第☁話 王子様と勉強会【後編】
「あー」
「ふふ、流石にのぼせてしまったね?」
オレと王子様はリビングの大きなソファーで、お互いに身体を預けながらぐったりとしていた。
もう、日もとっぷりと暮れた時間帯だ。三日ぶりとはいえ、ハッスルしすぎだ。
王子様の望むまま、オレが猛り狂った結果、精も魂も尽き果てた感じだ。
スッキリはした。
いろんな液体でベッタベタになってしまったので、王子様と一緒に風呂へ入ったんだが……
これがいけなかった。
子供の頃の記憶のまま、かなり広い風呂場だったのでいろいろ捗ってしまったのだ。
アワアワでヌルヌルだったからな。
オレも王子様ものぼせる一歩手前だった。
「キミと一緒に入浴なんてホントに久しぶりだ。
なんと五年七ヶ月ぶりだね。
実に……実に感慨深い。
当時は無邪気にはしゃいで入浴してたっていうのに、今日の入浴の仕方といったら……
子供の頃にお互いの背中を洗いっこしたのは覚えているかい?
昔を思い出して、童心に返る思いだったよ。
ふふ、でも今日は背中だけじゃなくて、まさか全身を洗いっこするだなんて……
今日ほどボクの家の浴室が広くてよかったと思ったことはないね!
ただ、次からは温めにお風呂を沸かすようにしようか?
そうすればもっと長く楽しめるね?」
王子様も悦んで……喜んでいたので良しとしよう。
実際、楽しくもあったしな。
長湯(意味深)でグデグデになってしまったが、涼んでいたらだいぶ回復してきた。
「……そろそろ夕餉にしようか?」
王子様も同じなのか身を起こして提案してきた。
半日以上は座りっぱなしではあったが、さっきまで激しく動いていたせいか空腹感はある。
「そうだなー」
頭がぼんやりして生返事になってしまった。
「賢者タイムかな?
お腹が空いてないならもっと遅くてもいいけど?
どうせ今夜は泊まっていくだろ?」
「お?」
そこまでは考えていなかったな。
まぁ、どうせ家も隣だし、着替えを持ってくるだけで準備できる。
……しかも、さっき「一人で寝るのが寂しかったら……」なんてことも言われたし。
「着替え取ってくるわ」
「ああ、それなら心配いらない。
キミの替えの服ぐらいいくらでもあるよ」
確かに、さっき王子様の部屋で勢いのまま脱ぎちらかしたパンツが、いつのまにか新品に変わってはいたが……
「まぁ、洗濯すれば明日までに乾くか。
たしかオマエの家の洗濯機って乾燥機能あったよな?」
「ん?
何を言っているんだい?
替えの服はそのまま進呈するよ。
キミの好きなメーカーの製品だ」
コイツ、そのままパクる気だな。
「決まりだね。
きちんとしたお泊りなんて久々だ。
そういえば初めての時以来かな?
ふふ、なんか嬉しいね」
アレはお泊りと言っていいのだろうか? まぁ、嬉しいのはオレも同じだ。
「それで夕餉はどうしよう?」
「あんまり遅くなっても時間がもったいない」
王子様はにやりとした後、わざとらしくスマホを確認し、
「そうだね。
時間がもったいない。
ぐずぐずしていたらいろいろできなくなってしまうね?」
そのつもりなので何も言えない。
「少し待っていてくれ。
すぐに用意しよう」
「あー、手伝うぞ。
オマエも疲れてるだろ」
「んー、そうでもないよ?
キミから元気を分けてもらったからかな?
肌もつやつやだ」
確かに、見るからに肌艶も良くなっているようだ。
血色が良いのは風呂上がりだからか?
王子様なら房中術とかも知ってそうだ。
でも確かあれは、出してしまったらダメなんじゃなかったっけ?
なんか男から一方的に精気を吸い取る、みたいなやり方もあったような?
「まぁ、キミは回復に努めてくれ。
キミは出して、ボクが受け止める!
男側が消耗するのは必然だろう。
まさにせいし……性器、おっと、精気の源を出しているんだからね」
何度も言い直すなら言わないほうがよくない?
