本能 ー 組織犯罪集団との戦い

無邪気な棘

コンフリクト

小説「コンフリクト」


「opening credits」


空港の玄関の自動ドアが開いた。


俺は僅かな荷物を持って外に出た。


この日のマニラは36.2℃だ。8月にしちゃあ、まだ涼しい方だぜ。


俺はサングラスを掛けると、上着の裏ポケットに偽造パスポートを隠した。


それから、空港の路肩に停車してるタクシーを捕まえると、俺は窓越しに運転手に話し掛けた。


片言の英語でな。


「If there is a real estate agency nearby, please go there. I would like to rent a room.(近くに不動産屋があるなら、そこに行ってくれ。部屋を借りたい。)」


俺の名は大浜。俺が何でマニラに来たのかだって?知りてぇえか?なら話してやるよ。


時間をちょっとばかし巻き戻すぜ。


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小説「コンフリクト」


第一話「港」


色鮮やかなネオンが煌めき、街の闇を切り裂いた。街は今夜も眠らない。


「じゃあ、五万だよ。」


野郎がブツを売り捌く。


その様子を俺達は車の中から眺めていた。


うちの加東組のシマは港区にあった。緋陵会系近藤組の傘下のシマの中で無断でシャブを売ろうなんざ、いい度胸してやがる。


「大浜、じゃあ、行くか。」


そう言うと、若頭の高岡兄貴は車を降りた。俺もその後を追った。


「よぉ、兄さん、誰に断って商売してんだ。」


兄貴がそう言うと、男は怯えだした。


「あの…。いや、その…。ここで売ってもいいって言われたんで…。」


男は震える声で答える。


すると高岡兄貴は俺に目で合図した。俺は男の首根っこを引っ掴むと、そのまま引き摺る様にして、車の中へ押し込んだ。


「じゃあ、行くか。」


兄貴はそう言うと、車に乗り、夜の街を走り出した。


湾岸線の長い海底トンネルを抜けると、港が見えてきた。世界中からコンテナが集めらられる場所。


その中には、加東組が取り扱うヤバいブツも入っているのだが、税関の役人には、組織から小遣いを渡してあるから、簡単に通過する。


港の一角に倉庫街がある。その一つ、一番奥の倉庫の前に車が停まった。


「着いたぜ、降りな。」


兄貴はそう言うと運転席から降りて、倉庫の中へ入って行く。


俺は、さっき押し込んだ男を車から降ろし、倉庫へ連れ込んだ。男はガタガタ震えていた。


男を倉庫の柱にロープで縛り付けると、俺達は、男に「聞き込み」を始めた。


「もう一回聞くけどよぉ、誰に断って商売してんだ、ん?あそこはウチのシマなんだよ。」


男は怯えていたが、なかなか話さない。それでいよいよ兄貴は、身体に聞いてみることにした。


男の顔面をこれでもかといわんばかりに殴りつけ、それでも白状しやがらないから、今度は、倉庫に置いてあったバールで身体中を叩き続けた。


男が気を失ったので、水をぶっ掛けて、暫く待った。


男は意識朦朧としながらも目を醒ました。そしてゆっくりと口を開いた。


「藍沢…。藍沢組だよ…。あそこ…、で…、売って…、いいって…、言うから…。」


男は蚊の鳴く様な声で話した。


「馬鹿野郎が、藍沢かよ。」


兄貴は吐き捨てた。


藍沢組はどこの傘下でもねぇ小さな組だが、中部地方にある平塚組とは兄弟の盃を交わしていた。


平塚組は中部地方を仕切る勝生会の傘下の組だ。


こうなってくると、俺達だけじゃどうにもならない。兄貴は加東の親分に電話した。


俺はぐったりした男を見ながら、高岡の兄貴に一言告げてからタバコに火を着けた。


「分かりました。はい、はい、分かりました。」


兄貴は電話を切った。話しが着いたようだ。


「兄貴、この野郎どうします?」


すると兄貴は答えた。


「バラしても構わねぇとよ。大浜、頼むわ。」


1時間弱して、仲間の野崎が倉庫へ来た。そこで俺達は、鋸で男をバラしてやると、「頭」以外をドラム缶に放り込んで、コンクリを流しこんだ。


「乾いたら、海にドボンしとけよ。」


兄貴はそう言うと先に出ていった。


「で、これ(頭)どうすんだ?」


野崎が俺に聞いた。俺は兄貴から言われた通りに答えた。


「あぁ、それ(頭)な。藍沢組の事務所の入り口んとこに置いときゃいいよ。」


野崎は成る程といった表情で、それを箱に詰めると、俺達は相手の事務所に向った。


街のネオンの煌めきが相変わらず夜の闇を切り裂いていた。


俺達は、藍沢組の事務所に着くと、箱を入り口の前にそっと置いて立ち去った。


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うちの加東の親分が上の近藤組の本部に呼ばれた。親分の親分、つまりは、近藤組長に呼ばれたんだ。


俺達若い衆は近藤の親分を親しみを込めて「親っさん」って呼んでたよ。


まぁ、上部団体の頭と直に話すことなんざ、滅多に無いけどな。


「最近シマ荒らされてるそうじゃねぇか?大丈夫なのか?」


親っさんである近藤親分が心配そうに言った。


「はい。で、取り敢えず、この前の夜に、子分に言って、売人一人バラしまして。」


うちの加東の親分がそう答えると。親っさんは、仕方なさそうに口を開いた。


「俺もよぉ、「よそ者にシマ荒らされてます。」じゃあ示しが付かねぇんだよ。会長にも顔向け出来やしねぇ。」


すると親分は親っさんに返した。


「親分、戦争になったら、俺んとこで、ケジメ付けとくんで。だから、イザとなりゃあ、破門して下さい。」


近藤の親っさんは、少し驚いた様に、加東の親分に返した。


「おめぇ、そこまでしなくても…。」


すると、うちの親分は答えた。


「緋陵会に迷惑かける訳にゃあ、いきません。てめぇで片付けますんで。」


加東の親分はそう言うと、本部を後にした。


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日が沈んで、ネオンの煌めきが目を覚ます頃、俺と野崎は、居酒屋で一杯引っ掛けていた。


「こんなとこで飲んでて良いのか?」


俺が言った。喧嘩相手の売人一人バラした訳だからタダじゃ済まないだろう。戦争がおっ始まるのは目に見えてるぜ。


「なんだよ大浜、大丈夫だって。こっちは緋陵会だぜ。どう考えても、こっちがデケぇだろうが。」


俺達若い衆は藍沢組が間接的にとは言え、勝生会と繋がりがある事を、理解してなかった。


藍沢組が小せぇ組だって舐めてた訳だ。


野崎は俺に散々藍沢組の悪口を言うと「自分がおごる。」と言って、カネをテーブルにバンッ!と置くと、店から出ていった。


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こりゃあ、後から聞いた話だが、野崎はその後に地下鉄に乗ったんだが、目的の駅に着いた後が問題だった。


