第一章【禍月来迎 ───かげつらいごう───】

【作者】グルコ☆(スター)さみん

●【台本タイトル】 【禍月来迎 《かげつらいごう》】

●【男女比率】→男4/不問2(6人台本)

●【目安時間】 約90分。

●【ジャンル】 歴史×和風ダークファンタジー

●【配役一覧】(敬称略)

最澄さいちょう(♂)→

空海くうかい(♂)→

藤原実高ふじわらのさねたか/役小角えんのおずぬ(♂)→

賀茂保成かものやすなり/義真ぎしん(♂)→

橘兼言たちばなのかねこと/みかど(不問)→

ナレーション/智泉ちせん(不問)→


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【場面:都・平安京 夜。赤黒い月蝕の下、異変が始まる】



ナレーション

───時のみかど桓武かんむ天皇。


かつての権力闘争と怨霊おんりょうに満ちた

旧都・平城京へいじょうきょうを離れ、新たなるみやこ、平安京を

開いたばかりの時代──


遷都せんとの"影"で失われた命は数知れず、

早良親王さわらしんのう藤原種継ふじわらのたねつぐ道祖王ふなどのおおきみ……。

怨霊おんりょうと呼ばれた者達の呪詛じゅそが、みやこむしばんでいた。


疫病えきびょうあふれ、えた子らの声が路地ろじ彷徨さまよう。


火を放たれた屋敷、積み上げられるしかばね

そして夜な夜な現れる黒き"影"…………。


みかどはそれを"けがれ"と見なし、祈祷きとうと封印を重ねたが、

"闇"はなおも日ノ本をむしばみ続けた。



──そんな、延暦えんりゃくすえ

更なる不穏ふおんきざしが広がっていた。



延暦えんりゃく二十三年、日ノ本に"皆既月蝕かいきげっしょく"がおとずれ、

火に焼かれた旧都、平城京へいじょうきょうの記憶が

大地に"闇"を落とし、毎夜、現れる“影“が

日ノ本の命を喰らっていた。

人々はそれを、【月を喰らうまが】と恐れた。



【場面:内裏・夜。帝、重病の床】

(障子の向こう、赤黒く染まる月蝕の光。静けさの中に風の唸りが響く)



みかど(弱々しく)

「……月が……赤黒く……。

これは、凶兆きょうちょうか……」



役小角えんのおづぬ(低く響く声で静かに歩み寄る)

「いいえ、みかどよ、月が"喰われて"おるのです。

これは天変てんぺんにあらず。

神祇じんぎを超えし"まがきざ"し。

この世に巣くう"けがれ"……否、人の"ごう"。

もはや、祈りだけでは届かぬ"闇"が

天をむしばんでおりまする」




みかど(病み疲れた声で)

「人の……"ごう"……。

ならば、この日ノ本に満ちる"闇"は

我らが招いたのか……。

小角おづぬよ……この"闇"は我が宮廷きゅうていも、

国も揺らがせ、世界すらを喰らい尽くすと言うのか?

そなたは陰陽おんみょうに通じ、神仏の"ことわり"をも知ると言う。

……何をすれば良い?」




役小角えんのおづぬ(ひと呼吸置いて)

「まさしく……….

神の声も天の星ももくする今、もはや"ことわり"を解くには

今こそ二人の"祈り手"が必要なのです。

"みつの法に通ずる者"と"天台てんだいの道を歩む者"………。

彼らに託すほか、ありませぬ」




みかど(ゆっくりと頷きながら顔を上げる)

空海くうかいと……最澄さいちょうか……。

だがの者達は今もう道をたがえておろう……。

あやつらに"闇"を裂けというのか……?」




役小角えんのおづぬ(穏やかに、だが力強く)

「彼らは"光と闇を知る者"、だからこそ良いのです。

"火"と"水"、"ことわり"と"直感"、"みつけん"の二人。

空をおおう【月を喰らうまが】にあらがい、

その"正体"を追って【月の記憶】を

辿たどる旅路の先にこそ、この世を照らす"火"が

"る"やもしれませぬ。

それが出来るのはあの二人以外にありますまい」



みかど(目を閉じ、苦しげに)