「性器から精気を出すって韻を踏んでいてちょっと面白いね?」
「しらんわ!」
「まぁ、こんなこともあろうかと、朝のうちに色々仕込んでおいたんだ。
温めるだけですぐに食べられるよ。
昼の残りもある」
きっと王子様の中では、今日オレが泊まっていくことは決定していたんだろうな。
妙なテンションだし。
「ああ、せっかく昼飯作ってくれたのに、あんまり味わって食べられなかったからな。
残ってるならちゃんと食べたい」
「ふふ、キミは美味しそうに食べていたよ?
でもまぁ、そう言ってくれるのは嬉しいね」
言葉通り嬉しそうにはにかみ、王子様はオレのほっぺたに唇を触れさせてからキッチンへ行ってしまった。
「……っ」
思わず息を飲む。身体が固まってしまい、動悸が激しくなる。顔面が急激に熱を持ち、湯気でもでてしまいそうだ。
……なんか、こう、とてつもなく照れくさい。
もっと、すごいこともしているし照れるようなことでもないのかもしれないが。
今の王子様の行動など、とても自然に行っていて、まるで恋人同士ではないか。
「いやいや」
まるで、ではなくて正真正銘、オレと王子様は恋人同士だった。
付き合い始めて数週間、オレの方はまったくもって慣れていない。
一方で王子様は常に自然体というか、周りのことなどどこ吹く風で、オレと付き合っていることを公言し、アピールに余念がない。
王子様曰く、
「ようやく収まるべきところに収まっただけさ。
15年もかかってしまって遺憾ではあるけども。
遅れた分は取りもすつもりだ。
協力してくれるよね?」
まぁ、舞い上がっているのだろう。
オレも同じだ。
舞い上がって、地に足がついていないどころか、雲の上でも歩いているようにフワフワと、夢見心地だった。翼でも生えて天に昇ってしまいそうだ。
王子様と一緒にいるのは楽しい。付き合う前から常に一緒にいたけど、比べ物にならない。
同じことをしていても全然違う。
学園での生活、昼飯を食ってるときでも、勉強しているときでも、下校しているときでも……
ただ、今日の勉強会で少し落ち着くことができたかも知れない。
王子様と在ることは日常なのだから、いつまでも浮ついていられないな。
オレの部屋には今までも頻繁に来ていたが、これからは王子様の部屋にも行くことが増えるだろう。
入り浸ってくれってお願い(強制)されたし……
全部、全部日常に落としこんで、王子様と楽しく普通に過ごせば良いのだ。
そうすれば、勉強そっちのけとか、周りの視線が気になるとか、なくなるはずだ。
「……」
無理だ!
王子様と一緒に過ごすことが楽しくて仕方ない。
ありとあらゆることをほったらかして優先したい。
歯止めが効かない。
「どうしたんだい?
難しい顔をしているけど?」
悶々と考えていると、いつの間にか夕食の準備を終えて王子様が戻ってきた。
「オマエと一緒にいる嬉しさを噛み締めていたんだ」
「ふふ、なんだい突然?
ボクも嬉しいから一緒だね?」
くっ、すごく自然だ! 王子様はもうすでに日常に落とし込んでいるというのか!?
と、とりあえず、王子様との食事に集中しよう。せっかくオレのために用意してくれたんだし。
テーブルを見れば、具材と山盛りのサンドイッチ用のパンと、なぜかパンの耳。
「ちょっと行儀が悪いけど、リビングで食べようか。
食べやすい物を用意したよ」
そういえば、王子様の手料理っていつから食べ始めたんだっけ?
今日の昼飯もそうだったが、普通に食べるようになったな。
記憶を探る。思い出したのはいつかの卵焼きとミニハンバーグをオレのゆで卵と交換したときだったはずだ。
付き合ってからネタばらしされた食材は衝撃だったが、もう気にもならない。
「美味そうだな」
「パン食が続くのも如何なものかと思ったけど、具材は昼よりも豪華だよ。
なんと! キミの大好きな照焼チキンだ。
もちろん手作りさ。
トースターを持ってきたのでパンを焼いてから挟んでも良いし、生のままでも良い。
そういえば、キミは生が好きだよね!」
「い、今それを確認する必要ないだろ!」
「いやいや、ボクも大好きだよ?」
王子様はにやりと笑って、
「……生の食パン」
オレの隣に腰を下ろして、王子さまは密着してきた。
最早何も言うまい。
「ぐっ!