階段を登って、地上に出ると、信号が赤だったので、奴はそれが変わるのを待っていた。


深夜なんで、一般の車よりもタクシーの方がどっちかっつーと多かったんだが、時々、食い物屋の宅配のバイクが走ってたりした。


信号が変わり、奴が横断歩道を渡ろうとした時、ビザ屋のバイクに乗ったヤツが道具(拳銃)で撃ってきやがった。


Cz75で撃たれたらしい。


野崎は胸に2発食らって、アスファルトに仰向けに倒れ込んだ。


すると、ビザ屋の格好した喧嘩相手だと思うが、そいつがバイクを降りてきて、今度は野崎の頭に2発もぶち込みやがった。


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翌日、俺は野崎が死んだことを知った。高岡兄貴から聞いたんだ。


兄貴が俺達弟分に言った。


「てめぇら、いいか、戦争がおっ始まったぜ。藍沢組は小せぇ組だが、気抜くんじゃねーぞ!」


その後に高岡兄貴は親分と何やら話していた。


「親分、藍沢は勝生会の平塚組と兄弟分なんすよねぇ?うちの本家は援軍回してくれるんすか?」


兄貴が言う。


「いや、コイツは俺のシマの問題だ。俺達でけりつける。」


加東の親分の覚悟は決まっていた様だ。


若頭の高岡兄貴だけじゃなくて、その補佐の真下の兄貴や、若い衆の相談役やってる斎藤の兄貴も、覚悟を決めたみてぇだった。


俺達若い衆も戦争の準備をした。臨戦態勢だった。この後、とんでもねぇ事に巻き込まれるとも知らねぇで。


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小説「コンフリクト」


第二話「パーキングエリア」


事務所の駐車場でタバコを吹かしていると、1台の軽自動車が入ってきた。霧島のやつだ。


「おい、何だよ。だっせーなぁ。」


俺が笑って言ってやると霧島も笑いながら答えた。


「馬鹿野郎。俺のじゃねーよ。仕事で使うんだよ。」


霧島とは古い付き合いだ。俺がヤンキー時代からのバイク仲間で、一緒に組に入った。まぁ「同期入社」ってわけだ。


「んで、高岡の兄貴からの命令は?」


俺は霧島に聞いてみた。


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「いいかおい。藍沢は中部の平塚組と兄弟の杯交わしてるからなぁ。今頃は、兄弟分にチクっていやがるはずだ。」


兄貴が霧島に話した。


「マジっすか!んで頭(かしら)、どうすりゃいいんすか?」


霧島が高岡兄貴に聞いた。


兄貴の見立てじゃあ、藍沢の野郎は、平塚組に挨拶しに行くはずだってことだ。


電話一本で援軍頼むんじゃ誠意がねーから、必ず直に会いに行くはず。


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「だからな。常に藍沢組の事務所を見張って、いつでも魂(たま)取れる様にしとけって訳よ。」


と霧島は軽く答えた。


俺はタバコを吹かし、上を向いて煙を吐いた。


空は雲一つない青空だった。


「成る程な。黒塗りの車じゃバレちまうしな。」


よく勘違いされるんだが、俺達は毎日スーツ着て、黒塗りの高級車に乗ってるわけじゃねー。


普段は何処にでもいる普通の格好で、普通の車に乗ってる。


スーツと高級車でバシッとキメるのは、幹部会とかで、親分や兄貴に同行する時だけだ。


「道具(凶器)は?」


霧島に聞くと奴は静かに軽自動車の後に回りトランクを開けた。


「これ使う。」


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「いいか霧島、藍沢の野郎を確実に仕留めてーからな。」


高岡の兄貴はそう言うと、霧島に貸し倉庫の鍵を渡した。


「開けちゃっていいんすか?」


と、霧島。


「あぁ、いいぜ。好きな道具もってけよ。」


兄貴は俺達に仕事を任せた。


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霧島はトランクに入っている道具を見せてくれた。


カラシニコフだ。銃床が折りたたみ式のヤツ。弾倉は一つで、弾は満タン。計30発ってわけだ。


「どっちが使う?俺?お前?」


俺か聞くと、霧島は返した。


「どっちでもいいぜ。」


俺もどっちでも良かった。この世界にいりゃあ、どのみちいつかは、死ぬか豚箱に行くだろうしな。まぁ、覚悟は出来てる。


「じゃあ、いくぜ!最初はグー!」


で俺は勝っちまった。俺が藍沢の魂を取る方を選んだ。


「務所に面会に来るときゃ、何か差し入れ持って来いよ。」


俺がそう言うと、霧島は、笑って言ったんだ。


「面会じゃなくて香典の準備しとくよ。」


俺達は軽自動車に乗って、早速仕事に掛かった。


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何日か藍沢組の事務所を見張ったが、なかなか動きがない。


時々、車が出入りするが、藍沢じゃない。


「どうなっちまった?」


と、霧島。半袖のTシャツの袖口から、墨が少し見えた。


そいやぁ、面白い話がある。霧島のヤツ、初めて背中に墨を彫ってもらった時、本当は「龍(たつ)」を入れて欲しかったんだが、彫り師のおっさんが、勝手に「女の生首」にしちまって、マジギレしたって話がある。


結局、彫り師が半値にして丸く収まった訳だがな。


「ったく。今日も動き無しかよ。」


霧島が毒付いた。


すると、事務所のシャッターが開き、車が出てきた。黒塗りの高級車。間違いない藍沢だ。


「兄弟に会うのは久しぶりだなぁ。」


藍沢が車の中で呟いた。


そんなことを知る訳がねー俺達は軽自動車を走らせて、その車を追った。


暫く走ると、黒塗りの車は高速に入って行った。


「なぁ、おい。ガソリン入れてあるよな?長距離戦みてぇだぜ。」


俺が聞くと、霧島は頷く。


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45分くらい走ると、黒塗りの車は、パーキングエリアに入った。便所か?