「……よかろう。

この命、朽ち果てようと……

この日ノ本が滅びる事は許されぬ。

……ならばこそ、そなたに勅令ちょくれいを与える。

役小角えんのおづぬよ。

そなたが勅使ちょくしとなり、両僧へこの御勅みだいを届けよ。

【月を喰らうまが】を追え、この"まがを止めよ"と……」




役小角えんのおづぬ(静かに跪き)

御意ぎょい勅命ちょくめいと致しまして、必ず伝えまする。

"闇"の深きより来たるものにあらがいし者こそ、

地に"祈り"を遺す者となりましょう。

まことの月】の光を、今一度……」



(音:役小角の杖が床を打つ音。月蝕の闇の中、風が巻き、障子が鳴る)




ナレーション

作者 ぐるこ☆(スター)さみん作




『月照らす火の記憶 ― 神々の法、慈悲の火―』




第一章【禍月来迎かげつらいごう






【場面転換:比叡山・根本中堂】

ナレーション

───夜明け前…………。

初夏の朝靄あさもやと霧が比叡ひえいの山肌を柔らかく、淡く包む。

僧達がまだ夢の中にいるとき

天台宗てんだいしゅう総本山そうほんざん根本中堂こんぽんちゅうどうに、

静かな読経どっきょうの声が満ち響く。

こうの煙が優しくたなびく中、最澄さいちょうは一人、

穏やかに仏前ぶつぜんして"祈り"を捧げていた。


だが突如としてその静寂せいじゃくを切り裂くように、

最澄さいちょうのもとに、外から息を切らせながら

堂へと駆け込む、彼の弟子である義真ぎしん

荒々しい急ぎ足の音が慌ただしく響いた。




義真ぎしん

最澄さいちょう様――! 最澄さいちょう様――!

最澄さいちょう様!!

こちらにいらっしゃいますか、最澄さいちょう様ーー!!」




最澄さいちょう(読経を止め、静かに目を開き)

「…どうしました、義真ぎしん

夜明けもまだ遠いときにそのように

慌ただしくしては………。

心が乱れてしまいますよ、落ち着きなさい。

何か、火急かきゅうの知らせですか?」




義真ぎしん(深く頭を下げて膝をつき、巻物を差し出す)

「はっ!!申し訳ありません!

失礼致しました、最澄さいちょう様!

実は……先程、朝廷ちょうていの使者の方がお見えになり、

みかどよりの御勅命ごちょくれい、並びに

――役小角えんのおづぬ様より直々の書状が届きました!」



最澄さいちょう

「……みかど役小角えんのおづぬ様が………?

……して、一体何が起こったのですか?」




義真ぎしん(巻物を差し出しながら)

「日ノ本中から見える月が欠け、黒き"まが"が溢れ、

それが地上に満ち、国をむしばみ出しているとのこと。

【月を喰らうまが】、そのみなもとを断つ為、

最澄さいちょう様は高野こうや空海和尚くうかいおしょう様と共にへ向かい、

この"まが"をはらえと……!!」



最澄さいちょう

「【月を喰らうまが】………ですか……?

義真ぎしん、その書状を見せて下さい」



(最澄は手渡された巻物を広げ、静かに目を通す)

役小角えんのおづぬ(語り/書状より)

比叡ひえい最澄さいちょうへ。

比叡ひえいみねより見下ろす人の世に、

今また大いなる"闇"によって空は月を覆い、

地には"影"が満ちている。

この"闇"は天の怒りでも神仏の怒りでもあらず。

これは人の心に宿る"ごう"にして、

"祈り"の"忘却ぼうきゃく"が招いた"まが"。

されど"祈り"が天を照らし、

届くと信ずるならば………。

今こそそれをしめし、空海くうかいと共に進め。

"火"と"月"、二つの"道"と"ことわり"が交わる時、

"封じられしモノ"が目覚めん。

その時に 問われ続けた答えを出すのは"信仰"か、

あるいは"人のり方"か…………。

私はそなたらの答えを見届けよう。 役 小角えんのおづぬ




最澄さいちょう(巻物を閉じ、香煙を見つめる)

「……"月を喰らう"……ですか……………。

御仏みほとけの光が遮られ、"まが"に覆われたとあらば、

只事ただごとではありませんね………」


(……月が喰われた……。

月がむしばまれ、光が影る時……。

人は恐れ、神仏の声をも失い、さえられてしまう。

衆生しゅじょうを照らす仏の光には……"影"が、揺らぐ。

人は"闇"を恐れ、神も仏も忘れてしまう………

………闇"か、人か…….