そうだな、パンは焼かないほうが好きだ」
「あとはアボカドとエビのディップだ。
エビの食感がたまらないね。
クリームチーズも用意したよ。
照焼チキンと一緒に挟んでも良いし、ディップと一緒に食べても良い。
すべて一緒に食べても美味しいはずだ」
ホントに美味そうだ。照焼チキンの匂いと、アボカドの緑とエビの赤が食欲をそそる。ちなみに昼の残りは玉子サンドだ。
「うん、色とりどりでとても華やかだ」
「急激に腹が減ってきた」
「美味しそうな物を見ると、そういうことあるよね」
王子様がドリンクヨーグルトをコップに注ぎながら、屈託なく笑いかけてくる。
「さぁ、何から食べるんだい?
ボクが挟んであげるよ」
コイツはまたオレに手づから食べさせるつもりだな。
「それともこっちで挟んであげようか?」
むにゅっと寄せて上げてきた!
さっきから気になってはいたのだ。カーディガンを羽織っているが薄着のせいで王子様の胸元がよく見えてしまっているのだ。
必死に見ないようにしていたんだが、つい視線がその深い谷間に行ってしまう。
当然、王子様は気がついているだろう。気がついた上でオレの視線が泳ぐ様を楽しんでいるのだ。
「て、照焼チキンで」
そう簡単にはノってやらないからな!
ただでさえ密着するくらいオレの近くに座っている王子様が、さらに身を寄せ耳元で囁いてくる。
「……あとで挟んであげるね?」
王子様がむにゅむにゅ動かしている胸元から目を離せないが、ノらないったらノらないのだっ!
「最初はシンプルにチキンだけで食べて欲しいな」
王子様の流し目にクラクラしたが、なんとか自制できた。
パンに照焼チキンを挟んだだけのシンプルなサンドイッチを、王子様が差し出してきた。
照焼チキンのタレと油がパンに染み込み、その味を想像させる。口の中に涎が溢れてきた。
オレが受け取ろうとした瞬間、王子様の目力が強くなる。
「あーん」
オレは自発的に口を開けた。
いいじゃないか、ラブラブで。
恋人らしくて。
もう王子様の家にいるときは諦めよう。
郷に入りては郷に従え、だ。
「ふふ、ついに観念したようだね。
さぁ、ボクに存分に甘えてくれよ。
もうキミは指一本動かさなくていい。
食べ物はボクが食べさせてあげるし、飲み物はボクが口移しで飲ませてあげるからね」
「せめて食い物だけで勘弁してくれ」
「もう! 往生際が悪いなぁ」
そう言いながらも、とりあえず満足したのか王子様謹製の照焼チキンサンドを差し出してきた。
「はい、あーんして?」
オレは無言で口を開いた。
そういえば、ここまで熱心に、徹底的に、甲斐甲斐しく王子様に世話されるのはあの日以来だなぁ。
サンドイッチを齧る。
照焼チキンの甘じょっぱいタレと濃厚な肉汁の風味が口いっぱいに広がる。薄めのパンに照焼のタレが染み込んでいて、予想通りとても美味しい。
「美味い」
「ふふ、それはなによりだね」
頷いて王子様もサンドイッチに齧り付く。当たり前のように、今オレに食べさせた物へだ。
「うん、我ながらよく出来たと思う。
これはお弁当に入れてもいいね。
味が濃いから冷めてもここまで美味しいとは。
キミ成分も添加されて最高だ!」
美味そうに食べる王子様。自画自賛だが、ホントに美味しいので文句はない。最後のセリフはよくわからん。
ホントにこの王子様は、オレと食べ物をシェアしたがるな。
「ほら、もっと食べてくれよ?」
「……あーん」
「ふふ、はい、どうぞ」
さっきよりも大きく齧りついて、サンドイッチの半分ほどを平らげる。
その拍子にチキンがはみ出して、王子様の手にタレが掛かってしまった。
「おっと」