俺達も後を追った。


駐車スペースに軽自動車を停めて、直ぐ側の黒塗りの車を見張る。軽自動車のエンジンはかけたままで。


藍沢だ。藍沢がトイレから戻って来た。


「よっしゃあ!いっちょ、かまして来るわ!」


俺は軽自動車を降りて、トランクから、カラシニコフを取り出すと、ゆっくりと黒塗りの車に近付いた。


藍沢が後部座席に乗り込んだ次の瞬間、俺は運転手に向かってフロントガラス越しに銃弾を撃ち込んだ。


ガラスが大きくひび割れて、運転手の血が飛び散り、その破片が赤くなった。


俺は後ろの座席側に移動すると、ガラス越しに藍沢を撃った。


大体の数しか分からないが、運転手に10発ぐらい食らわせたから、多分、残りは20発だろう。


俺は全弾撃ち尽くすまで、ガラス越しに藍沢にカラシニコフの銃口を向けて、フルオートで撃ち続けた。


車内が鮮血で赤くなるのが分かった。


やがて弾が尽きた。俺は急いで軽自動車に戻り、助手席に乗り込むと、霧島は、思い切りアクセルを踏んで、パーキングエリアを後にした。


「おい!やったぞ!やってやった!」


俺は興奮が止まらなかった。霧島は、後で一杯おごってくれるそうだ。


「大浜、おめぇは最高のダチだぜ!」


霧島も興奮していた。


空は雲一つない青空だった。


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小説「コンフリクト」


第三話「五分と五分」


勝生会は中部地方一円を牛耳る団体だった。この本家若頭の田島に傘下の平塚組の組長である平塚が呼び出された。


平塚は藍沢の兄弟分だ。


「なぁ、平塚。おめぇ、兄弟分を殺られたそうじゃねえか。」


田島が冷たく言い放った。


「すんません!」


平塚は土下座で応えた。


「大事な兄弟分を殺られて、てめぇ、それで引き下がろうなんて考えてんじゃねぇだろうな?」


田島が続けて言い放つと、平塚は答えた。


「この落とし前は、必ずつけますんで。」


それで結局、平塚はいよいよ喧嘩に本腰を入れ始めたって訳だ。


本家を後にする平塚を見送りつつも、田島は若頭補佐の松原に漏らした。


「ったくよぉ。面倒なことしてくれるよ。緋陵会だぜ、相手は。」


松原も困った様に答えた。


「こっちとあちらさんとは五分と五分ですからねぇ。今どき喧嘩なんざしても、一銭の得にもなりませんし。」


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事務所に戻った平塚は怒鳴り散らした。


「馬鹿野郎が!だいたい、藍沢の野郎が、人様のシマに手出すからこうなるんだ!」


平塚は若頭の安田に命じた。


「おめぇに任せるからよぉ、ケジメ付けとけ!」


安田は静かに頷くと、事務所の外へ出た。そして、その近くにある喫茶店に足を運んだ。


ーーーーーーーーー一ーーーーーーー


ある小さな貿易会社にコンテナが届いた。その中身を確認する男がいた。永田組の永田だ。


貿易会社ってのは表の顔で、実際は、海外から届く積荷を大学病院に闇で売り捌く商売をしていた。


積荷?あぁ、積荷ね。永田が売ってる積荷ってのは、冷凍保存された生物(なまもの)だよ。


解剖用の死体だ。


永田はそれで莫大な稼ぎがあるらしい。永田組の稼ぎは勝生会の実に三分の一を占めるらしいぜ。一本立ち(独立)してもやってけるぐらいだ。


「はい、もしもし。」


永田が電話に出る。相手は安田だった。


「でな、お前に仕事を任せたいんだよ。頼むわ。」


安田がそう言うと、電話の向こうの永田が言うには「緋陵会を敵に回しても大丈夫なのか?」だとさ。


「こっちで何とかする。とにかく、形だけでも喧嘩してねーと、格好が付かねぇんだよ。」


安田の粘りに根負けした永田は引き受けることにした。


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永田組は平塚組の傘下だった。で、さっきも言ったけど、すげぇ稼ぐ組だった。何で一本立ちしねぇかが疑問だったのだが。


まぁ、それは、後々分かってくる。


「おい、みんな、ちょっと来てくれ。」


永田が若頭の伊藤を呼んだ。


「いよいよ動く時期だ。おめぇ、若い衆引き連れて関東に行ってきてくれねぇか?」


永田が伊藤にそう言うと、伊藤は会社の倉庫にやって来て若い衆に言った。


「仕事が入ったんだがな。何人か関東に出張してくんねぇかな?」


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うちの組の上の近藤組長、つまり、親っさんが、緋陵会の本家に呼ばれた。植村会長が会いたいそうだ。


「近藤、お前んとこ大変だったなぁ。」


会長は機嫌よく親っさんに話しかけた。


「いえ、そんな。それよりその、会長、お話ってのは?」


親っさんが会長に聞いた。


「いやなぁ、ほら、例の藍沢って奴なんだがな。平塚組と兄弟分なんだろ?平塚っていやぁ、勝生会だよ。」


うちの緋陵会と勝生会は五分と五分の付き合い。


対等な付き合いっつーか、まぁ、同盟相手ってわけだ。


「でなぁ、ここいらで手打ちにしようって訳だよ。今どき血なまぐさい喧嘩したって、一文の得にもならねぇだろ?」


会長が言うと、親っさんは答えた。


「はい。分かりました。うちの若い衆には、伝えときますんで。」


同席した本家若頭の坂下さんが近藤の親分に言った。


「まぁ、こっちとしても、とことん殺ってやりてぇとこではあるけどよぉ。ここは一つ、会長の顔を立ててくれや。」


本家若頭の坂下さんは武闘派で知られた人だったけど、その武闘派が「喧嘩は止めだ。」って言ってる訳だから、近藤親分も、それを飲むしかねぇって訳だ。


坂下さんにそう言われると、近藤親分は、静かに頷いた。


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「手打ちかぁ、色々面倒くせぇなぁ。まったく。」


親っさんは車の中で一人呟いた。やがて車はうちの加東組の前で停まった。


うちの加東組長が親っさんを出迎えた。若頭の高岡兄貴も、若い衆も一緒に出迎えた。


「加東、この前は大変だったな。すまねぇ、この通りだ。」


親っさんが頭を下げた。うちの親分が慌てて止めに入った。


「親分、そんな、止めて下さい!」


正直焦るよなぁ。上の組の親っさんに頭下げられちゃ、こっちが逆に面目が潰れるってわけだよ。


「高岡も悪かったな。」


親っさんが兄貴に言った。


「それとさぁ、ほら、あいつだよ、パーキングエリアの、機関銃の。あの若いのいい度胸してるよ。てぇしたもんだぜ。」


近藤の親っさんが俺のことを聞いてくれた。


「大浜ですか?あいつなら少しの間、姿を隠しとけって言ってあります。」


相談役の斎藤兄貴が親っさんに答えた。


「お前らに大事な話があるんだがな。藍沢の絡みで、平塚が出張って来るだろうから、手打にしようや。」


親っさんがみんなに言って聞かせた。


霧島が高岡の兄貴にそっと聞いた。


「兄貴、何で手打ちなんすか?喧嘩はこれからが本番でしょ?」


すると兄貴もそっと答えた。静かにそっと。


「うちと勝生会は五分と五分なんだよ。だから手打って訳だ。」


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永田組の若頭の伊藤と、若い衆らが関東に入った。


組長の永田には考えがあった。永田組が無茶苦茶に暴れ回っても損はない。


永田は今や勝生会のアガリの三分の一を稼ぎ出す超主力だ。


だから、ちっとやそっと無茶しても、永田を破門できない。


仮に破門しても、永田の知力と財力がありゃあ、永田組は独立してやっていける。


俺が思うに、永田は関東に進出して、一本立ち(独立)するつもりなのかも知れない。


俺は身を隠してる田舎の山の中で綺麗な川に竿を垂らして、そう思った。


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霧島はガード下の赤提灯で酔い潰れていた。


「いらっしゃい!」


店の親父がそう言うと、入ってきた一人のサラリーマンが、霧島の隣に座った。


ガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタン。


ガードの高架の上を電車が喧しく通り過ぎる。ちょうど仕事が終わって、カタギが帰宅して行く時間帯だ。


カチン!カチン!