本当に"はらうべきは"闇"なのか……。

それとも、"人"なのでしょうか……)



義真ぎしん(戸惑いながらそっと声をかけ)

「………最澄さいちょう様、如何いかがなさいましたか?

………何かお心が、何処どこか遠くに……」



最澄さいちょう(穏やかに微笑み、目を開き、優しく、だが遠くを見つめるように)

「大丈夫ですよ、義真ぎしん

少し昔の事を思い出していたのです。

……まさか空海和尚くうかいおしょう

再び"道"を共にする時が巡ってきたとは……。

御仏みほとけ御心みこころは"えにし"をしめされ、

我らを導かれているのですね」



義真ぎしん(真剣な眼差しで)

最澄さいちょう様……。

このまがきざしの意味は、には測れませぬが……。

それでも天台てんだいの教えを伝え守る為にも、

行動すべき時では……」




最澄さいちょう(まっすぐ前を見つめ)

「……そうです……その通りですね……。

"祈り"だけでは"届かぬモノ"があるのなら、

歩むしかありません」


(けれど空海和尚くうかいおしょう

再び相まみえる再会が何を導くのか……。

何が目覚めるのか……。

それを知る者はまだこの世にいない………。

いまだ、誰にも見えぬ事です……)



ナレーション

優しい朝の日差しが雲の隙間からわずかかに

顔を覗かせ、夜明けの空を照らし始める。

最澄さいちょうはしばしもくし……

やがて義真ぎしんの方へ振り返る。



義真ぎしん

最澄さいちょう様。すぐに旅支度を整えてわたくしも、共に……」



最澄さいちょう(制するように、静かに穏やかに首を横に振り)

「いいえ、義真ぎしん

そなたは此処ここ比叡ひえいの地に残りなさい。

弟子達を導き、皆と共に民を祈り、

安寧あんねいを支えるのです。

それもまた御仏みほとけの"道"。

貴方は次代の天台をになう者。

そなたこそ、いずれ天台のともしびを継ぐ者なのです。

"祈り"とは、寺の中だけにあるものではない……

その声が届くか否かは、

全ては "行い"に掛かっているのです」



義真ぎしん(強く拳を握りしめ)

「……ですが!!

………ですがこの"まが"を最澄さいちょう様お一人では……!」



最澄さいちょう

ひとりではありませんよ。

御仁ごじん……空海和尚くうかいおしょうがいます。

たとえ今は"道"を違えていても……

"祈り"を信じる心は、決して交わる事を

拒みはしないのです」



義真ぎしん(一瞬迷いながらも、深く頷き)

「……かしこまりました……。

おおせの通りに致します………。

どうか……どうか御身おんみのご無事を祈っております」



最澄さいちょう

「ありがとう……義信ぎしん………。

この世には"祈り"だけでは

届かぬものもありましょう。

されど、"祈りを携えて歩む者"にこそ、

"道"は開けるのです………。

私達の絆が人々に"光"となる事 を共に

信じましょう……」



(朝焼けの輝きが堂内に差し込み、最澄の背に微かな光が交差する。)



【第二場:讃岐・空海の庵】


ナレーション

風鈴が静かに鳴り、小さないおりに夏の気配が流れる。

焚かれた香のかすかな匂いが漂う中、空海は

文机ふづくえに向かい、筆を静かに走らせていた。

思索しさくと"祈り"の時。

――その静寂せいじゃくを破るように足音が

いおりに近付いてくる。

駆け込んできたのは空海の甥であり、

弟子でもある若き僧・智泉ちせん

息を弾ませながら、何かを急ぎ伝えようとしていた。



空海くうかい

「どうした、智泉ちせん???

