第3話 幼馴染のギルド
「意外と早かったじゃないか!手紙送ったのに!」
「いや、今日来るのに何で手紙送ってんだよ」
当然のツッコミを入れたせいか、うっと俺に言い返せなくなる幼馴染であったアラタ。
何で俺が今日来るって分かってて配達頼んでるんだよ。実家困ってるよ。
灰色の髪をたなびかせて童顔をこちらへ向けてくる。
こいつがアラタ・シャークアイランド。俺の幼馴染であり生粋の道具職人だ。
こいつが作る道具は普通の道具とは一線を画す。
魔道具という特殊な効果を持つアイテムを作り出せるのがアラタのスキルだ。
最初の頃は大したことは無かったが、今では効果が無くとも俺が使っている剣のように一級品を作ることが出来るようになっている。
その道具を駆使してダンジョンを駆け、成り上がっていった様を手紙で読んだ。
それはもう、小説が何冊分できるかというくらい送られてきた。
流石に多すぎるし脚色したような政治的大立ち回りもあったので、ちょっとキレ気味に『この量になるなら内容を要約して送ってくれ』と手紙を送り返したものだ。
だって3年で一室が使えなくなるくらいの量を送ってくるんだ。これくらい言っていいだろう。
「とりあえず中に入っていいか?積もる話も…………あるだろうし」
ちらりと横を見ると、先ほど俺を尻で吹き飛ばしたシェリーと呼ばれた少女が俺をにらみつけている。
なんだ?謝罪どころか一切悪びれもしないか?
「何ですか?そもそもあなたは誰ですか?」
「シェリー!ごめん、僕から言い聞かせておくから」
「一応さ、ギルドマスターになったってあれだけ手紙で自慢してただろ。教育はいいのか?」
「えーーーっと、その話はいったん置いていい?」
「…………まあ、言い訳は後で聞くか」
路上で、なおかつアラタが所属するギルドの前でいざこざを起こして噂になるのもいけないだろう。
アラタがおずおずとギルド内へ入っていくのについていく。
その後ろでシェリーと呼ばれた少女もついてきて…………
「シェリー、今日はダンジョンに潜ってきてね」
「えー!?」
「えー、じゃありません!しっかり反省してよ!」
ようやく見せた威厳らしい威厳を、それでもどこか青さが残るそれははたから見たら兄が妹を叱っているように見えるだろう。
しっかし誰だ。そういや手紙じゃ他の名前はあまり出ないから忘れてるか?
そんなことを思いつつ入ったギルドは、見た目よりもはるかに広く、そして依頼を受けるための受付というよりかは高級ホテルのロビーと言った感じだ。
めっちゃ金がかかってるだろ、これ。よっぽど稼ぎがよくないと大理石のような石材を使った床や高そうな装飾を施した机と椅子。
そしてそれらに座ってこっちを注目してくる兄さん姉さん達。
全員美形なのがいいなぁ!俺、目つきが悪いから何もしてなくても『怒ってる?』って怖がられたりするんだよ!
「みんな!新しいメンバーだよ!」
アラタが彼ら彼女らに宣言すると、一斉に胡乱な目を向けてくる。
「前から言ってたソウ!やっと怪我が治ったから来てくれたんだ!」
「おい、なんか怪しまれてるぞ」
「そ、そうかな?」
「…………お前、まさか今まで変な詐欺とかに引っかかってたりしないよな?」
「してないよ!」
「そこの人、実際どう?優秀な人材を紹介するとかでスパイ送り込まれたりとか、よく分らんいわくつきの道具をレア物と渡されたり…………」
おいそこ、何故目を逸らす。
イケメンと美女がばつが悪そうに目を背け、残る人たちも苦笑いして視線をそらしている。
「お前、やったな?なあ、アラタ、やったな?」
「挽回は出来たから!挽回はしたから!」
「汚名を挽回してるんじゃないよな?お前は昔から自分の利益にならない事に首を突っ込んでは厄介なことになってたよな?」
「え、ええと…………」
「村を出る時も口酸っぱくして言ってたよな?」
そう、このアラタ・シャークアイランドはトラブルメーカーである。
優しさを持つのはいいが、それが空回りしたり悪意を呼び込んでしまったりすることがしばしばあった。
村の中ではなあなあで済ませることは出来たが、都会に出るとそうもいかない。
なんたって村では隠蔽できても都会は厳しい法律がある。
因習村とかよく分らん概念を持つほどではないと思うが、それでも緩くやってきていたんだ。
そして、ああーというこのギルドのメンバーの顔を見て確信した。
「言え、吐け、何か隠してるよな?」
「ソ、ソンナコトナイヨー」
「おうおう、顔を青くしてそっぽ向くのが昔から得意だったな?変なもの作って迷惑かけたとかないよな?今なら怒らないぞ?」
「えっと…………じゃあ」
「大将!それよりも手続きとか必要じゃないんですかい!」
ちっ、問い詰めようとしたら茶髪犬耳イケメンが遮ってきた。
アラタも「確かに!」という顔でバタバタと詰めていた俺から離れてカウンターへと小走りしていく。
良いように逃げられたな。だけど逃げられたと思うなよ。
そんな俺の視線を感じたのかぶるりと震えるアラタだったが、多少図太くなったのか一筋の冷や汗を流して振り返る。
「この日のために書類は用意してるんだ、あとは署名してくれたら大丈夫だから!」
「いや、内容は読まないとダメだろ」
「大丈夫!、何かあっても何とかするから!」
「大丈夫じゃないだろ」
「何とかなるから」
「…………何やらかした?」
あっ、今度も全員目を逸らした!
「絶対書類関係て何やあっただろ!おい!吐け!手紙に書いてないこと全部吐け!」
手続き云々の前にこのギルドやばいって!絶対何かやらかしてるって!
いくら幼馴染のギルドでも素行に問題があったら入れないぞ!?そこらへん分かってるのか!?
「じゃあー、入団試験で合格したら話すってことでいいじゃない?」
軽い挙手をして意見するのは…………際どい水着のような服にコートを羽織ったピンク髪の美女。
外を歩いたら痴女として通報されたりしない?何らかの宗教上の理由でその格好をしてるの?
「なによ、その菱形みたいに開いた口は」
「いや…………入団試験があるのか?」
「そそ!実力を測るために一騎打ち!ま、ダンジョンの中じゃ一騎打ちなんて言えないけどね」
確かに対人戦とモンスターとの戦いはかなり違う。
昔はアラタと訓練はしても『国崩し』と戦った時は完全に勝手が違っていたから納得できる。
しかし、直接やり合わないと実力が分からないのも確かだ。
「いいだろう、馬車の移動時間が長かったから、ちょうど体を動かしたいと思ってたんだ」
今の俺がどこまで通用するか、たかが3年されど3年、トップクラスまで上り詰めたギルドに所属するのならテストは必要。
「そうこなくっちゃ!じゃ、シェイド、後はよろしく」
「俺かよ!?」
「えぇ…………?」
言い出しっぺの彼女から無茶振りされた青髪の爽やか剣士といった風貌の青年は、自分にはられると思っていなかったのか声を上げた。
大丈夫かこれ、チームワーク組めてる?
ダンジョン内では連携は取れているのかもしれないが、それ以外ではすごく微妙そうだ。
そんなやりとりもアラタは苦笑いして見ているだけだった。
…………割と日常風景だったか。
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