かん高い金属音が電車の音に掻き消された。


ベレッタM92F、サプレッサー付き。


サラリーマンは席を立ち、店を出た。


霧島は二度と目覚める事はなかった。


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小説「コンフリクト」


第四話「稼ぎ頭」


うちの加東組には二人の稼ぎ頭がいる。一人は若頭補佐の真下兄貴、もう一人は、若い衆の相談役の斎藤兄貴だ。


特に斎藤の兄貴ってのは変わった経歴があって、国立大学卒で、大手の貿易商社を経て組に入った。


港のブツを捌く仕事を一手に任されてるのが斎藤兄貴だ。


一方、真下の兄貴は学は無いが、天性の才能ってのがあったみてぇで、それで上手い商売を思い付いた。


真下兄貴は、表向きスポーツバーを経営してるんだが、そのバーってのが、不思議なことに、一番稼ぎ時の金曜日の夜は休業になる。


それもそのはず。事情を知ってる客は裏口から入店する。スロットもルーレットもある。要するにカジノをやってるって訳さ。


その日もいつもみてぇに事情通の客が、ぞくぞく裏口から入店してきた。


それで、明け方近くになると、負けまくった客が、ぞくぞくと店にカネを落として帰ってくんだが、そんな中で、四人の客がなかなか帰ろうとしねぇんだ。


そこで真下の兄貴と若い衆二人が、焼き入れてやろうと近寄った時、四人の客のうち、三人が懐から道具(拳銃)を出した。


兄貴達は、その日に限って丸腰だったんでなすすべがなかった。


四人のうちで、道具を出さなかった一人が近寄って来て、静かに口を開いた。


「おめぇんとこ、いい商売してんなぁ。」


永田組の若頭、伊藤だ。


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真下の兄貴と若いの二人は、店の金属製の太い柱に縛り付けられた。


「面倒臭ぇな、殺るならさっさと殺れよ!!」


真下の兄貴が噛みついた。


すると伊藤が答えた。


「お前らを殺るつもりはねぇえよ。ただな。取り引きっつーか、手を組まねぇか?」


伊藤がそう言うと、兄貴はガン飛ばしながら口を開いた。


「手を組むだと?てめぇ、何わけ分かんねぇこと言ってやがる?」


「うちの組とつるみゃ、カジノもっとでかくなるぜ。うちは世界相手に商売してるからなぁ。」


そう言うと、伊藤はタバコに一本火をつけた。


「兄貴、絶対にダメですよ!」


若い衆のうちの一人が兄貴に声をかけた。すると伊藤は、その若い衆にタバコの煙を吹き掛けて、こう話した。


「なんだ、てめぇ。誰もてめぇみてぇなチンピラに聞いてねぇよ。てめぇの兄貴と話してんだよ。それとも何か?ビビって目の前の現実が見えなくなったか?」


若い衆は負けじと伊藤に噛みついた。


「あ?あぁ、見えねぇよ、何も見えねぇよ!!」


すると伊藤は、バーのカウンターの向こうから、氷を砕くためのアイスピックを持って来ると、その若い衆の右眼めがけて、思い切り突き刺した。


ギャーッ!!!!


夜を劈く様な断末魔が店中に轟いた。


「どうした?あ?」


伊藤が若い衆の耳元で囁いた。


すると、もう一人の若い衆の方が伊藤に噛みつく。


「止めろ!この間抜けが!!」


伊藤は、若い衆の右眼からアイスピックを引き抜くと、今度は、もう一人の方の若い衆の右耳の中に、アイスピックを突き刺した。


ウギャーッ!!!!


それはもう、店が潰れんばかりの叫びだった。それを聞いた真下の兄貴が伊藤に答えた。


「もういい、止めろ!!俺の舎弟に手を出すな!二人を離してやってくれ、頼む。何でもする。」


すると、伊藤の携帯に着信が入る。


「もしもし。はい。はい。いえ、カジノです。はぁ、あぁ、はい。分かりました。失礼します。」


伊藤は引き連れてきた自分の若い衆の一人で、恐らく信頼のある奴だと思うが、そいつに言った。


「このカジノとこの辺りのシマはお前に任せるってよ。」


伊藤がそう言うと、その若い衆は伊藤に一礼した。


「てめぇのカジノとシマは、うちの組が直接面倒みることにしたからよぉ。て訳で、別にお前らじゃなくてもよくなったよ。」


どうやら電話の相手は永田本人だった様だ。


当初、永田は真下の兄貴を引き抜いて、自分の組に入れて、カジノとシマを取っちまおうとしたみてぇだが、どういう訳か、作戦を変更した様だ。


「じゃあな。あばよ。」


伊藤が店を立ち去ると、伊藤の若い衆が、真下の兄貴達の頭に、道具(拳銃)で弾を撃ち込んだ。


ベレッタM8000、通称クーガーだ。


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店の外に出た伊藤を追いかけて、一人の若い衆が声をかけた。


「兄貴、親分は何と?」


伊藤は答えた。


「作戦変更だよ。」


伊藤によるとこうだ。カジノってのは、いったん経営が軌道に乗って、常連客が付くと、比較的楽に回せるらしい。だから、真下の兄貴じゃない別の誰かでも良いってわけだ。


だから真下兄貴は殺られちまった。


「だがなぁ、海外相手の商売はそうはいかねぇ。何せ外国との遣り取りだから、何が起こるか分からねぇ。知恵と経験と度胸がいる。」


伊藤はそう言うと、先に車に乗り込んだ。


伊藤達の車は、街と街の境にある河川敷に停車すると、トランクから、ギュンギュンに詰め込んだ真下の兄貴と二人の若い衆の死体を引き摺り出した。


伊藤が連れてきた他の若い衆らが、先に河川敷に到着していて、深めの穴が掘ってあった。


その中に真下兄貴達を放り込むと、土を被せた。


伊藤はタバコを吸いながら、若い衆らに伝えた。


「明日、もう一人会いてぇ奴がいるから、お前らも付き合ってくれよな。」


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斎藤貿易は港の倉庫街の一角にあった。この前俺が売人をバラした倉庫の埠頭を挟んだ向えにある。


斎藤の兄貴の会社だ。


そこに車が一台停車した。伊藤達だ。


伊藤は、若い衆らに車に残る様に言うと、一人で斎藤貿易の事務所の玄関を開けた。


「Yes, I understand. I'll leave that to you.(はい、分かりました。お任せします。)」


そう言うと斎藤の兄貴は電話を切った。そして、事務所に入ってきた伊藤に気付いた。


「Hello, I'm here to discuss business with you regarding the phone call.(よぉ、商談にきたぜ、電話の件についてだ。)」


伊藤が斎藤兄貴に告げた。


斎藤兄貴は手で伊藤を案内して、応接室に通すと、二人は向かい合い、机を挟んで話し始めた。


「あんたとうちの親分が組めば、世界で勝負が出来る。俺は知ってるぜ。あんたが組織のカネを勝手にウォール街に突っ込んでるんだよな。」


伊藤が言うと、斎藤兄貴、いや、斎藤の野郎が答えた。


「俺はヘッジファンドには頼らない主義でね。カネは自分で回す。」


伊藤はにこやかに話す。


「成る程、それで莫大なカネを生み出したって訳だ。そのカネをどこで洗う?カネは国内じゃねーよな?ケイマンか?」


すると斎藤はそっと頷いた。


二人は固く握手を交わした。商談が成立した訳だ。


そんな裏切りを知る由もなく、俺は田舎の山奥の渓流で、相変わらず竿を垂らしていた。


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小説「コンフリクト」


第五話「借家」


うちの組の若頭の高岡兄貴が事務所に来ると、若い衆が頭を抱えていた。


「どうした?何かあったのかよ?」


兄貴がそいつに聞いた。するとそいつが答えた。


「真下の兄貴と連絡が付かねぇんですよ。こんなこと初めてっすよ。」


そこで高岡の兄貴が提案した。


「じゃあ、斎藤に相談してみるか。何か知ってるかもな。」


ところが若い衆は困った顔で兄貴に話した。


「それが…。斎藤の兄貴なんすが、全然電話に出てくれないんすよ。」


「はぁ?しょうがねぇなぁ。」


高岡兄貴はそう言うと、出掛けていった。港の斎藤貿易まで。


高岡兄貴が斎藤貿易の事務所に向かって、ゆっくりと港を走っていると、いきなりコンテナトラックが現れた。


兄貴は急ブレーキを踏んだ。


車から降りて、トラックに向かって歩きながら怒鳴った。


「てめぇ!馬鹿野郎!!どこ見てやがる!!」


すると、背中に熱いものを感じた。


「あぁ、痛ってぇ…。」


高岡の兄貴は背中を撃たれた。


殺し屋はさらに兄貴の背中にシグ・ザウエルP220の9mmを撃ち込んだ。


ダンダンダンダン!!


