第✚AB話 王子様とオレの抽選結果

 その日、オレは登録したメールアドレス宛に任◯堂からのメールが届くのを今か今かと待ち望んでいた。

 

 場所は王子様の家のリビングだ。


 広いソファーの隅っこでメールアプリの更新ボタンを数分ごとにタップしている。


「そんなにスマホを凝視していても、メールが早く届くことなんてないだろう?

 メールが届けば着信音が鳴るんだ。

 こっちにきてボクといちゃいちゃしていようよ」


 王子様が淹れたての緑茶をテーブルに置きながら、魅力的な提案をしてきた。


 誘い方が露骨だ。前かがみになったときに、大きな胸の谷間がよく見える。


 そんな方法でもオレには効果的で、一旦スマホの画面をオフにした。


 王子様の言う通りなんだが、それでも気になって気になって仕方がないのだ。


 ただ王子様の機嫌を損なうのもちょっと怖いので、オレはスマホ片手に王子様の隣に据わった。


 すぐに王子様が身を寄せて、オレの首に顔を寄せて匂いを確認してくる。


「ふふ、今日はちょっと暑かったからね。

 汗の匂いがするよ」


「あ、悪い。

 汗臭かったか?」


 風呂に入る前だし仕方ない。


「臭くはないよ。

 でも、汗臭い。

 すごく汗臭いよぉ。

 あぁ、すごく濃い……」


 王子様がトリップし始めたので、今は好きにさせておこう。


 オレは片手にもったスマホを再びタップした。


 メールはまだ来ない。


 そして、王子様はすんすん鼻を鳴らしてご満悦だ。


「ふふ、キミは◯天堂ハードが大好きだからね。

 ボクも応募してるからどっちかが当たればいいんだけど……」


「オレが当選する。

 オマエが当選する。

 どちらも当選する。

 ……どちらも当選しない。

 これは75%は当たるってことなのでは?」


「……数学が得意なキミから出た答えとは思えないけど。

 まぁ、それだけ欲しいってことなんだね。

 キミとボクのどちらかが当選すれば遊べるじゃないか。

 気楽に待とうよ」


 220万人の応募で生産台数は公表されていないので、可能性が計算できない。


 あぁ、当選して欲しいなぁ。


「ほら、果報は寝て待てって言うだろう?

 ボクと待っていようよ」


 寝ての意味ちがくない?


 まぁ、でも確かにメールばっかり気にしていても埓があかない。


 ここは王子様といちゃつきながら待つってのが、前向きかつ王子様のご機嫌も取れてよろしかろう。


 オレはスマホを置くと、王子様に改めて向き直った。


 王子様もオレの心境の変化を感じ取ったのか、うっとりとした視線を向けてオレへとしなだれかかる。


「ふふ、やっとその気になったかい?」


「今日は課題も終わってるしな」


 ハードの発売日もまだまだ先だし。


「キミがスマホを弄りつつボクがご奉仕するっていうプレイもありと言えばありかな?

 恋人をぞんざいに扱う、ないがしろプレイだ」


 なんだその不穏なプレイは。


「オレってそんなダメなカレシな感じ?」


「あ、いやいや、そんなことはないよ。

 そんなプレイもたまにならアリってことさ」


 ちょっと嬉しそうなのはなんでだろう?


 と、そんなアホらしい会話をしていたら、オレと王子様のスマホから同時に着信音が聞こえた。


 反射的にオレはスマホを取ってメールアプリを確認する。


 そんなオレに王子様は苦笑を浮かべて、自分もスマホを操作し始めた。


「……落選」


「あ、ボクは当選だ。

 よかったね?」


 うなだれるオレに王子様がスマホ画面を見せてきた。


「まぁ、いいじゃないか。

 ボクが当選したんだ。

 当日にはゲームプレイができるよ?」


「……そうだな。

 そうなんだけど……」


 なんだろう?


 この納得いかない感じは。


「ふふ、これでまたボクの部屋に入り浸る理由ができてしまったね?」


「ん?

 別にゲームなんてなくてもオマエのところには遠慮なく行くぞ」


 もう踏ん切りはついた。


 ケジメだけつければよし。


 勉強は勉強、遊びは遊び、そしてエッはエッだ!


「もう、キミのそういうは所はずるい……」


「ん? なんか言ったか?

 ……あ、そうだ。

 当選おめでとう」


「あ、ふふ、ありがとう」


 そんなふうに今夜も、オレと王子様は一緒に過ごした。

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黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖……かった! 栗井無牌太郎 @kakunosuke1126

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