「ふあん(すまん)」
「ふふ、かまわないよ」
けっこう派手にタレが飛び出してしまった。王子様の手首まで流れてしまっている。
「あぁ、もったいない……」
そう言って、王子様は自分の手首についたタレを舌先で舐め取った。
王子様にしては行儀の悪い仕草だ。
オレに見せつけるように動く、赤く長い舌が妙に艶めかしい。
せっかくの照焼チキンを味わうのも忘れて、思わず見入ってしまうほどエロかった。
オレは王子様の舌が器用に動くことを、身を持ってよく知っている。
否が応にも、王子様の口でのアレを思い出してしまった。
「そんなに見られたら恥ずかしいよ?」
「んぐっ!?」
王子様の確信的なツッコミに、照焼チキンが喉に詰まりかかるが、無理矢理飲み下した。
「はい、飲み物」
オレは慌てて王子様の差し出したドリンクヨーグルトを受け取って、一息にあおる。
そんなオレの様子を王子様は、なんとも嬉しげに見つめていた。
「ふう、変な物を見せるなよ」
「変とは失礼だね。
……いったい、何を想像してしまったんだい?」
「……」
当然だが何も言えない。
王子様のことだ。オレの内心などお見通しだろう。
オレは視線を逸らして誤魔化すことしかできなかった。
「ほら、口の端に着いてしまっているよ」
「お? すまん、ティッシュ取ってくれ」
「はい」
口を拭うため、オレは王子様から差し出されたティッシュを受け取ろうとした瞬間、
「えい!」
「お、わっ!?」
王子様に手首を掴まれ、一気に引き寄せられた。
そして、王子様に口の端をペロリと舐められる。
「ふふ、ごちそうさま」
舌舐めずりをして王子様は満足げだ。
「オマエなぁ……」
オレの性癖はもうすでに王子様にバレてしまっているが、王子様の性癖も徐々に理解できてきているぞ。
「なんだよ、もう、いいじゃないか。
キミだって満更でもないだろう?」
「う……」
そうですけど! そうなんですけどっ!
正直王子様の言う通り、コイツのこのクセは嫌いじゃない。
王子様にとっての愛情表現の一つなんだろうが、なんというか……尊い。
普通、どんなに親しい人間にもやらないだろ?
「照焼チキンの残りはボクがいただくよ。
さぁ、次は何を食べるんだい?」
オレの食べ差しを美味しそうにパクつきながら、王子様はおかわりを促した。
ふむ、どれも美味そうだが、順番に食べていこう。
「アボカドが食べたい」
「承知したよ。
パンはトーストにするかい?」
「よろしく」
「生が好きなのに?」
「そ、それはもういいから!」
悪戯っぽく笑ってから王子様はパンを取って、トースターに入れてスイッチをオンにした。
別に焼いたパンが嫌いなわけじゃない。アボカドとエビのディップならトーストのほうが合うだろう。
パンのザクザク食感とアボカドの滑らかさとエビの歯ごたえを想像しただけで涎がでそうになるというものだ。
パンが焼けるまで手持ち無沙汰だな。
オレはドリンクヨーグルトを飲もうとコップを手に取った。
王子様に何か言われるかとちょっとドキドキしたが、特に何もなかった。
ただし、その視線は猛禽のようでオレの一挙手一投足を見張っている。
「さて、パンが焼けるまでいちゃいちゃしていようか?」
そんなに長い時間でもないだろうに……
王子様はオレの首元に顔を寄せる。
すんすんと鼻を鳴らして、いつものようにオレの匂いを確認した。
「む……」
なぜか不満そうに唸る。
く、臭くないよな? さっき一緒に風呂入ったし、全身隅々まで王子様に洗われたし……
「キミの匂いが薄い……
これは……誤算だった」
珍しくしょんぼりしているが、そこまでがっかりすることじゃないだろう?