高岡兄貴は背中に銃弾を全弾食らいながらも、振り向くと、懐からコルト・ガバメントを取り出して、殺し屋へ撃ち込んだ。


殺し屋の胸と頭部に銃弾が食い込み、そのまま倒れた。と、ほぼ同時に高岡兄貴も倒れた。


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斎藤は事務所で手下から連絡を受けた。


「高岡、死んだってよ。」


事務所には斎藤の手下が他に三人いた。


「えーっと、どうしようかなぁ?一応、大浜も殺しとくか。藍沢殺しの実行犯だからなぁ。」


斎藤は俺を殺るために手下三人を田舎へ向かわせた。俺は知る由もなかった。


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俺の最近の日課は田舎ならではなんだが、畑で野菜作りに挑戦してる。田舎暮らしも悪くない。このまま足洗ってカタギになろうかな。


最近じゃ、組を辞める時は、書類にサインして、必要な料金を支払って辞めるのが主流なんだ。


小指をちょん切るのは昔の話。今はやらない。


で、俺は採れたて野菜を借家に運んで、台所で土を洗い落とした。


その後で、包丁を持って玄関まで行くと、玄関脇にある居間に隠れた。


銃を持った男が玄関をそっと開けて入って来たので、俺はとっさに居間から飛び出し、男の喉に包丁で斬りつけた。血しぶきが飛び、玄関を赤く染め上げた。


男が倒れたので、俺はそいつの銃を拾うと、構えて借家の奥に再びゆっくりと戻った。


銃はH&K USPだった。


人の気配がする。台所の隣にある座敷を通り掛かったその時、もう一人別の男と鉢合わせになった。


俺は三発発砲し、二発が男の胸に、もう一発は男の頭に命中した。


もう一人気配がする。俺は撃ち殺した男を盾にして、台所に入る。すると、その気配の主が引き金を引こうとしたので、盾代わりにした死体を、そいつ目掛けて押し飛ばした。


その後、一気に飛び掛かり、渾身の力を込めて、気配の主の男を殴り続けた。


どうやら全部で三人らしい。俺は二人殺して、ぶん殴った奴一人を生け捕りにした。  


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「何で俺達の気配に気付いた?」


生け捕りにした男が言ったので俺はそいつに種明かししてやった。


「こんなド田舎に他府県ナンバーの車が停まってたからだよ。馬鹿じゃねーの?」


俺は銃口を跪かせたそいつの頭に押し付けて言ってやった。


ふと思った。見たことある顔だ。


斎藤の子分じゃねーか!


「何で俺を殺そうとした?」


男は答えようとしない。


そこで俺は、持ってる銃で、そいつの両膝を撃ち抜いてやった。


ダン!!!ダン!!!


田舎だと都合が良い。銃声がしても誰も気付かない。猟師が熊でも撃ったんだろうって、誤魔化せるからな。


「あぁ…。痛ぇ…。た、頼む…。殺さないでくれ…。」


男は命乞いをした。可哀想に。両膝を撃ち抜いてやったから、一生車椅子生活確定だな。


男は全てを話した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


小説「コンフリクト」


第六話「秘密協定」


話は一年前に遡るそうだ。


(一年前:中部と関東との中間地域某所)


藍沢

「こんなとこ平塚の兄弟に見つかったら厄介だぜ。早く話を済ませてくれや。」


永田

「藍沢さん、俺の組は海外と取り引きしてましてね。大儲けなんですよ。」


藍沢

「で?俺にどうしろってんだ?」


永田

「上の平塚組も、その上の勝生会も、俺のアガリで成り立ってる様なもんですよ。」


藍沢

「そりゃあ、お前としては、面白くねーよな。だってよ、幾ら稼いでも、上に吸い取られるし、お前の出世も考えてくれねぇしな。」


永田

「藍沢さん、貴方だけですよ、分かってくれるのは。俺は一本立ち(独立)しようと思ってましてね。」


藍沢

「でもよぉ。平塚や勝生会が黙っちゃいねーぜ。」


永田

「藍沢さん。俺は関東に勢力を伸ばそうって思ってましてね。」


藍沢

「いや、あっちには緋陵会がいるぜ。俺も入れてもらいてーけど、会長の野郎、ちっとも会っちゃくれねーし、盃なんざ、夢のまた夢だぜ。」


永田

「藍沢さん、だったら力ずくで奪いましょうや。」


藍沢

「はぁ?力ずくって、お前…。」


永田

「緋陵会の下に近藤組があるでしょ?で、その下に加東組がある。その加東組に、ちょっとしたコネがありましてね。」


藍沢

「本当か?!」


永田

「はい。その加東組に大学時代の後輩がいましてね。そいつも貿易で飯食ってまして。斎藤って奴なんですがね。」


藍沢

「そうか…。よし、分かった!こうしよう。先ず俺が少しずつ加東組のシマに手出してやるよ。取り敢えず、シャブの売人に商売させよう。」


永田

「成る程。そうすりゃ奴らは面子を潰されたって騒いで喧嘩になると。」


藍沢

「あぁ。で、そうなりゃ、兄弟分の加勢ってことで、平塚はお前に「関東に行って加東組に焼き入れてこい」って命令するはずだぜ。」


永田

「それを口実にして進出するって算段ですね。」


藍沢

「あぁ、そう言うことだ。加東組には、さっきお前が言った斎藤っていう内通者がいるから、イザとなりゃあ、加東組を内側から壊せるぜ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「て訳だよ。まぁ、お前が藍沢を殺ったのは想定外だったがな。藍沢は囮みてぇなもんだよ。」