そんなに駆け出して、何事だ???」




智泉ちせん(やや興奮気味に)

真魚まお兄さま…いえ、空海和尚くうかいおしょう! !!

京より急ぎのふみが参りました!

みかどよりの勅命ちょくめいの文 、

そして……役小角えんのおづぬ様からも来ています!」



(にっこりと目を細め、穏やかに筆を置きながら巻物を受け取り、広げて目を走らせる)

空海くうかい

「へぇ……みかどだけでなく、役小角えんのおづぬ様までとは………。

さては、ただの厄介事では無いな」



役小角えんのおづぬ(語り・書状)

「天が今まさに喰われておる。

この"闇"は"祈りの欠片"を喰らい、

"歪み"に成り果てたモノ。

すなわち、【月を喰うまが】だ。

空海くうかいよ、"天"より授かりし"火"と"風"を抱く者よ。

最澄さいちょうと交わり、"真理"の名の下にそれを照らせ。

なんじの"火"がならば、焼かれるはなんじ自身。

されど、しんの"願い"ならば、月すら照らそう。

この旅はなんじらの"試練"なり。

焼かれる"痛み"を越えなおもその"灯火"をたもてるか、

私はその末路を見届けん。 役 小角えんのおづぬ



ナレーション

空海くうかいは静かに筆を置くと、手にした巻物を見つめ、

そっと焚火たきびへと差し出した。

紙は火にまれ、青白い炎がふっと揺れる。


それは"祈り"か、"決別"か………。


揺れる火の色に空海くうかいの影がひときわ濃く映っていた。



空海くうかい

「……【月を喰うまが】………。

ふむ、まるで神話のようだな」



智泉ちせん

「日ノ本中で見える月が黒く喰われるなんて…

それに文にはあの最澄さいちょう様と共にと

書いてありますが……」



空海くうかい(くすりと笑い)

最澄和尚さいちょうおしょうか………。

真面目で穏やかで優しいく……。

だが、芯にははげしきほむらを持つ御方おかた

まさか、またこんなカタチで会えるとは………。

ふふ、凄い巡り合わせだ。

やはり、"密厳みつごんの火"は未だ消えぬと見える。

………これは、"御仏みほとけと神々の遊び心"かもしれんな」



智泉ちせん

「"御仏みほとけと神々の遊び心"………ですか???」



空海くうかい

「それに"試練"とは………面白い!!!

されど答えを見つける旅というのは

案外、最澄和尚さいちょうおしょうには性に合っている……。

…………………うん、では、行こうか。

【月を喰うまが】が何を隠しておるのか、

確かめに…………」



ナレーション

空海くうかいは香をき、静かに合掌がっしょうする。

その手をほどくと、ゆるやかに立ち上がり、

仰ぐ視線の先には"祈り"の余韻よいんを残したまま、

彼の瞳は遥か彼方かなたを見つめていた。



空海くうかい

「さて、最澄さいちょう…………。

そなたが山で磨いた"光"と水"と

が抱く"火"と"風"………。

どちらが闇を裂くか……楽しみだ………」



(風鈴が静かに揺れる。場面暗転)



【第三場:山道・夕暮れ】


ナレーション

霧が立ちこめる静かな山道。

夕日が霧に滲み、幻想的な空気が漂う。

遠くからは鳥の鳴き声と虫の音、

風のざわめきが混ざり合い、その中を一人の

旅僧りょうそうが歩いている。



最澄さいちょう

(……日も落ちかけてきたか。

屋敷までは、あと一刻いっこくほど……。

この静けさと深い霧……。

まるで、山が何かを飲み込んでおるようだ……)



ナレーション

その時、遠くから鈴の音と共に

楽しげな笑い声が響いてきた。

静かな山道に一際、明るい音が広がっていく。



空海くうかい

「おやおや、こんな霧の中に、人影とは……。

もしや、貴殿きでん最澄和尚さいちょうおしょうでは?」



最澄さいちょう

「その声は……空海くうかい……!

