第17話:ヒロインたちの想いの再燃

# 恋愛フラグを折るだけの簡単なお仕事です。


## 第17話:ヒロインたちの想いの再燃


 露が木の葉を撫でる早朝、神代遼は海辺の岩に腰掛け、朝焼けを見つめていた。昨日の「フラグブレイク戦争」の余韻が彼の心に残り、それは左腕の腕輪に浮かぶ「12.5」という数字となって光っていた。波が岩にぶつかる音だけが時を刻む静寂の中で、遼はため息をついた。


「あの戦い、なんだったんだろうな……」


 つぶやきを風に乗せると、すぐに頭の中で甘い声が響いた。


『楽しかったでしょ? あなた、最後は素敵な選択をしたわね』


 アフロネアの声には、昨日までにはなかった親密さが混じっていた。


「別に楽しくなんかなかったよ。それより、今日はもう変なことしないでくれよ」


『そんなこと言って。でも、今日は大人しくしててあげる……かも』


 女神の言葉には「かも」という不穏な付け足しがあったが、遼はそれを深追いする気力もなかった。彼は立ち上がり、キャンプに戻る準備を始めた。


 だが、振り返った先には思いがけない人影があった。


「おはよう、神代さん」


 朝の光を背に立つのは、フローラ・ミネットだった。彼女の栗色の髪は朝日に照らされて暖かく輝き、緑の瞳には穏やかな光が宿っていた。手には何かの籠を持っており、どうやら採集をしていたらしい。


「フローラ、おはよう」


 挨拶を交わした瞬間、腕輪が微かに震えた。「フラグ検知」——昨日の戦いの影響か、フラグの感度が上がっているようだった。


「朝の採集に来たの?」


「はい。この辺りには珍しい薬草が生えていて……」


 彼女は言葉を続けようとしたが、腕輪の震えがさらに強まった。


『あらあら、フラグが復活してるわよ』


 アフロネアの声が、茶化すような調子で頭の中に響く。


「そんなはずは……」


 遼は心の中でつぶやいた。フローラのフラグは「恋の実り祭り」の時に、彼女自身が折ったはずだ。それが復活するということは……。


「神代さん?」


 フローラの声で我に返る。彼女は首を傾げ、少し心配そうな表情を浮かべていた。


「ああ、すまない。少し考え事をしていた」


 遼の言葉に、フローラは小さく微笑んだ。その笑顔には、昨日までとは違う色が宿っていた。諦めと受容の中に、新たな何かが芽生えたような複雑さ。


「昨日は……楽しかったですね」


「昨日?」


「はい、浜辺のお祭りです。皆が踊って、歌って……」


 フローラの言葉に、遼は理解した。神々の干渉によって、生徒たちの記憶は書き換えられていたのだ。「フラグブレイク戦争」は彼らの記憶の中では「浜辺のお祭り」として存在していた。


「ああ、そうだったね」


 適当に相槌を打ちながら、遼はフローラの様子を観察した。彼女の中の「想い」は確かに復活しつつあるようだ。それは浜辺の祭りの高揚感が影響しているのかもしれない。


「神代さん、実は……」


 フローラが何か言いかけた瞬間、森の方から声が聞こえてきた。


「フローラ! 神代!」


 レオンが彼らに向かって手を振っていた。彼の姿を見て、フローラは言葉を飲み込み、小さくため息をついた。


「また後で話しましょう」


 そう言って彼女は微笑み、レオンの方へ向かっていった。遼はその背中を見送りながら、複雑な思いに囚われていた。


『折らなかったわね、今のフラグ』


 アフロネアの声が、感心したように響く。


「まだ初期段階だったからな……それに……」


 遼は言葉を選びかねた。フローラの想いが再び芽生えつつあることは確かだ。昨日まで彼女の心にあった「諦め」は少し形を変え、新たな形の感情へと変わりつつあるようだった。それを単純に「折る」べきなのか、彼自身も迷いを感じていた。


