第2話 出逢いはいつも突然だ。
ソイツはいつの間にか俺の目の前にいた。
動物園で観た事のあるトラよりもソイツは大きく、雪のような白銀の毛並みを持ち、水晶をはめ込んだかのような真っ青な瞳で真っ直ぐ俺を観ていた。
多分、俺なんてひと飲みだろう。
『貴様、此処に何用だ?』
頭の中に響く俺以外の誰かの声に俺は狼狽え、瞬間的に身体を硬直させたのだが、そのまま力無く尻を地面に落とした。
『ふむ……少々混乱しておるのか?』
目の前のソイツは犬で言う所の伏せの格好を取り、俺の返事を待ち続けてくれた。
てっきり、速攻で喰われると思っていた俺の思考も少しずつ冷静さを取り戻し始め、会話の成立するソイツとの話し次第で何とかなるんじゃないかと思い始め、これからの会話を思い浮かべる。
「あ、あの、初めまして、俺は田中 一郎って言います。」
『ん?儂は白狼じゃ、この森を守る一族の者じゃ。』
「は、白狼さんとお呼びしても…?」
『ふむ。儂等一族は個体名を持っておらんでな。それでも構わぬ。して、お主は何用でこの森に入って来た?』
「わ、解りません……」
途端に白狼の雰囲気が変わり、何故か殺られる!と、俺の頭の中で緊急警報が鳴り響いた。
信じてもらえるかは解らないが、どうせ死ぬのなら嘘をついて死ぬより、正直者として死にたいと俺は思った。
「朝、学校に行こうと、家の玄関の扉を開けたら此処に居たんです。俺にも何が何だか解りません!」
一気にまくしたてる様に言った俺は目の前の白狼にはどう言う風に映っただろうか。
白狼はしばらく目を閉じ、何かを考えていた。
そして、考えがまとまったのか大きく目を開き一言発した。
『成る程、解らん!』
「おい!」
思わず条件反射的に右手を白狼の方に突き出し、ツッコミを入れてしまった。
そして、ツッコミを入れられた白狼はキョトンとしている。
少しばかり止まる時間。
風によって木々の葉っぱのこすれる音だけが静かに響いた。
あ、やっちまった……
俺は今度こそ本気で死を覚悟した。
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