両膝を撃ち抜いてやった男が洗いざらいゲロしやがった。


「悪いけどな、今から若頭に電話して、全部話すぜ。」


俺がそう言うと、男は笑い始めた。


「ハハッ!無駄だよ。高岡は死んだよ。」


それを聞いた俺はマジで頭に血が登った。後にも先にも、これ程ぶちキレたことはなかった。


俺は男を引き摺って、納屋に放り込むと、薪割り用の斧で、そいつの脳天を叩き割った。


滴り落ちる血で、そいつの頭が見る見る赤くなった。


割れたそいつの頭が、良く熟れたスイカみたいにパックリ開いて真っ赤な脳みそが見えた。


俺は男達のポケットを探ると、車の鍵を見つけ出して、急いで、街まで飛ばした。


良く晴れた、雲一つない青空だった。


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小説「コンフリクト」


第七話「Out of Control」


俺は目一杯にアクセルを踏んだ。街までは多分、三時間は掛かるだろう。頼む、間に合ってくれ。


中部地方の貿易会社に一台の黒塗りの高級車が停まった。藍沢の兄弟分、平塚組の平塚だ。


この貿易会社はその平塚組傘下の永田組が経営する会社なんだが、様子がおかしい。


会社の事務所も倉庫も、もぬけの殻で、一個のコンテナも無くなっていた。


「おい、どうなっていやがる?」


平塚は同行してきた子分に漏らした。そして、上の勝生会に電話すると、急いで、本家に向った。


中部地方の貿易港から五キロ弱行った所に東海物流という会社があった。そこに永田の姿があった。


この東海物流も永田が経営する会社だったんだが、それを知る奴は、永田本人と、その幹部数人だけで、上の平塚組はおろか、勝生会も知らなかった。


つまり、永田組には、上が知らない秘密の収入源が有るって訳だ。


永田組の特徴は、その徹底した秘密主義にある。上部団体が知らない闇の側面を持っていた。


「I am happy to do business with you.(あんたと商売ができりゃあ、俺は嬉しいぜ。)」


永田は外国のダチと楽しそうに会社の事務所で話した。


外人のダチを見送った永田は、子分に機嫌良く話した。


「いいかお前ら。今どき、やれ仁義だの、ケジメだの、古臭いヤクザなんざ淘汰されてく時代なんだよ。良く覚えとけ。」


秘密の資金源と莫大な収入で、下部団体でありながら、上部団体を凌駕する組織に成長した永田組は、もはや、伝統的な極道じゃなかった。


それはもう、何処か遠い外国の組織犯罪集団と言ってもいいくらいだ。


本家に着いた平塚は、事の次第を、本家若頭の田島と、若頭補佐の松原に話した。この席には、勝生会会長の芹澤会長も同席した。


「永田が消えただと?!おい、平塚!てめぇ、子分一人マトモに纏められねぇのか!!」


田島が怒鳴り散らした。


「すんません!!」


平塚は即座に席を立つと、そのまま土下座した。


すると、部屋の扉をノックする音がした。


「何だ?入れ!!」


松原がそう言うと、若い衆が電話の子機を持って入ってきた。


「失礼します!!永田の親分から電話です。」


それを聞いた田島と松原は、顔を見合わせた。そして、平塚に出るようにいった。


「おい!永田!てめぇ、何処にいやがる!!」


平塚が電話の向こうの永田に怒鳴る。


すると永田が冷たく言い放つ。


「俺はあんたと話すつもりはねぇ。会長に代われ。」


永田はもはや勝生会の力じゃ制御できない。


平塚は、永田が会長に代われと言っている旨を伝えた。


「チンピラの分際で何考えてやがる!!」


田島が怒鳴る。すると、それを聞いた芹澤会長が、ゆっくりと口を開いた。


「えぇだろう、ワシに代われ。」


羽織袴姿の会長はそう言うと子機を渡すように平塚に言った。


平塚は恐る恐る会長に子機を渡した。


「永田。緋陵会とは手打ちだ。関東に送り込んだ子分らを引き上げさせろや。」


会長が電話の向こうの永田に伝えた。しかし、余り良い返事じゃなかったみてぇだ。


「そうか、ならえぇだろう。好きにやれや。その代わり、お前は破門だ。それでえぇな?」


芹澤会長は永田の直属の親である平塚を飛び越えて、直に永田を破門した。異例っちゃ、異例だ。


平塚は完全に面子を潰された。


「田島、もう永田はうちとは関係あれせん。だで、先方と手打ちだわ。」


芹澤会長の命令はこうだ。勝生会は緋陵会と手打ちする。喧嘩は止めだ。それと、永田は破門したから、勝生会とは、もう何の関係もない。


緋陵会がその気なら、好きなだけ永田を潰してもらっても構わねぇ。


とにかく、勝生会はこの件には、一切手は出さねぇって訳だ。


緊急の会合が終り、本家の外に出た平塚は、ザマァ見ろとばかりに言い放った。


「ハハッ!永田の野郎め、調子に乗るからこうなるんだ。」


「会長、アガリがだいぶ減りますね。」


若頭補佐の松原が言った。


永田組は勝生会の収入を支えてきた分、破門は痛手だ。


芹澤会長は静かに答えた。


「松原よ、カネと義理なら、ワシは、義理をとるわ。植村の兄弟とは、同じ釜の飯を食った仲だからよ。」


だが、永田にとっては、破門は痛くも痒くもなかった。永田の一本立ち(独立)が叶った訳だから。


それに、元の事務所も引き払って、シマも勝生会に明け渡してる訳だから、誰も文句は言わねぇだろう。


実際は永田は地下に潜り、秘密のビジネスを闇で実行し続けるのだがな。


それはもう、ヤクザじゃなくて、ヤバいテロ組織みてぇなもんだぜ。


永田組は、全く新しい形の組になった。もう制御不能だった。


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小説「コンフリクト」


第八話「思い出」


加東組は大騒ぎになっていた。若頭の高岡兄貴に若頭補佐の真下兄貴のツートップと連絡が付かねぇ上に、斎藤も姿を消しちまったんだから無理もねぇ。


組の中で事情を知ってるのは俺しかいねぇ。


でも俺ってつくづく間抜けだぜ。急いで出たから携帯持ってなかったんだよ。これじゃあ事務所に連絡できねぇ。


どっかサービスエリアの公衆電話使うしかねぇ。


「あっ!ご苦労さんです!」


事務所にきた加東の親分に、若い衆らが挨拶した。


「どうだお前ら。高岡達とは連絡ついたか?」


親分が言うと若い衆らは首を振った。


「そうか…。仕方ねぇ。ちょっと本部に行ってくるわ。」


親分が上の近藤組に一人で行こうとしたので、若い衆の一人が慌てて言った。


「親分、俺も同行します。一人じゃ危ねぇ。」


すると加東の親分は、静かに財布からカネを出すと、その若い衆に渡した。


「お前ら、徹夜で高岡達を探して腹減ってるだろ?これで何か食ってこい。俺のことなら心配すんな。近藤親分に相談しに行くだけだからよぉ。」


そう言うと、親分は事務所を後にした。


事務所から歩いて15分の所に美味いラーメン屋がある。この店の大将は、加東の親分の中学ん時の後輩で、親分とは元ヤンキー仲間なんだ。


この店は俺達若い衆の溜まり場みてぇな所で、大将が時々、餃子をおごってくれたりした。


俺はパーキングエリアを見つけたので、急いで車を停めると、電話ボックスを見つけて、事務所に電話した。


「ちくしょう!誰も出ねぇじゃねーか!」


そりゃあそうだ。みんな親分から「飯食ってこい。」って言われたから、大将の店に食いに行っちまったしな。


俺は速攻で車に乗り込むと、ぶっ飛ばした。アクセル全開だ。


加東の親分が、三車線の中央を車で走り、赤信号で停車した。右車線に他の車も停車した。


ダダダダダダダダダダダダダダ!!!