いや、"遍照金剛へんじょうこんごう様"と呼ぶべきかな……。

お久しぶりでございます」



ナレーション

最澄さいちょうは振り返り、目を細めながら

穏やかにそしてどこか懐かしげに微笑む。

その表情には、過去の記憶が優しく

浮かび上がっているようだった。



空海くうかい(軽やかに微笑みながら、近づく)

「やはり、君だったか。

霧の中に見えた姿が

あまりに美しいから山の神かと思ったよ。

とそなたの仲だ、昔のように空海でいいよ、最澄さいちょう

しかし、流石は"地に根ざす人"だ……。

まさか霧の山道の中で再会とは……

これはもう、神か仏の演出かな。

うん、嫌いじゃない」



最澄さいちょう

「変わりませんね、貴方は。いつも口がお達者で」



空海くうかい(ふっと笑い)

「君だって、相変わらず"おっとり刀"だ。

抜かずとも斬れるようなたたずまいだ」



最澄さいちょう

「んん??…………そう見えるでしょうか?」



空海くうかい

「昔からそうさ。

君が静かに笑ってる時が一番怖いとは思う」



最澄さいちょう(くすりと笑い)

「それは誉め言葉と受け取っておきましょう」



空海くうかい

「誉めているさ。

君が怒る姿なんて想像出来ないけれど……。

きっと雷よりも、ずっとおごそかで

静かな怒りなんだろうな」




最澄さいちょう(ふっと目を伏せて、微笑)

「……そうでしょうか…………。

は良く弟子達から

"もっと怒って下さい"と言われます……」




空海くうかい(首を傾げる)

「………君が? ??怒り足りぬと……???」



最澄さいちょう

「………『教えとは、ただ慈悲であってはならぬ。』

…そう申す者もいます。

時に叱り、時に導き、峻厳しゅんげんと温情を共にせよと。

比叡ひえいの山ではそれが

"師"の器とされておるが故に……」



空海くうかい(少し考えるように)

「……ふむ……なるほど。叱る事もまた修行なのか」



最澄さいちょう(頷きながら)

「だが、は常に迷うのです。

声を荒げずとも、人の心は

育てられるのではないかと……。

そう信じたいのかもしれません。

例え……誤り多き世であっても……」



空海くうかい

「君らしい悩みだな。

地のように在り続けて、それでも人を育てている。

君の弟子達には、ちゃんと伝わってるよ」




ナレーション

しっとりとした山道に足を踏み入れた二人。

霧が立ちこめ、静寂せいじゃくの中に響くのは

遠くの梵鐘ぼんしょうの音のみ。

空海くうかいはふと、空を仰ぐ。

その眼差しの先にはまだ降らぬ雨をはらんだ

暗い雲が広がっている。



空海くうかい(鼻先をくすぐる気配に目を細めて)

「………雨の匂いがする………。

草木が静かにざわめいている……。

間もなく、落ちるな」



最澄さいちょう(立ち止まり、静かに頷く)

「はい、夕立にしては湿り気が重い………。

………これは、地をはらう雨でしょう」



空海くうかい(小さく笑って)

「君も同じか考えか。

こういう時の雨はまるで……。

何かを鎮めようとしているように思える」



最澄さいちょう

「ならば私達も、それにならいましょう。

今は、歩みを止める時ではありませんから」



空海くうかい

「嗚呼……。

そうだな、急ぎこの先の屋敷に向かわねばならんな」



最澄さいちょう

「やはり君も向かう場所は同じ……。

藤原実高ふじわらのさねたか様の別宅の屋敷へ向かわれるのですか?」



空海くうかい

「うん。あの行者ぎょうじゃ様とみかど勅令ちょくれいの文が届いてさ。

君にも届いたから此処ここにいるのだろう?」



最澄さいちょう(眉をひそめる)

「はい……。

の手元にも、同じ文が届きました。

……みかどが私達二人を呼ぶとは、異常な事態です……」




空海くうかい(冗談めかして)