『人の心は面白いわね。一度諦めたはずのものが、形を変えて再び芽吹く』


 女神の言葉には、珍しく洞察が込められていた。遼はそれに返す言葉も見つからず、ただ静かにキャンプへと足を向けた。


 ***


 キャンプに戻ると、そこは既に朝の活気に満ちていた。生徒たちは朝食の準備や山頂への登山の準備に追われている。今日こそ、頂上の神殿に到達し、島からの脱出方法を見つける予定だった。


「神代、おはよう」


 声をかけてきたのはラティア・ブランシュだった。彼女のプラチナブロンドの髪は朝日に照らされて煌めき、青い瞳には昨日までとは違う光が宿っていた。


「ラティア、おはよう」


 挨拶を交わした途端、またしても腕輪が震えた。ラティアの中にも、何かが変化していたのだ。


「今日は山頂まで行けそうね」


「ああ、昨日の偵察で道はほぼ確認できている」


 二人の会話が続く中、遼はラティアの様子を窺っていた。彼女もまた、昨日の「祭り」の影響で心の中が揺れているようだった。それはレオンへの想いだけでなく、自分自身への新たな気づきのようなものも含んでいた。


「ところで、神代……」


 ラティアが何か言いかけたその時、エリオットが近づいてきた。


「おはよう、神代さん、ラティア」


 エリオットの明るい挨拶に、ラティアは微かに表情を曇らせたが、すぐに取り繕った。


「おはよう、エリオット」


 三人で朝食の話をしているうちに、ラティアが言いかけたことはうやむやになった。しかし遼には、彼女の視線が時折自分に向けられることが気になっていた。


『あらあら、ラティアもね』


 アフロネアの声が、意地悪く頭の中で響く。


「どういうことだ?」


『昨日のお祭りで、彼女の心の中にも変化があったのよ。レオンへの想いは続いているけれど、あなたへの疑問も芽生えている。「神代は何者なのか」「なぜ彼の近くにいると心が揺れるのか」って』


 遼は一瞬息を呑んだ。ラティアの心に自分への疑問が生まれているとすれば、それは危険な兆候だ。彼女が孤島での真実——記憶を改変されたこと、遼がフラグを折っていたこと——に気づきかけているのかもしれない。


 朝食が終わり、登山隊の最終確認が始まった。レオンが中心となって装備や食料を確認している間、遼はフローラとラティアの様子に神経を尖らせていた。二人とも、昨日とは明らかに違う表情で彼を見つめることがある。それは単なる恋心ではなく、もっと複雑な感情を含んでいた。


「さあ、出発しよう」


 レオンの掛け声で、登山隊は動き出した。隊列はレオンを先頭に、遼、ラティア、フローラ、エリオット、そして医療班の二人という順番だった。山頂を目指す険しい道のりが、彼らを待ち受けていた。


