プロローグ:接続
第三宇宙:接続
第三宇宙と呼ぶマルチバースのひとつで極超新星爆発が起こった。それは第三宇宙の地球の属する銀河系からはるか離れた銀河団で起こった(2035年の地球を襲った極超新星のガンマ線バーストとは別の現象)もので、生じたガンマ線バーストは方向がそれていたために、その銀河系にも第三宇宙の地球に住む全生物、人類にも影響はなかった。ところが、あまりにも大きな爆発であったために、時空のゆらぎが生じた。宇宙定数が変わってしまった。そして、第三宇宙の軸がぶれた。その際に、物質的な影響は極微であった。極超新星爆発の瞬間的なエネルギー放出は非常に短時間に行われ、それが物質的影響を免れさせた。
しかし、第三宇宙に隣接する第一、第二と第四宇宙に第三宇宙の軸が触れた。4つの宇宙は、第三宇宙の軸がぶれたために、非常に近接した。あまりに近接したために、まるで、雲から海面に突然現れる竜巻のように、各宇宙の極超ブラックホールは、ワームホールを介して他の宇宙のホワイトホールに連結してしまった。
こうして、通常なら同一宇宙の中で成立するブラックホールからホワイトホールへの物質/エネルギーの循環が、異なる宇宙間で始まった。この現象はこれが最初でもなく、最後でもない。悠久のビックバンの開始以来、分岐した宇宙間での物質/エネルギーの循環は、各宇宙の物質/エネルギーの均衡を保っていたのだろう。
もちろん、質量(Mass)を持つ物質は、シュバルツシルト半径の内側で、ブラックホールの潮汐力により、素粒子レベルまでバラバラになる。そして、別の宇宙に出現し、その宇宙の構成原子を新たに作り上げるのだ。
ブラックホールを通って、ホワイトホールから出てくるものの中にはバラバラにならないものもある。それは量子情報だ。量子情報は質量も何も持たない。量子情報はブラックホールの潮汐力では破壊できない。
太古の昔から、何百億年まえだろう?知性が、知識が進んで、自らの物質に依存する実体を消し去ってしまった種族がいた。彼らは純粋知性体と呼ばれた。彼らは、元々、ひとつの種族ではない。順次、物質という自らの存在を消し去ることが出来た数々の惑星の種族が、純粋知性体に進んでいった。進む?それが、人間の矮小な概念の進化だとは言えない。単に、進んだのだ。そして、彼らは、量子情報セットそのものだった。
純粋知性体は、宇宙にあるブラックホールからホワイトホールへの道を移動した。彼らは、時間軸さえも超越しているので、その宇宙の中の過去から未来へも移動した。そして、宇宙間のブラックホールからホワイトホールへのワームホールの道が連結されると、別の宇宙にも移動した。
しかし、それは、純粋知性体だから可能なこと。通常は別の実体を持った生物のたかが知性量子情報などはワームホイールを通じての移動はできない。
しかし、ある星系で、数テラ電子ボルト以上のエネルギーが瞬間的に開放され、ガンマ線が発生し、電子・陽電子の対生成、対消滅が起こり、その近傍に知性ある生命体がいる時、その生命体の記憶・知性データは、偶然の事故的に純粋なデータ、ある種の下位の知性体のような形で、ワームホールを通じて、同一宇宙の別の場所・時間軸へ、或いは、別の宇宙の別の場所・時間軸へ弾かれてしまうことも起こる。
今回の極超新星爆発は各宇宙を連結した。
しかし、数テラ電子ボルト以上のエネルギーが瞬間的に開放される現象はまだ起こっていない。まだ。
もしもそれが第三で起これば、その影響は、第三宇宙の幾多の銀河団に生息する生物の思念・記憶を第一、第二、第四宇宙に飛ばしてしまうだろう。
どうしてそのような現象が具体的に起こるのかは、検証する必要があるだろう。だが、生息する生物の思念・記憶がデータとして圧縮され、パケット通信のような形で、第三宇宙から別の宇宙へとダウンロードされてしまうのは確かだ。
数テラ電子ボルト以上のエネルギーが瞬間的に開放される現象は、フランス・スイス国境にある欧州原子核研究機構(セルン)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で2008年9月に起こった。
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