「君とを同時に呼ぶなんて、

よほど切羽詰まってる証拠さ。

一方は"密教みっきょう"、もう一方は"戒律かいりつ"。

両方揃えて保険を掛けたつもりかもね」



最澄さいちょう

「それでも、我らはおもむかねばなりません。

言葉ではなく、"願い"にこたえる為に………」



空海くうかい

「嗚呼……雨が落ちる前に。

いや、"願い"が濡れきってしまう前に……」



ナレーション

霧深き山道に、二人の僧の足音が消えていく。

夕暮れの風が木々を揺らし、

遠くの梵鐘ぼんしょうがのがもう一度だけ響き渡る。


時のみかどは『仏の加護による鎮護国家ちんごこっか』を願い、

仏法に国の安寧あんねいを託した。


その願いの中に現れた二人の導師どうし

一人は近江おうみ比叡山ひえいざんに登り、戒律かいりつと教えをもって

万人ばんにんを救わんとした、天台宗てんだいしゅうの開祖、"最澄さいちょう"。

一人は命をして唐へと渡り、

密教みっきょうの奥義を修めて帰国した、

真言宗しんごんしゅつの開祖、"空海くうかい"。


悟りの道筋は異なれど、その歩みの根底には

人を救わんとする深き"祈り"があった。

法華ほっけ真言マントラ戒律かいりつ印契ムドラー

経文きょうもん曼荼羅マンダラ

互いにことなる経路を辿りながらも、

彼らは今同じ願いを胸に、

再びでこの道で出会ったのた。


まるで時代が息を潜め、二人の再会を

見守っているかのように…………。




【第三場:藤原実高の別邸・広間(夜)】


橘兼言たちばなのかねこと

空海和尚くうかいおしょう最澄上人さいちょうじょうじんが屋敷に到着したと聞いた。

身支度を整えているとの事だが、いよいよですな」



賀茂保成かものやすなり

「そうですな………。

彼らが此処ここに来る事で事態が進展するのを

期待するのみだ。」



藤原実高ふじわらのさねたか

「うむ………何かが変わるとすれば、

今日の話にかかっている………。

この国の行く末を左右するのだから………」



ナレーション

赤黒く揺らめく月は厚い雲に隠れ、日ノ本の夜は更に不気味な静けさに包まれていた。


此処ここは、左大臣さだいじん藤原実高ふじわらのさねたか別邸べってい

かつては栄華えいがを誇ったこの屋敷も

今は静まりかえり、何処どこか冷えた空気が漂っている。


灯りの火が障子越しにぼんやりと揺れ、虫の声さえ

遠のいて竹林を渡る風の音だけが聞こえる。

広間に座すのは、三人の朝廷ちょうてい重臣じゅうしん達。


真ん中には、朝廷ちょうていを長く支えてきた

左大臣さだいじん藤原実高ふじわらのさねたか

その表情には、日ノ本に渦巻く不安と重責じゅうせきが滲んでいる。


左に座るのは、穏やかで聡明そうめい官人かんじん橘兼言たちばなのかねこと

民の声を良く聞き、まつりごとを支える理知りちの人。


右には、若き賀茂かも家の当主にして陰陽寮おんみょうりょうに属する

陰陽師・賀茂保忠かものやすただ

神々への"祈り"を司り、日ノ本の霊的な均衡を

保つ役目をになっている。


三人の思いはただ一つ。

この国を、神と仏が見放す事のないように……。


そして今夜、二人の導師どうしを迎える為、彼らはただ静寂せいじゃく

月明かりに灯明とうみょうが揺れる中、

静かに、だが重々しく顔を揃えて待っていた。



藤原実高ふじわらのさねたか(低く呻くように)

「我が国の日ノ本の空が……。

まるで"死をはらはら"のようだな……」



橘兼言たちばなのかねこと(静かに報告する)

「この一年でやまいたおれれた民は三千余さんぜんあまり

加茂川かもがわの河岸に積まれた

遺骸いがいは未だ火葬も叶わず……

野犬が群がると聞きます」



賀茂保成かものやすなり(眉をひそめて頷く)

死穢しえはらわれぬまま積もれば、

神威しんいにごる。

賀茂かも家の巫女でさえ、みそぎの最中に

原因不明の熱病で倒れました………。

神々の怒りか、あるいは……

"忘れられしモノの嘆き"か……」



藤原実高ふじわらのさねたか(しばし沈黙し、やがて低く)

「……賀茂殿、その後の祭祀さいしはどうなされた???