「ん、はぁ、足りない。
んん、全然……足りない」
オレの首筋を王子様の鼻先が舐める。耳の後ろをしつこく嗅ぎ回ったり、どさくさに紛れてオレの胸をくすぐったり、食事中なのも忘れてやりたい放題だ。
「うう、ボクと同じ石鹸の匂いがするのはマーキングするまでもなくて、すごく、すごく良いんだけど……
なぁ、物は相談なんだけど、明日から三日ほど入浴を控えてくれないか?」
「やだよ!」
恨めしそうに見つめてくるが、流石に辛すぎるわ。
と、その時、トースターからパンが飛び出してきた。ハートマークの焼き目が付いている。
「ポップアップトースターなんて初めて見たな」
あと、ハートマークの焼き目ありとか。
「単一機能だからあまり需要がないのかもしれないね。
ボクはけっこう好きだ」
気を取り直したのか、テキパキと準備を始める王子様。
アボカドとエビのディップをたっぷりと掬い取りパンに乗せる。パンを半分に折って完成だ。
「パンの折り方がちょっと雑になってしまったが、ボクの愛情がたっぷり入っているよ?」
愛情が気にならないでもないが、まぁいい。
相変わらず、オレに手渡す気はないようで、王子様は嬉しそうにサンドイッチを差し出してきた。
「あーん」
最早抵抗する気もないので、差し出された物は素直に食べることにした。
王子様の持ち手の方から中身が飛び出さないように気をつけながら、サンドイッチに齧り付く。
ザックリとしたパンの食感と柔らかなアボカドとプリプリしたエビの食感、少しだけ酸味があってこちらも文句なく美味い。
「どうだい?」
「こっちも美味い」
「それは……なによりだね」
オレの食べる様をじっと見つめる王子様。
いつかの昼飯や手料理をオレに食べさせているときの、とろりとした顔だ。
「クラッカーに乗せて食べても美味そうだな」
「そうだね。
あいにく、今日は用意してないけど。
代わりにパンの耳を使ってみてくれ」
「うん?」
パンの耳が用意されているのは見つけていたが……あぁ、なるほど。
よくよく見てみれば、パンの耳はもうすでにカリカリに焼いてある。
オレはそのパンの耳を手にとって、アボカドのディップを掬い取った。
王子様に止められるかと思ったがそのつもりはないようで、オレはそのまま齧りついた。
うむ、美味い。
パンよりもサクサクで食べやすい。おやつっぽいがパンの耳を利用できるのが大変良い。
「これ、いいな。食べやすい。
パンの耳って焼いただけ?」
「うん、今日のは焼いただけだね。
オリーブオイルとにんにくでガーリックトーストっぽくしても良い。
無塩バターに浸してから焼いても良い」
それは美味そうだ。
「ボクにも食べさせてくれよ」
もう一口食べようとしていたところで、王子様からお願いされた。
なるほど、これをして欲しかったからだな。
オレとしても特に否やはない。
「ほら、口開けろ」
「あーん」
可愛らしく口を開いた王子様へ、オレはパンの耳を差し出した。
そんな王子様を見ていて、オレの中に悪戯したい気持ちが湧き上がる。
休憩しているときに王子様の指を舐めさせられたな。
何度かに分けて王子様に食べさせてから、最後にオレの指を王子様の唇に触れさせた。
「ん? んぅ!?」
王子様の柔らかな唇を堪能してから、少し強引に王子様の口の中に指を差し入れた。
「ん、はぁ、んふ、ふぁ、ちゅ……」
突然のことに驚いた王子様だったが、オレの意図に気がついて、熱心にオレの人差し指をしゃぶり始めた。
「ぷぁ、ちゅ、ちゅ、ぇろ……んぁ!?」
中指も追加して、王子様の口の中を蹂躙する。
王子様の舌を二本の指で挟む。王子様がちょっと苦しそうにするが、その表情がオレを誘っているようにしか見えない。
「ん、んは、んぁ、ぷはぁ……」
オレは王子様の口から指を抜き出した。
唇を唾液で濡らし、少し名残惜しそうな表情を浮かべる王子様。
「もう……食事中なんだから、えっちなことしたらダメだろ?」
「美味かったか?」
「え?
……あ、うん、とっても」
潤んだ瞳と火照った頬が色っぽい。
王子様が身体を擦り寄せてくる。
ただでさえ薄着なのだ。ちょっと触れ合っただけでも、王子様の柔らかな身体を意識してしまう。
「ボク……もう、その……だから」
無意識なんだろうが、王子様自身が敏感な場所をオレの身体に擦り付けているふしさえあった。
相変わらず、オレの首筋に鼻を押し付けて、すんすんと匂いを確認する。
さきほど匂いが薄いと言っていたせいか、いつもより激しい気がするな。
「なぁ、キミもそうだろう?