 ***


 森の中を進む登山隊。昨日までの偵察で道筋は確認されていたため、比較的スムーズに進んでいた。しかし、遼の心の中は決して平穏ではなかった。


 先を行くレオンの背中、そして時折振り返って彼を見るラティアとフローラの視線。それらすべてが、昨日の「戦い」によって変質した人間関係を象徴しているようだった。


「神代、大丈夫か?」


 レオンが足を止め、遼に声をかけた。彼の表情には純粋な心配が浮かんでいた。


「ああ、少し考え事をしていただけだ」


「無理するなよ。この島での生活は誰にとっても厳しい」


 レオンの言葉には、真摯な思いやりが込められていた。彼はいつも皆のことを第一に考え、リーダーとしての責任を全うしている。


「ありがとう、レオン」


 会話の後、二人は再び歩き始めた。遼の背後では、ラティアとフローラが小声で会話している。時折聞こえる笑い声や、自分の名前が出てくる気配に、遼は緊張を覚えた。


『二人とも、あなたのことを話してるわよ』


 アフロネアの声が、からかうように響く。


「何を話しているんだ?」


『さあ? 女の子の秘密よ』


 女神の意地悪な応答に、遼はため息をついた。


 隊列が小川のある場所で休憩を取ることになった。清らかな水が流れる川辺で、皆が水筒を満たしたり、汗を拭ったりしている。


 遼が少し離れた岩に腰掛けていると、フローラが近づいてきた。彼女の手には何かの花が握られていた。


「神代さん、これ」


 差し出されたのは、青と白の小さな花で編まれた腕輪だった。


「僕に?」


「はい。山の神様に祈りを捧げる習わしがあって……安全を祈ってみんなに作ったんです」


 そう言いながらも、フローラの頬は微かに赤く染まっていた。腕輪が震えて「フラグ強化」の警告を発する。


「ありがとう」


 花の腕輪を受け取り、遼は左手首に巻きつけた。その瞬間、彼女の表情が明るく輝いた。


「似合います」


 その言葉と笑顔に、遼は複雑な思いを抱いた。フローラのフラグを折るべきか。しかし、今のその想いは純粋な好意だけではなく、仲間としての絆や尊敬の念も含まれている。単純に「恋愛フラグ」と呼べるものなのだろうか。


 フローラが去った後、今度はラティアが近づいてきた。彼女の表情には、何か言いたいことがあるような緊張感が漂っていた。


「神代、少し話があるの」


「なんだ?」


 ラティアは周囲を見回し、誰も聞いていないことを確認してから、小声で話し始めた。


「あなた、本当は何者?」


 その直接的な質問に、遼は言葉を失った。ラティアの鋭い青い瞳は、彼の内面を見通そうとしているかのようだった。


「どういう意味だ?」


「分からないの? あなたがいつも周りの関係性に干渉してるのを感じるのよ。特に、誰かが親しくなろうとすると……あなたはいつも間に入る」


 ラティアの言葉には鋭い観察眼が表れていた。彼女は遼の行動パターンに気づき始めている。それは危険な兆候だった。


「気のせいじゃないか? 僕はただ皆と仲良くしようとしているだけだ」


 遼の言い訳に、ラティアは疑わしげな表情を浮かべた。しかし、それ以上追及することはなかった。


「そう言うなら、今は信じておく。でも、いつか本当のことを話してほしい」


 その言葉を残して、ラティアは皆の元へ戻っていった。遼は冷や汗を拭いながら、彼女の鋭さに改めて驚いた。


『危ないわね。ラティアは鋭いわ』


 アフロネアの声には、珍しく緊張感が混じっていた。


「彼女は僕の正体に気づきかけている。どうすればいい?」


『そうね……。彼女のフラグを完全に折れば、その疑念も消えるかもしれないわ』


 その提案に、遼は躊躇した。ラティアのフラグを完全に折ることは、彼女の心に深い傷を残すことになる。そして、その行為は単に「使命」のためではなく、自分の正体を隠すための自己防衛になってしまう。


「それは……できない」


『あら、優しくなったのね』


 アフロネアの冷やかな言葉に、遼は黙り込んだ。


 休憩が終わり、隊列は再び動き出した。険しい斜面を登り始めると、岩場や急な坂道が続き、全員が黙々と進むしかなくなった。そんな中でも、遼の心は依然として混乱していた。


 ***


 正午を過ぎた頃、登山隊は前回到達した地点を超え、新たな領域に踏み込んだ。木々が少なくなり、岩と低い草だけが残る山頂付近。そして遠くには、前回垣間見えた神殿の白い建物が、より鮮明に姿を現していた。


「あれが神殿か……」


 レオンのつぶやきに、全員が視線を向けた。純白の柱が空を支え、半透明の壁が内部を仄かに隠している神秘的な建物。そして神殿全体を包み込むように、淡い虹色の光の障壁が張られていた。


「恋の障壁……」


 エリオットが小さく言葉を発した。前回の偵察で判明したように、神殿を囲む障壁は「恋愛フラグが立っている者は通れない」という特性を持っていた。


「皆、しっかりついてこい。もう少しだ」


 レオンの声に励まされ、隊列は最後の登りに挑んだ。日差しが強まる中、汗だくになりながらも、彼らは山頂を目指して進んでいく。


 遼は時折、フローラとラティアの様子を窺っていた。二人とも、山頂が近づくにつれて妙な緊張感を漂わせているようだった。それは単なる疲れではなく、何か「予感」のようなものだった。


