第5話 水の都への手がかり

 黒曜の古代の知識を頼りに、桃源一行は水の都への手がかりを探し始めた。

 黒曜によれば、水の都へと繋がる道を示すとされる不思議な宝玉が、かつてこの鬼ヶ島に流れ着いたという。

 その宝玉は、島のどこかに隠されており、それを手にした者には、水の都への道が開かれるらしい。


「宝玉か……そんなものが、この島に」


 桃源は、 破壊された鬼の宮殿の中で、注意深く周囲を見回した。

 暗い空気が漂う宮殿内には、昔の激戦の跡が色濃く残り、崩れかけた 石造りの柱や、奇妙な模様が刻まれた壁などが目に映る。


「 黒曜、その宝玉について、他に知っていることは?」


 犬彦の問いに、 疲れた様子で椅子に座る黒曜は、ゆっくりと首を横に振った。


「いいえ……わしが知っているのは、 古代の言い伝えのみ……宝玉は光を宿し、持ち主を正しい道へと導く力を持つと……そして、その光は、邪悪なものを退ける力を持つとも……」


 黒曜の言葉に、桃源は強く太刀を握りしめた。

 光を宿し、邪悪を退ける力を持つ宝玉。

 それは、 今の異変を解決する鍵となるかもしれない。


「その宝玉は、島のどこに隠されている可能性がある?」


 猿丸の問いに、黒曜は深く考え込むように、濁った目を軽く伏せた。


「……言い伝えでは……『 偉大なる鬼の心臓があった場所』……あるいは、『 光と闇が交わる場所』……に隠されていると……」


 黒曜の曖昧な言葉に、桃源は 深く眉をひそめた。

「 偉大なる鬼の心臓があった場所」とは、十年前の鬼の長の居城のことだろうか。

 そして、「 光と闇が交わる場所」とは一体どこを指すのだろうか。


「犬彦、猿丸、雉乃。島を二手に分かれて探索する。犬彦と猿丸は、この 宮殿を中心に鬼の長の居城跡を、雉乃は空から島全体を見渡して、『 光と闇が交わる場所』らしき場所を探してくれ」


 桃源の指示に、犬彦と猿丸は 軽快な足取りで 宮殿の外へと向かい、雉乃は高らかに鳴き、大きな羽ばたきで夜空へと舞い上がった。


 桃源は、黒曜と共に、宮殿の中を 注意深く探索することにした。

 古代の壁画や、奇妙な模様が刻まれた石壁などを丹念に調べていく。


「この模様は…… 昔の鬼たちが使っていた魔術的な紋様とは違うな」


 桃源は、壁に刻まれた奇妙な幾何学模様を指さしながら呟いた。

 それは、昔の鬼たちが使っていた、 強大な力強さを感じさせる紋様とは異なり、もっと抽象的で、 冷たい印象を与えるものだった。


「……それは……もっと古い時代の……この島に住んでいたという……『 光の民』の紋様だと……」


 黒曜の 弱々しい言葉に、桃源は驚きで目を丸くした。

「光の民」とは一体何者なのか。

 そんな存在が、かつてこの島に住んでいたという古代の言い伝えは、聞いたことがなかった。


「『 光の民』…… 詳しく教えてくれ、黒曜」


 桃源の問いに、黒曜はゆっくりと語り始めた。


「……遥か古の時代……この島は、悪の力ではなく…… 光に満ちた場所だったという……『光の民』は、 偉大で不思議な力と、美しい光を操り…… 平和に暮らしていたと……しかし…… 巨大な闇の力が島を襲い……『 光の民』は、その光と共に……姿を消した……」


 黒曜の 話に、桃源は強く心を揺さぶられた。

 この 暗い鬼ヶ島にも、かつて光が満ちていた時代があったとは。

 そして、その光の民が残したという宝玉は、巨大な闇を打ち払う力を持つのかもしれない。


 その時、空を飛んでいた雉乃が、 高らかに鳴きながら桃源たちのいる宮殿へと戻ってきた。


「御館様!見つけました!島の東の端、暗い森の中に明るい光を放つ場所があります!」


 雉乃の言葉に、桃源の目に希望の光が灯った。

「光と闇が交わる場所」……それは、 光の民の光が、 暗い闇と拮抗している場所なのかもしれない。


「 黒曜、東の森について、何か知っていることは?」


 桃源の問いに、黒曜はゆっくりと話し始めた。


「…… 東の森は…… 古の時代から……儀式を行っていた聖域だったと…… 光の力が、そこに隠されているのかもしれません……」


 黒曜の言葉に、桃源は頷いた。

 聖域、そこにこそ、水の都への道を示す宝玉が隠されている可能性が高い。


「犬彦、猿丸、戻れ!目的地は東の森だ!」


 桃源は、探索に向かった二匹に 大きな声で指示を送った。

 そして、雉乃が先導し光を放つ場所へと、軽い足取りで歩き出した。

 東の森に隠されているかもしれない希望の光を求めて――。

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