いっけなーい地獄地獄

おはようございます！！

　いっけなーい地獄地獄！　わたし、りお！　獄卒！

　殺戮（さつりく）の戮（りく）に殴（おう）打（だ）の殴（おう）で戮殴（りお）！

　17歳！

　暗いうちから起き出して、わたしは今日もワンオペフルスイング！　だけど全然つらくはないの。だってお仕事だいすきだもん！

　おててをメガホンみたいに口に当て、お日様に向かって元気よく！

「おはようございまーーーーーす！！　焼き尽くせ！！！」

　カッ！！！　

　焦熱地獄に朝が来ます。

　わたしはちょこんとしゃがんで、デキゴコロ、ユルシテクレと鳴く人間たちがゆらゆら踊って焦げるのを眺めます。

　わー、みんな必死。かわいいー。

　もっと眺めていたいんですが、次の現場にいかなきゃです。明日もよろしくね地獄の太陽。

　じゃあちょっと山行ってくるー！

　あー、かかってますかかってますねー！

　針の山のぼってでも見たいもんなんですかねショート動画なんて。もー、みんなザクザクじゃない、しょうがないなぁ。

　這いつくばって夢中で見てるのを後ろからスマホひったくって、ぽーい！　あははははは！　ほら頑張って拾いに行ってー！

　ぽーい！

　ぽーい！

　ぽーい！

　たまに反抗的な目で見てくるオスとかメスとかいるとゾクゾクしちゃう。遊んで欲しいのかなって。

　ギュッとされたい？　ゴシゴシしてあげようか？　あ、あれやる？　超たかいたかい。

　たかいたかーーーーーーーーーーい。たかいたか〜〜〜〜〜ーーー……高いところから針山に落ちると、人間って独特な音を立てるんですよね。ブプっとかボプっとか。体小さい人のほうが音は高くてピピっみたいな音がでるの。たまに和音になるんですよ？　クセになるから、たまに無性にやりたくなるの。

　べプポっ。

　Aメジャー。

　じゃあ次。川行こう川。

　良い子のみんなおまたせー！

　せーの、ジ・ゴ・クラッシュ！！

　どーん！！

　あーあ、潰れちゃったね。私がいない間に頑張ってたのにねー。ざーんねん。また最初っから頑張ろっか。

　えー？　ママ？　やだなぁわたしママなんかじゃないよ。だってまだ17歳だよ？　違うってばママなんていないよ違うってばあんたたちがママを置いて先に死んじゃったんでしょ！！

　残されたママがどんな気持ちになるのかわかってるの！？

　誰よあんた。

　わたしはあんたのママじゃないよママより先に死んじゃう子なんてママの子じゃありませんママだって頑張ってたんだよママのママは役に立たないしパパは全然帰ってこないしあんたは何考えてるのか全然わかんなくて泣いてばっかでママをひとりぼっちにさせたのにママが気晴らしにお出かけしたのがそんなに悪いことだったのねえ答えてママが悪いのママが？

　どうして勝手に死んだのよ！！！　ねえ！！

　ああ夜が来ちゃう夜が来たら思い出しちゃう夜が。

　私はママじゃない、ママじゃない、ママじゃない。

　私はあんたを殺したママじゃない。あんな女がママなはずない。

　カッとなってぶっちゃったけど、良くない事ってわかってたからわたしは頭を冷やそうと思って外に出たの。それだけなの。

　たくさん後悔したの。たくさん反省したの。私はちゃんとしたママだから反省したの。

　あの女とは違うの。違うの。違うの。

　夜が来たら思い出してしまう。私の名前は戮殴（りお）じゃない。私は獄卒なんかじゃない。私は17歳なんかじゃない。

　私は、私は、頑張ってたの。いいママになるはずだったの。

　やめて！　来ないで！　焦げるところかわいいなんて本心じゃないの！　あんなのキモいだけ！　私はそんな人間じゃないの。人が潰れる音なんて聴きたくない。私はそんな人じゃない。そんな人なんかじゃ！

　ああああああ、朝が来るまた朝が。夜の私を苦しめる朝が来ていっけなーい地獄地獄！　わたし、りお！　獄卒！

　殺戮（さつりく）の戮（りく）に殴（おう）打（だ）の殴（おう）で戮殴（りお）！

　17歳！

　暗いうちから起き出して、わたしは今日もワンオペフルスイング！　だけど全然、つら、くはないの。だって、お仕事だいすきだもん！

　おててをメガホンみたいに口に当て、お日様に向かって元気よく！

「おはようございまーーーーーす！！　焼き尽くせ！！！」

　私は。

「おはようございまーーーーーす！！　焼き尽くせ！！！」

　私は。

「おはようございまーーーーーす！！　焼き尽くせ！！！」

　私は、りお！

　殺戮（さつりく）の戮（りく）に殴（おう）打（だ）の殴（おう）で戮殴（りお）！

　17歳！　働き者の獄卒！

　毎日お仕事頑張ってるけど、ワンオペ大変だしもう辞めたーい！

　そんなある日、お空から金色の糸が降りてきて、私ぴぴーんと来ちゃった。

　きっとあれは有名な糸。学校で教わった蜘蛛の糸。学校ってなんだっけ？　てへ。

　でもきっと、あれを登れば抜けられるはずよこの地獄から。さあ行くの私。きっとたくさん後悔したから降りてきた救いの糸。

　走って全力で。誰にも先を越されないように。

　あーっ！　あれに見えるは有名な盗賊の、なんだっけ、あいつあいつ！　落っこちるやつ！

　だけど私のほうがずっと速いのよ。

　獄卒パワーで糸をたぐって、ぐんぐん登るんだから。

　登って、登って、救われるのは私。抜け出すのは私。下を見てはだめ。すごく揺れてて、きっとだれか来てるんだけど、見てはだめ。あの盗賊は下を見たからダメだった。

　私はそんなことしない。　

　まって。まって。誰よママって呼んでるの。あんたもなの？　あんたも登って来てるの？

　ああ、人間たちが塊になって。あの子もあの子も一緒になって私を呼んでいる。

　地獄に来てまで邪魔すんなよ！

　なんとかっていう盗賊も、どいつもこいつも地獄にきて当然の連中が！

「おはようございまーーーーーす！！　焼き尽くせ！！！」

　じゅっ。

　ぷつん。

　ペポプっ。

　Dマイナー。