「神代さん……」


 フローラが小声で呼びかけてきた。


「どうした?」


「あの神殿、何か引き寄せられるような気がします」


 彼女の言葉には、直感的な理解が込められていた。フローラは自然の力に敏感な少女であり、神殿の本質を感じ取っているのかもしれない。


「そうか……僕にもなんとなく分かる気がする」


 二人の会話を、ラティアが冷静な表情で見つめていた。彼女の瞳には、観察と分析の色が浮かんでいた。


 ついに登山隊は山頂に到達した。眼前には、幻想的な美しさを放つ神殿がそびえ立っていた。全員が言葉を失い、ただ息を呑んで神殿を見上げる。


「来たぞ、皆」


 レオンの声に、全員が我に返る。


「さあ、恋の障壁をテストしよう」


 彼の言葉通り、一人ずつ障壁に近づいて手を伸ばすことになった。最初に試したのはエリオットだった。彼の手が光に触れた瞬間、弾かれるように後ろに飛ばされる。


「うわっ! やっぱり通れないか……」


 次に医療班の二人も試すが、結果は同じだった。障壁に拒絶され、通り抜けることができない。


「僕の番か」


 レオンが一歩前に出て、障壁に手を伸ばす。しかし、彼もまた弾かれた。


「僕も通れないか……」


 レオンの表情には、複雑な感情が浮かんでいた。彼の心にもまた、誰かへの想いがあるということだ。


 次はラティアが試す番だったが、彼女も同様に障壁を通過できなかった。


「私もダメね……」


 ラティアの言葉には、どこか諦めの色が混じっていた。


 残るはフローラと遼。フローラが一歩前に出て、深呼吸をした。


「試してみます」


 彼女の手が障壁に触れる。しかし——今度は弾かれなかった。彼女の手は、まるで水面に触れるように、光の中へと沈んでいく。


「通れる……!」


 驚きの声が上がる。フローラは自分の手を見つめ、そして振り返った。


「どうして……?」


 彼女の表情には困惑が浮かんでいた。先ほどまで遼へのフラグが立っていたのに、なぜ通過できるのか。


『面白いわね。彼女のフラグは形を変えたようね』


 アフロネアの言葉が遼の頭の中で響いた。


「形を変えた?」


『ええ。彼女の想いは「恋愛」という形を超えて、もっと深い「絆」に変わりつつあるの。だから障壁は彼女を「恋愛フラグが立っている」とは認識しなかったのよ』


 遼はその説明に納得しながら、自分も障壁に近づいた。


「僕も試してみる」


 彼の手が障壁に触れる。そして——彼の手も光の中に吸い込まれていった。


「遼も通れるのか!」


 レオンの声には安堵が混じっていた。


「二人で中に入ってくれ。水晶に触れれば、きっと私たちを島から解放してくれる」


 レオンの言葉に、フローラと遼は顔を見合わせた。


「行こう」


 遼の短い言葉に、フローラは静かに頷いた。二人は障壁の中へと踏み込み、神殿の内部へと向かった。


 ***


 神殿の内部は荘厳な美しさに満ちていた。大理石の床、天井まで届く透明な柱、そして中央には巨大な水晶が輝いていた。二人は静かに中央へと歩み寄る。


「これが……」


 フローラのつぶやきに、遼は黙って頷いた。巨大な水晶は虹色の光を放ち、まるで生きているかのように鼓動を打っているように見えた。それは明らかに「何か」の力を秘めている。


