6 なぜわれわれは孤独なのか

 神様、僕、すごく困ってます。

『なんだい。だいたい想像がつくがね』

 このノンフィクション、全然読んでもらえてません。

『またそれか。その悩みについては以前答えたはずだよ』

 でもめちゃくちゃ悩んでます。睡眠薬を飲んでも眠れないくらい。

『君のいいようはときどき大げさだね』

 おっと、僕の本当の睡眠量をここでいうのはやめてくださいよ。

『事実をばらされて困るなら、いわなきゃいいのに。まあ、よい。答えて進ぜよう。このカクヨムってサイトはね、ライトノベルの書き手が主戦力で、それを読みたい人が多く集まっているんだ。私と君で書いているこれは、ライトノベルとはかけ離れているだろう。まずそれが一つ。そしてここは日本だということ。この国での宗教の取り扱われ方は、だいたいわかっているはずだ。最初に距離を置かれるのが通常なのだよ。そして私だって自覚している。私が今ここで述べていることは、伝統宗教の教えとかけ離れている。ぶっちゃけ怪しい。なのでいきなり人が集まるなどという幻想は捨てることだ。きわめて常識的な現象が起きているに過ぎない。よって、気に病む必要はない。わかったかね?』

 うーん、まあ、理屈はそうなんですがね。こう露骨に無視されると、寂しいというか、焦ってきちゃうんですよ。僕、なにかまちがってるのかな、って。

『その論法でいうと、私もまちがっていることになる。この全知全能の私が?』

 ああ、それです。ほんまに全知全能なんかいな?という疑問がわくわけですよ。それやったら人呼ぶくらい楽勝なんちゃう?というのが本音です。こんなことが続けば、僕の信仰心も揺らぎますよ。

『とっくにぐらんぐらんなくせに。今君は試されているんだよ。逆にいえば、私が人間に試されているともいえる。それでかまわない。現実はあるべきかたちで流れているのだ』

 じゃあ結局、気にするな、が答えなんですか?

『その通り。だがそんなに心配なら、やりようは閃いているだろう。神のインスピレーションによって』

 あれっすか。あの広告付きコメントってやつ?読んでくれそうな人の作品を読んで、コメントして、最後にこの作品のURLを貼り付ける作戦?それって規定に反してないんですかね。

『うん。そこはちゃんと調べておきなさい』

 どうなのかな。そもそもカクヨムだって、あなたも運営といっしょに関わってるはずでしょう。その人たちの心の中にあなたもいるのだったら。そのあなたがルールを知らないはずないじゃないですか。

『あのね、私が直接「広告付きコメント」をやれ、と啓示したわけじゃないよ。あくまで君の心に霊感を与えただけ。すべてのアイデアは、やってみないとわからない、が原則だ。私は人間に、そういう試行錯誤を促しているに過ぎないのだ』

 ああいえばこういう、にしか聞こえないんですけど。まあ、調べるくらいいいですよ。あとでやっときます。ただわからないんですよ。この文章が読まれなくて一番困るのは、神様でしょう。だったらあなたの責任で、人を集めてくださいよ。あなたの言葉を広めるためなんだから。

『いいや、私はその役目を君に与えたのだ。私は話す。やるのはそれだけさ。いや、正確にはもっといろいろやっているのだけど、とにかく私は君の仕事に期待しているのだ。だから文句いわないこと。私は全然困ってない』

 えー、神の横暴じゃないですか。

『ちがう。啓示だ。というか、さっさと事前に話し合ったテーマに入りなさい』

 なんでしたっけ。あっ、そうそう、僕、近頃めっちゃ孤独を感じてるんですよ。いや、十三歳で回避性パーソナリティ障害を発症する前、小学生の頃からずっとひとりぼっちだと感じ続けてきました。今は宗教的孤独に陥っています。これを読んでもらえないことで拍車がかかっている。僕の信仰には仲間がいません。

『説明してくれ』

 例えば、伝統的な仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、ゾロアスター教、それから天理教や創価学会、統一教会やらオウムですら、みんな教団を作ってみんなで宗教を行ってるじゃないですか。なのにあなたと僕のこれって、名前すらない信仰ですよね。教義も、五年半前から聞いてるんでだいたいわかってきましたよ。めちゃくちゃ個人主義じゃないですか。個々人の心の中にいる神様と対話しよう、っていう、それだけでしょう?

『まあ、そうだな。というか、この信仰に名前が欲しいのか?君は今日まで考えたことすらなかったじゃないか』

 いや、あなたに指示されてなかったから、考えないようにしていたのです。

『それでいい。前にもいった通り、君に布教活動を望んでいるわけじゃない。君の認識は正しい。私はまず、君に似た孤独な人々に呼びかけている。その者たちに団結は必要ない』

 それって、孤独な人にずっと孤独でいろ、と焚きつけているみたいに聞こえます。

『というか、世の中に孤独でない人などいるかね?』

 それって相対的なものでしょう。僕よりたくさん仲間がいる人は、世界の大多数じゃないですか。

『ちがうね。人はみな一人で生まれ、一人で生き、一人で死ぬものさ』

 神の言葉とは思えん。じゃあ、ピープルパワーなんてものはないのですか?

『あるが、それは政治的意味しかない。宗教的には、みながみな、孤独なのだ』

 じゃあ、宗教団体は?

『あれは邪道だ、というわけではないが、建前、一手段に過ぎない。集団とは人間の仮の姿でしかないのだ』

 寂しいことをおっしゃる。

『個人こそ、人間の真の姿だといいたいのだよ』

 それって極論でしょう?

『まあな』

 まあな?違う部分もある?

『もちろん』

 うーん、これがかの有名な禅問答か。

『真理とは、この短いやり取りだけでいいつくせるものではないよ』

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