我慢なんかしてないで、ボクを……」
王子様の予想通りバッキバキだ。
「ん? なんのことだ?
よし、次は昼の残りの玉子サンドを食べたいぞ」
「あ……うぅ、はい、あーん」
渋々と言った感じで、玉子サンドを取って王子様が差し出してきた。
「あーん」
オレは満面の笑みで頬張る。
「美味い!
オマエの作った食事は最高だ!」
「あ、うん。
それは嬉しいんだけど、今は……ほら、ね?」
「よし、もう一口くれ」
王子様の懇願を気が付かないふりをして、次の一口を要求する。
「うぅ、意地悪しないでくれよぉ。
はい……」
差し出してきたサンドイッチを更に食べる。
美味い!
王子様の弱った顔が最高のスパイスだっ!
「絶対っ! 良からぬことを考えているね!」
不満いっぱいでオレを威嚇してくる王子様だが、ちゃんとサンドイッチは差し出してきてくれた。
「そんなことないぞ。
怒ったオマエも可愛いな?」
「くぅ!
こんな、こんな雑に褒められているのに嬉しくなってしまう!
もう……もう!」
密着してオレにサンドイッチを食べさせていた王子様だが、オレが食べ終わるやいなや、腕を取って両手で抱きしめ、足まで絡めて完全にオレを拘束する態勢だ。
流石に虐めすぎてしまったか?
オレへとおねだりする視線を向ける王子様にゾクゾクした。
腹も満たされたし、王子様も焦らしてしまったし、そろそろキチンとしないと王子様が爆発しそうだ。
とりあえず、謝ってから王子様のご機嫌を取って、雰囲気を作ってからそのまま……
「悪かったって。
オマエが可愛すぎてついついいじ……うわっ!?」
唐突に視界が反転する。背中に衝撃が走るが、息が詰まるほどではない。
布製のソファーがオレを受け止め、天井が見えた。
「……ぐっ!?」
下腹に重みがかかる。大した重さではないし、慣れた重さでもあるし、しかもとても柔らかい。
「ふ、ふふふ……」
どろりと笑う王子様の顔が天井を隠し、オレの視界いっぱいに広がった。
王子様に馬乗りにされてしまった。マウントポジションを取られて身動きができない。
あまつさえ、いつの間にやら手首までがっちり固められている。
「キミときたら、ずいぶんとボクを焦らしてくれたね?」
しまった。もう爆発した後だったか。
王子様の真っ黒な目が、オレを捕らえてねっとりと濡れていた。
ぐるぐるとオレを見つめて、王子様の瞳の奥に引き込まれてしまいそうだ。
「お、落ち着け」
「ボクをいじめて、楽しかったかい?」
「うん、正直すっげー楽しかった!」
会心の笑顔で答えてしまった。
王子様もにっこりと笑顔を返してくれる。
「じゃあ、今度はボクが楽しんでもいいよね?」
はむっと耳を甘噛みされた。
おお、いつもよりも優しくないぞ。歯を立てられて、耳の軟骨、耳たぶと順番に噛みつかれる。
こ、これはなかなか……
「ふふ、感じているのがわかるよ?
今度はボクが虐める番だ」
「悪かったって」
「ふ、ふんだ! 今日は許さないぞ」
「……どう許さないんだ?」
「む、なんか余裕があるのが気に入らないけど
差し当たっては……」
王子様がカーディガンを脱ぎ捨てる。
マウントポジションのまま、王子様が赤い下でペロリと唇を舐めて、オレを見下ろしてきた。
下から見上げる大きな胸が、とても良い目の保養になるね。
ノーブラだし!
「からっからになるまで、搾り取ってあげるよ!」
「もうそこそこエンプティなんだが……」
夕食前まで散々ハッスルしたからな。
「うん、キミができる回数はだいたい把握してるよ?
今日は新記録に挑戦しようか?」
「お手柔らかに……」
~おしまい~
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