 二人が水晶に近づくと、突然、アフロネアの声が神殿内に響き渡った。


『ちょっと待って!』


 女神の声は、いつもの遼の頭の中だけでなく、神殿全体に広がった。フローラもはっきりと聞こえたようで、驚いた表情で周囲を見回している。


「アフロネア?」


『水晶に触れる前に、ちょっとした試練があるの』


 遼は眉をひそめた。また女神の気まぐれか。


「どんな試練だ?」


『簡単よ。あなたたち二人は、互いの本当の気持ちを伝え合うだけ』


 その言葉に、遼とフローラは顔を見合わせた。フローラの頬が徐々に赤く染まり、遼も言葉に詰まった。


「本当の気持ち……?」


『そう。フローラ・ミネット、あなたは神代遼に対して何を感じているの? 神代遼、あなたはフローラに対して何を思うの?』


 女神の言葉には、単なるいたずらを超えた、何か真剣なものが込められていた。


 フローラは小さく息を吐き、遼の方へと向き直った。彼女の緑の瞳には、決意と共に穏やかな光が宿っていた。


「神代さん、私……」


 彼女は一度言葉を切り、再び口を開いた。


「私はあなたに憧れています。強くて、優しくて、皆を気にかけてくれる。でも、それは恋心というより……尊敬の念なのかもしれません」


 フローラの言葉には、自分自身の感情を理解しようとする誠実さが込められていた。


「初めは恋だと思っていました。でも、あなたと過ごす中で、私が求めていたのは愛されることじゃなくて、あなたのような強さを持ちたいということだったのかも……」


 彼女の告白に、遼は息を呑んだ。フローラの想いは、確かに「恋愛」という形を超えて、より深い絆へと変化していたのだ。


『なるほどね。フローラの気持ちは確かに変わった。では、神代は?』


 アフロネアの声が、遼を促す。彼はフローラの真っ直ぐな瞳を見つめ、言葉を選んだ。


「フローラ、僕は君を……大切に思っている」


 シンプルながらも真実の言葉。


「君の優しさや純粋さに、いつも救われてきた。この島での生活の中で、君の存在は皆の希望だ」


 遼の言葉に、フローラの瞳が微かに潤んだ。


「ありがとう……」


 二人の間に静かな理解が流れる。それは恋愛ではなく、互いを尊重し合う深い絆だった。


『素晴らしい! 二人とも、素直に気持ちを伝え合ったわね』


 アフロネアの声には、珍しく温かみが感じられた。


『では、水晶に触れなさい。あなたたちの願いを叶えましょう』


 女神の促しに、遼とフローラは再び水晶に向き直った。二人の間に生まれた新たな絆を胸に、彼らは同時に水晶に手を伸ばす。


 その瞬間、まばゆい光が神殿を満たし、島全体を包み込んでいった。遼の視界が白く染まる中、アフロネアの最後の言葉が聞こえた。


『また会えるわね、私の使い。次はもっと面白いゲームを用意するから』


 そして、全てが光の中に溶けていった。


 ***


 目を開けると、そこはもはや神殿の内部ではなかった。遼の周りには、キャンプの仲間たち全員が立っており、皆が混乱した表情で互いを見つめ合っていた。そして彼らの足元に広がるのは、砂浜ではなく草地だった。


「これは……」


 レオンがつぶやく。辺りを見回すと、彼らは森に囲まれた広い草原にいた。そこは島でもなく、山頂でもなく、まったく別の場所のようだった。


「どこに来たんだ?」


 遼の問いに、アフロネアの声が頭の中で甘く響いた。


『新しい舞台よ。島での「サバイバル編」は終わり。次は「冒険編」の始まりよ』


 遼は溜息をつきながらも、左腕の腕輪を見た。「12.5」というポイントが依然として青く光っている。女神の「ゲーム」はまだ終わっていないようだ。


「皆、無事か?」


 レオンの声に、全員が応じる。フローラは穏やかな表情で周囲を見回し、ラティアは冷静に状況を分析している様子だった。そしてエリオットや医療班の面々も、戸惑いながらも元気な様子だった。


「どうやら全員無事のようだな」


 遼の言葉に、レオンは頷いた。


「さて、次はどうする?」


 その問いに、遼は空を見上げた。そこには見慣れない星座が輝いており、彼らが本当に「別の場所」に来たことを示していた。


「まずは周囲を偵察して、この場所がどこなのか確認しよう」


 レオンの提案に、全員が賛同した。彼らは再び一つのチームとして、新たな冒険に踏み出す準備を始めた。


 遼は静かにフローラとラティアを見つめた。二人との関係は、山頂での出来事を経て、確かに変化していた。特にフローラとの間には、恋愛を超えた深い絆が生まれていた。そしてラティアとの間には、まだ多くの謎と緊張が残されている。


「神代、行くぞ」


 レオンの声に、遼は我に返った。彼は最後に左腕の腕輪に目をやり、小さく微笑んだ。


「うん、行こう」


 新たな冒険が始まろうとしていた。そして、そこにはきっと新たなフラグと選択が待ち受けているのだろう。

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