殺す理由は、まだ言えない。

賀来 晶雪

第1話

第一話 「付き合ってくれる? じゃあ、死んで」


春。


入学式から数週間が過ぎた放課後、僕は屋上にいた。別にサボりとかじゃない。正当な理由がある。


「──あのさ、付き合ってほしいんだよね。私と」


告白されていたからだ。


しかも、相手は如月茉莉(きさらぎ まつり)先輩。学校でも有名な才色兼備の完璧超人。学年一の美女、成績トップ、運動神経も抜群、ついでに生徒会副会長。


そんな人が、よりによって僕──冴えない地味男子・斉藤陸に告白してきたのだ。何かのドッキリかと思って辺りを見回したけど、屋上には僕と先輩の二人だけ。


「え、いや、僕なんかでいいんですか?」


「うん。いいよ。むしろ、君じゃないとダメなんだ」


ニコッと微笑む先輩は、太陽の光すら嫉妬する美しさだった。


夢かと思った。だけど、その夢はすぐに悪夢へと変わる。


「じゃあ──死んでくれる?」


「……は?」


先輩は笑顔のまま、ポケットからナイフを取り出した。


冗談だろ?って笑いかけた僕の胸に、その刃は迷いなく突き刺さる。


 



 


激痛。息ができない。視界がぐらぐらして、足元の景色が遠ざかっていく。僕は、意味もわからないまま、意識を手放した。


 


……そして、目を開けると。


 


「斉藤くん、おはよう! 今日もいい天気だね」


目の前には、今朝と同じ朝のホームルームがあった。


窓の外の景色も、クラスメイトの服装も、机の上のプリントも──全部、今朝見たものと同じ。


僕は、昨日の放課後に死んだはずなのに、生きていた。


いや──正確には、“昨日に戻っていた”。


 


「……なんだこれ」


 


タイムリープ? ループもの? まさか、自分がそんな物語の主人公になるなんて。


混乱する僕のもとに、休み時間、屋上から手を振る先輩が現れた。


笑顔で、まるで初対面のように、こう言った。


 


「ねえ斉藤くん、ちょっと話があるんだけど、屋上いい?」


 


──まるで、また同じ殺しが始まるみたいに。


 


(つづく)




初めての投稿ですが、完結まで書くことを目標に更新します。

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