ギルマスにも了解が取れたと言う事で僕はネネさんに金貨五枚を渡し、僕は小白魔石を受け取る。竜の剣の皆さんはネネさんから金貨一枚ずつを受け取って取引き完了。
「ありがとうございました」
そう言って僕はギルドを出た。
この時アベルは失敗していた、金貨をポンと出した事によりこの冒険者達に金を持っていると思わせてしまったのだ。その為本来なら無用であった
「おい坊主、ちょっと待ってくれよ」
ヒキツクような笑顔で近づいてくる冒険者達
「せっかく良い取引きが出来たんだ、祝いにそこの店で祝杯でもどうだい」
幸にしてアベルは昨晩宿屋に泊まりベッドで充分に睡眠が取れていた。対して冒険者達は討伐後のボス部屋で魔物が出ないとは言え、ダンジョンの中で朝まで過ごしていたのだ、疲れの溜まった体とはキレが違う。素早く体を捻り冒険者達の手をくぐり抜け距離を取る。
「お兄さん達ごめんなさい、僕は急いでいるのでコレで失礼します」
と言って走り去るのであった。
呆気に取られる冒険者達。しかし、アベルに手を出して痛い目に遭い、犯罪者にもならずに済んで良かったのかも知れない。
町を出て、街道に出たアベルは走った。
商人の馬車の横を駆け抜け、路行くひとを押しのけ、魔物を跳ねとばし、金色の風のように走った。
「テツにぃ、待っててね」
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