街の空気を切り裂く様な銃撃音がビルの谷間にこだました。


右車線に停まった車の中から、加東の親分を目掛けて、銃弾の嵐が襲い掛かった。


親分の車はボディが穴だらけになり、ガラスが砕け散った。親分は、蜂の巣になり、見る見るうちに血塗れになっていく。


それでも銃撃は止まない。


UZIとベレッタM12が容赦なく加東の親分の息の根を止めた。破壊された車の中で、親分は鮮血の海に沈んだ。


やがて信号が青になると、銃撃は止み、その車は、そのまま右折して姿を消した。


それは斎藤の手下達の乗った車だった。


加東組の若い衆らは大将の右で、束の間の休息をとっていた。


若い衆らはどこか不安気な表情だったので、店の大将が、場を和ますために声を掛けた。


「おめぇら、どうした?元気ねぇぞ。親分は元気かい?」


そう言って、店からのおごりで、若い衆に餃子を振る舞った。


「あざーす!!」


若い衆らは大将に礼を言った。


大将はその後、店のレジに戻ると、宅配屋が持ってきた荷物にサインをした。


宅配屋が店から出て、一分したぐらいだった。


凄まじい閃光と轟音、そして爆風が店を襲った。


店の入り口が吹き飛び、窓ガラスが木っ端微塵に吹き飛んだ。


その爆発は凄まじく、店の外の街路樹を薙ぎ倒すほどだった。


荷物の中身はSemtex(セムテックス)だった。旧チェコスロバキアの高性能プラスチック爆薬だ。


首都高を下りた俺は環状線を走り、その後、九箇所の交差点を通過して、いよいよ事務所に近付いた。


途中、やたらとパトカーや救急車のサイレンが喧しく鳴っていた。


「うるせぇなー!!」


俺は嫌な予感がした。


遂に事務所に着いた。俺は車を降りて急いで事務所に入った。誰もいない。


そこで、いつもの溜まり場のラーメン屋に走った。ところがだ。


非常線が張られ、すげぇ人数の警察や野次馬が集まっていた。パトカーが何十台も停まっている。機動隊までいやがる。


俺は愕然とした。店が跡形もないくらいに吹き飛んでいた。


俺は後退りすると、ぐるりと向きを変えて、再び車に飛び乗った。


「やべぇ、親分を探さねぇと。」


もしかすると、近藤の親っさんの所に行ったかも知れねぇ。


俺は車を走らせた、と、俺は慌てて急ブレーキを踏んだ。


交差点の数メートル手前だった。


道路にも非常線が張られている。ポリ公(警察官)が車に近付いてきたので、俺はカタギのフリをして、窓を開けた。


「すみません。事件が起こりまして、この先は通行禁止です。迂回して下さい。」


ポリ公がそう言ったので俺は引き続き、カタギのフリをして答えた。


「ああ、そうなんすね。分かりました。」


仕方がねぇから、俺は車をUターンさせて迂回しようとした。すると。


俺の目に加東親分の車が見えた。数メートル先だったが、あれは間違いない。親分の車だ。


その車は木っ端微塵だった。


「ちくしょう…。殺られた。」


俺は柄にもなく、ちょっとだけ涙が溢れちまった。


脳裏に思い出が過った。


俺は車を走らせると、上部の近藤組の本部へ向った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


小説「コンフリクト」


第九話「餞別」


緋陵会の本家の敷地に一台の車が停まっていた。近藤組の車だ。


「そういう訳で、この前話した通り、勝生会とは正式に手打ちだ。」


坂下さんが近藤親分に伝えた。


坂下さんは緋陵会の本家若頭を十五年務め上げた切れ者で、これまで色んな喧嘩(抗争)を先頭に立って指揮ってきた武闘派だ。


「近藤、おめぇ、少し休め。疲れたろう?」


植村会長が、近藤親分にそう言うと、親分は、椅子から立ち上がり、深々と一礼すると、部屋を後にした。


車の所まで、坂下さんが着いてきてくれた。で、近藤の親分に伝えた。


「近藤。勝生会は、言う事聞かねぇ子分を一人破門したよ。だがなぁ、その子分ってのが曲者でなぁ。」


すると、近藤の親っさんが坂下さんに聞いた。


「頭(かしら)、その子分ってのは、どんな奴で?」


すると坂下さんは静かに返した。


「何でも外国相手に手広く商売してるらしいんだが、何で破門されたかって言うと、シマを勝生会に明け渡して、突然バックレたらしい。」


親っさんが尋ねた。


「そいつの行方は?」


坂下さんが言う。


「分からねぇ。勝生会としては、もうそいつとは無関係だが、もし緋陵会に手出しする様なら、こっちで焼き入れて殺ってもいいそうだ。先方がそう言ってるし、うちの植村会長も了承済みだ。」


近藤の親っさんは、成る程と頷いた。


「で、そいつの名前は、何すか?」


親っさんが聞くと、坂下さんは答えた。


「そいつの名は永田だ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「Well then, please ship the shipment as scheduled.(じゃあ、予定通り、積荷を出荷してくれ。)」


永田が言った。


その頃、永田の姿はマニラ港にあった。


マニラ港は、北港、南港、マニラ・インターナショナル・コンテナターミナルなどの複数のターミナルを有するデカい港だ。


工業団地の多いルソン島南部ラグナ・バタンガス地区への貨物が集まる場所でもある。


勿論、ヤバいブツもたくさん集まる。


「Nagata-san, it's an honor to do business with you.(永田さん、貴方とビジネスができて光栄です。)」


現地の税関職員の幹部が永田に嬉しそうに話した。


永田はここを拠点にするために、税関職員やら外務省の官僚やらに、かなりの額をつぎ込んだらしい。その額実に$1,500,000、つまり二億円弱だ。


永田は積荷を確認するために、手下にコンテナの一つを開けさせた。


重い扉がゆっくりと開き、中の積荷が姿を現す。


「此奴の使い道は色々だ。奴隷にするも良し、売春させるのも良し、臓器を抜いて売り捌くも良し。」


永田は上機嫌で話した。


コンテナの中身は、たくさんの子供だった。男も女も、とにかくたくさん。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺は近藤組の本部の応接間に通された。近藤の親っさんを待った。