病で倒れられた巫女の後継ぎが見つかったとは

話には聞いていたのだが……」



賀茂保成かものやすなり(顔を曇らせ)

「えぇ……神宝かんたからを洗い、

火を焚き、巫女がいにしえの言霊を

繰り返しました…………。

しかし……神託は降りませなんだ」



橘兼言たちばなのかねこと(低く続ける)

「そして巫女は異様な声を上げ、

昏倒こんとうし、その夜、自ら果てました………。

"月が逆さにく"と言って……」



藤原実高ふじわらのさねたか(目を細めて)

「……やはり、封じの地が……目覚めたか」



賀茂保成かものやすなり

「"月読ツクヨミ廃寺はいでら"………。

だがみ地として封ぜられ、

誰も近づかぬはず……」



橘兼言たちばなのかねこと(重々しく)

「"封印"とは、記憶から葬る事だが……。

人の心が薄れれば、"異なるモノ"が這い出してくる。

これは"忘却ぼうきゃく"への"報い"なのかもしれません………」




藤原実高ふじわらのさねたか(ため息混じりに)

祈祷きとうは尽くされ、祭祀さいしも絶やしておらぬ……。

それでも、この有様か………。

神も仏も日ノ本を見放したのか……」



賀茂保忠かものやすなり

左大臣殿さだいじんどの……。

そんな今こそ、"最も祈りの力"を

持つ者の手を借りるべき時です」




藤原実高ふじわらのさねたか(うなずきながら)

「嗚呼……保成やすなり殿のご明察通り……。

故に他の貴族の反対を押し切り、

私は導師どうしを招く覚悟を固めた。

仏門の"光"と"水"と、密法みっぽうの"火"と"風"。

その"祈り"の力に賭けるほか、道はない」



橘兼言たちばなのかねこと

「…忘れられし月読ツクヨミの地より"這い出るモノ"。

……それがこれ以上日ノ本をむしばむ前に、

手を打たねばなりません」




藤原実高ふじわらのさねたか(深刻な面持ちで)

「うむ………。

しかして、我ら三方さんかたの者はみな

みかど勅令ちょくれいを受けている。

最も信頼の置ける者達だ。

無論むろんみかどの言葉に応じて、

我らの身も決しておこたりなく支えるべきだ」



賀茂保忠かものやすなり

「確かに……我々が手を取って進むべき道は

いずれも厳しいが……」



橘兼言たちばなのかねこと

「それに空海くうかい最澄さいちょう

この両名には役小角えんのおづぬ様からも

手紙が届いていると聞いています。

彼らの動向がいよいよこの国に大きな影響を

及ぼすであろう」



藤原実高ふじわらのさねたか(思慮深げに)

役小角えんのおづぬの手紙か……。

の"異界"の者の意志が表れる時、

それが何を意味するのか、まだけぬ。

彼らの導きも頼りにせねばならぬ」




ナレーション

竹林を渡る風が夜のとばりを裂くように鳴り、

闇に潜む気配を揺り起こす。

左大臣さだいじんの奥の間……。

月明かりが障子しょうじを透かし、灯明とうみょうの炎がゆらりと

影を踊らせる中、三人の重臣じゅうしんもくしてし、

言葉なき"祈り"を捧げていた。

その沈黙を破るように遠くから廊下を

踏みしめる音が次第に近付く。

やがてそれは"彼等"の到来を告げる前触れとなる。



藤原実高ふじわらのさねたか(静かに立ち上がり)

「……まもなく、両者共に参られるそうだ」



橘兼言たちばなのかねこと(驚きと一抹の安堵を込めて)

「しかし……改めて思うが……。

まさかあの両僧がこの御時勢に

応じて下さるとは……」



賀茂保忠かものやすなり

「かの若き密僧みっそう空海くうかい

そして、比叡ひえいいただき法灯ほうとうを掲げし導師どうし最澄さいちょう……。

噂によれば、端倪たんげいすべからぬ才の持ち主と聞くが」



藤原実高ふじわらのさねたか(目を閉じ、深く息を吸う)

