14 神との雑談

 もうだめです。今日はただ目をつぶって、なにも考えたくありません。

『そうか。いったいどうしたんだい?』

 いつもの回避性が出たんですけどね、今日はわりと大きな鬱がやってきて、さっき薬飲んでコーヒー飲んで、26分瞑想して、少しは心が晴れたんですが、やっぱりまだなにも思いつきません。

『それが回避性パーソナリティ障害だからね。仕方ないさ』

 ええ。それで、予定では同じカクヨムで「回避性パーソナリティ障害性人生」って小説を書くつもりだったのですが、あっちはちゃんと考えなきゃいけないことが多いので、できる気がしません。

『それでこの「神様、なぜ人は苦しむの?」を書こうってわけか。いささか冒涜的ではあるが、まあいいだろう。なにしろ病気のせいなのだから』

 だっていつもおっしゃってるじゃないですか。この文章はあなたが主導権を握っていて、僕はただ話相手兼タイピストに徹すればいいんでしょ。

『そうだがね。それで今日は、いつもやってる事前打ち合わせが開かれなかったのか』

 はい。僕、なにもする気になれなくて。

『いや、いいんだよ。たまにはそういう回があったって。だが私も、鬱でダウンしている君の前で、一人で自説をべらべらしゃべる気にもなりにくいな』

 でも全知全能なんでしょ。なんとかよろしくおねがいします。

『……』

 えっと、どうされました?ほら、なにかお話しになってください。

『君は忘れているようだ。私は君の脳に直接語り掛けている。君がそれをキャッチする気力がなければ、私の言葉はただの風音にしか聞こえないのだ』

 えー、でも、それはそちらのボリュームを上げていただく、というわけにはいかないんですか?あるいは周波数を合わせるとか。

『神はラジオではない。とにかく私は、君に聞こえない声でさっきからたくさん言葉を発しているのだよ。ちゃんと聞きなさい』

 もしかして僕、信仰心が足りなくなってきたんでしょうか?

『それに関しては、そういう日もある。おや、なにか気になっていることがあるようだな』

 いや、というか、昨日見たテレビの衝撃が、まだちょっと頭に残っていて。

『最近、若い子はテレビなんか見ないらしいじゃないか。そんな話をしては、その子たちになめられるぞ』

 いいんですか?テレビを作ってるのもあなたなんでしょ。

『うむ。そうだった。いったいどんな番組を見たのかね?』

 NHKBSでやってた「世界のドキュメンタリー」です。

『君はそういうのばっかりだね』

 ええ。ノルウェー、スウェーデン、ドイツ、フィンランド制作の「ハルマゲドンを待ち望んで 米国政治を動かす“福音派”」っていう前後編の番組です。

『私も、君と共に見ていたよ。というか、作ったのが私だった』

 神様、あれ、どういうつもりですか?

『キリスト教福音派のことかね?』

 はい。めちゃくちゃじゃないですか。信仰ってああいうのなんですか?なんかもういやになっちゃいました。

『神を信じることがかい』

 宗教ってあまりにうさんくさいです。その宗教をテーマにこういう文章を書いてる僕も、あんなふうに見られるんだな、と思うと、やってられません。

『もうちょっと具体的にいってみたまえ』

 誤解を恐れずいえば、あの人たちが正気には見えませんでした。聖書を読み込むのはけっこうですよ。でも、イエスが剣を持って再臨して、イエラエルとともに最終戦争を起こし、パレスチナを滅ぼすことをアメリカの政治家に働きかけている。しかもその力が十分発揮されている。核ミサイルさえ打ち込もうとしている。もうやめてくれよ、と叫びたくなりました。自分たちだけが救済されて、あの人たちと同じ信仰を持たない人はみんな死ねばいい、みたいなのばっかり出てくるんです。それが宗教なんだったら、そんなもんない方がマシじゃないでしょうか。

『君は極端なものを見たせいで、冷静さを失っているようだね』

 そうでしょうか?そうだとしても、あの極端な人たちが信じるのはあなたなのでしょう?

『信仰にはいろんな形がある』

 ねえ、神様。僕が今やってる信仰って、つまり聖書とか過去の人々の言葉ではなく、心の中のあなたに直接語りかけ、神の言葉を聞き、自らの良心に従って生きよ、というスタイルなんでしょう。もし、あのキリスト教福音派の人たちが、自らの心の中の神の声を聞いたら、それを励みにして喜んでパレスチナの人々を殺そうとするんじゃないですか?

『今この場で、そうじゃない、とはいえないね』

 せめて、せめて否定してくださいよ。そうじゃないと僕、もうなにがなんだか……

『君はまだ、私の心をちゃんとわかっていない。今日などは特に混乱しているようだ。私は今後も常に君と共にある。勉強が必要だ。本を読み、世の中を見、人々と出会い、瞑想して、神の言葉に耳を傾けなさい』

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