2時間ぐらい待った。すると、近藤の親っさんが、応接間に入ってきた。


俺は椅子から立ち上がり、深々とお辞儀をすると、そのまま、床に正座した。


「おめぇ、確か、加東のとこの…。」


親っさんが呟いた。


「親分!うちの加東組長は殺られました!仲間もっす!敵取らさせて下さい!」


俺は近藤の親っさんに全部話した。


「成る程な、だがなぁ、勝生会とは手打って運びになったんだよなぁ。」


近藤親分が言う。俺は親分に返した。


「親分!先方は、永田が勝手に喧嘩仕掛けてきたら、こっちで焼き入れてもいいって言ってんすよねぇ?」


俺はそう言うと土下座して頭を下げた。そして、親分に提案した。


「親分。俺が勝手に永田を殺ったことにして下さい。だから、いったんカタギに戻ります。そんで、カタギとして永田を殺ります。」


すると近藤親分は答えた。


「個人的な恨みで殺ったことにするわけか…。よし、分かった。覚悟はできてんだろうなぁ?」


その後俺は、自分の利き手(俺は左利き)の小指の付け根を包帯でキツく締め上げた。


親っさんが道具を貸してくれた。


分厚い板切れの上に、包帯を巻いた手を乗せる。で、鋭い刃のドス(匕首)を突き立てると、体重を掛ける様にして、ドスを降ろした。


鋭い刃が、俺の小指を斬り砕いていく。


「うっ、うぅ…。」


俺は静かに唸りながら、ドスの刃を完全に降ろした。


生暖かい血が、床に滴り落ちた。


俺は小指を近藤親分に差し出した。


「これで、おめぇはカタギだ。勝手にしろ。」


親っさんが言うので、俺は深く一礼して立ち去ろうとした。


すると親っさんが俺に何故だかゴルフバッグを渡した。


「餞別だ。持ってけ。」


親っさんが言うので、俺はそれを貰って、本部をあとにした。


「俺、ゴルフやらねぇんだけどなぁ。」


そう言いながら、俺は車に戻った。そして、ゴルフバッグをトランクに詰めようとした。


でもな、そのゴルフバッグ、案外軽かったんだよ。で、気になって中を見た。


「親っさん!あんた、めちゃくちゃ良い人だよ!!」


俺は早速、行動に出た。いよいよ、戦闘開始だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


小説「コンフリクト」


第十話「バーディーショット」


それから俺は血眼になって永田達を探した。だが、一向に見つからない。


どれくらい経ったろう?多分、半年だ。


ちょっとずつ貯めてたカネが、底を突き始めた。


俺は借りてるアパートの部屋の畳の上に大の字になって、仰向けになって目を閉じた。


ふと、近藤の親っさんから貰ったゴルフバッグのことを思い出した。


バッグは押入れにしまってある。


「バイトでもしねぇとカネが無くなっちまうなぁ。」


そこで俺は、近くのコンビニでバイトの求人誌を立ち読みした。で、ゴルフバッグのことを思い出したんで、求人誌にあった、ゴルフ場のバイトに応募した。


簡単な面接を受けた。以前は工場勤務で、機械に手を挟まれて、怪我して辞めたって言ってやった。


小指のことは、上手く誤魔化せた。


仕事は、ゴルフ場の芝の整備だった。


一ヶ月ぐらい経ったある日のこと。二人の客がプレーしに来た。


でもな。どっかで見た顔だ。


次の瞬間、俺は雷に打たれた様な感覚に襲われた。その客の一人、あぁ、間違いない。斎藤だ。


俺は仕事してるフリして、そっと斎藤に近付いた。


「伊藤さん。最高で何ヤード?スコアは?」


斎藤がもう一人に話し掛けている。


伊藤だと?伊藤って確か永田の。


俺はゴルフ場のペントハウスに戻り、上司がいないことを確認すると、パソコンの中にある、客のデータを覗いてやった。


「伊藤と斎藤…。あった。これだ。」


データによると、野郎どもは、毎月一回はプレーしに来てる。第二日曜か、或いは、第三日曜。


「決まった。後は殺るだけだ。」


ただ一つ気掛かりだったのは、永田がいねぇってことだ。


それもそのはず。永田はもう外国に住んでて、この国にはいねぇ。


その時の俺は気付いていなかった。仕方ねぇ。まぁ、取り敢えず、あの二人を殺ろう。


翌月、第二日曜。俺は準備して、ゴルフ場に向った。だが、この日は奴らは現れなかった。


次の週、第三日曜。俺はいつもの様に、芝を手入れしていた。キャディーでも無いのにゴルフバッグを担いで。


「来た!伊藤と斎藤だ!!」


カートに乗って、5番ホールに移動した。


俺は先回りして、7番ホールのグリーンの背後にある茂みに隠れると、担いでいた、近藤親分から貰ったゴルフバッグから、俺にとっての「ドライバー」を取り出した。


「ナイスショット!」


伊藤のボールが7番ホールのグリーンに載った。次は斎藤か。


シュッ!!


アイアンが芝を切ると、ボールはグリーンの手前のバンカーに落ちた。


「んだよ、アイツ下手じゃん。」


俺は茂みから、その様子をじっと見ていた。


バンッ!!


砂埃が舞って、ようやく斎藤のボールがグリーンに載った。


伊藤がパットを決めた。


コロォン…。


バーディーらしい。上手いじゃねーか。知らんけど。


俺はじっと待った。斎藤がキメたら、俺もキメる。


コンッ!


「馬鹿野郎、外しやがった!」


正直、斎藤は下手みてぇだ。


気を取り直して、もういっちょ。


コロォン…。決まった…。


俺は茂みから飛び出すと、伊藤の頭から足の先まで、フルオートで撃ちまくった。


ダダダダダダダダダダダ!!!!!


俺のドライバー、M4カービンが火を吹いた。


5.56✕45mmのNATO弾が、伊藤の身体を貫いて穴だらけにした。


血塗れの伊藤がグリーンにぶっ倒れた。青い芝が見る見るうちに鮮血で赤く染まる。


全弾ぶち込んでやったので、すかさず俺は予備の弾倉を装填した。


斎藤が全力疾走で逃げて行く。


俺は奴を追いかけると、セミオートに切り替えて、5発発砲した。斎藤の脚に命中した。


ラフに倒れ込む斎藤。


俺はM4を構えて、近付くと、セレクターをフルオートに切り替えた。それから、倒れた斎藤に銃口を向けた。


「斎藤!てめぇ、よくも高岡兄貴を殺ってくれたなぁ!!!」


俺が言うと、斎藤は命乞いした。


「た、た、た、頼む、殺さないでくれ、カネでも株でも何でもくれてやるから…。」 


そこで俺は尋問した。


「いらねぇよ、そんなもん!情報をよこせ!永田は何処だ!!」


すると斎藤は答えた。


「マ、マ、マ、マニラ…。」


俺はM4の銃口を斎藤の頭に押し付けた。


「マニラの何処だ!言え!!」


斎藤が答えた。


「パッ、パシック河南岸、イントラムロスのホテルマニラ…。」


俺が怒鳴る。


「ホテルだと?ホテルの何階だ!何号室だ!言わねぇか!!!」


すると斎藤は全部ゲロした。


「7階、7階の710号室…。」


それを聞いた俺は引き金を引いた。


ダダダダダダダダダダダ!!!!!


全弾撃ち込んで殺った。


芝が真っ赤に染まる。所々に斎藤の頭から吹っ飛んだ肉片が飛び散った。


俺は銃をその場に捨てて、ゴルフ場を後にした。


自分で言うのも何だけど、見事なバーディーショットだった。


雲一つない青空だった。俺の行方は、太陽だけが知っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


小説「コンフリクト」 


「end credit」


まぁ、そう言う事で、俺はマニラに来たって訳さ。


永田が何処に住んでるかは、もう分かってる。


俺はそこで仕事に就いた。地元のボスのボディーガードだ。


相棒はリカルドって奴だ。俺より三つ若い。


「Ramirez, I bought some food, so eat it.(ラミレス、食い物買ってきたから食えよ。)」


そう言うとリカルドは俺にロンガニーサを渡した。


俺はそいつに食らいついた。すると電話が鳴ったので、俺は受話器を取った。


「Ricardo, it's time for work. The boss is leaving.(リカルド、仕事だ。ボスが出掛けるぞ。)」


そんな訳で、俺は仕事をこなしながら、永田を狙い続けた。


その日の空は、所々に雲が掛かっていたが、太陽は容赦なく照りつけた。


痛いほどの光が、俺を包み込んだ。


(終)



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