「うむ、そのような御仁ごじんの彼らに

我らがせるべき事はただ一つ……。

全てを、語り尽くす事だ」



橘兼言たちばなのかねこと

「その通りでございます……。

この日ノ本の"闇"とその"根"を……。

しんに知らねば……"祈り"も届かぬのだから」



賀茂保忠かものやすなり

「"月読ツクヨミ廃寺はいでら"。

………封じられしあの地の由来を、

今一度、紐解かねばなりませんな。

彼らに"真実"を託す為にも………」




藤原実高ふじわらのさねたか(ゆっくりと座へ戻り)

「嗚呼……共に語ろう………。

かの廃寺はいでらが何をはらみ、

何故なぜ文明の記録からも、

人々の記憶からも消されたのか……。

我らはすでに"忘却ぼうきゃくの罪"を

背負っているのだから………」




【第四場:左大臣邸・奥の間(月下、法の声が響く)】


藤原実高ふじわらのさねたか

「おぉ!!御二方おふたかた、夜更けによくぞ参られました!!

どうぞ、お入りくだされ」



ナレーション

重い扉が軋む音を立てて開く。

奥に揺れる灯籠の淡い光が、仄かに二人の影を映す。空海くうかい最澄さいちょうは静かに一礼し、

畳を踏みしめて部屋の中へと進んだ。



最澄さいちょう(落ち着いた声で、静かに頭を垂れ)

「……遅れて参りました。

ご無礼の段、何卒お許し下さい。

雨に足を取られ、屋敷を探すのに

少々手間取りました」



空海くうかい(深く礼しながらも、にこやかに柔らかな調子で)

「お待たせ致し申し訳ない。

風は我らをからかい、

雨が背を押してくれて助かりました。

……少々、道草を喰いましたがこうして

無事に辿り着いた次第にございます」




最澄さいちょう(ふっと笑みをこぼしながら小さく空海に話しかけ)

「フフッ、道草と言えば………。

覚えておりますか、空海くうかい

あの頃、比叡山ひえいざんから京へくだる途中……。

『この道は近道だ!』と申されて、

結局獣道を彷徨さまよった日の事を」



空海くうかい

「ほう……。

その道中で出会った猿に法華経ほっけきょう

唱え始めた御方おかたがいたなぁ。

『動物にも仏性ぶっしょうあり』と

いていたが猿の方が戸惑とまどっていたぞ?」



最澄さいちょう(少しムスッとして)

「……む。

………それは拝聴はいちょうしていたのです。

あの猿はちゃんと手を合わせていたでは

ありませんか」



空海くうかい

「ハハハッ!!

拝聴はいちょうと言うより、柿をねだっただけではないか?」



最澄さいちょう(ややむくれ気味に)

「それを申すなら、空海くうかいこそ……。

道に迷った挙句あげく、民家の庭先で勝手に

薪をいて拝まれていたではありませんか。

『お坊様、どうか雨を止めて下さい』と」



空海くうかい(ドヤ顔で胸を張り)

「フッ……結果、雨は止んだであろう?」



最澄さいちょう(呆れつつもどこか嬉しげに)

「はぁ……それはただの偶然でしょう」



空海くうかい(にやりと笑い)

「いやいや、それもまた"導き"というモノだ」



最澄さいちょう(ちらりと空海を見て深い溜息を零しながら)

「空海、貴方って人は……良いですか???

“導き“と偶然を混同なさらぬよう……」



空海くうかい(わざとしく大きく頷き)

「うんうん。そう、偶然の力は偉大なのだ。

例えば、こうして今この屋敷に辿り着けたのも、

偶然……いや、"運命"というべきか」



最澄さいちょう(くすっと意地悪く笑って)

「"運命"の力を信じるのは結構ですが、

使い所を誤るとただの強がりになりますよ?」



空海くうかい(急に真顔で)

「ん??何を言う。

使う使わぬという小さな了見りょうけんでは"道"は開けない。

……それより、より背の高いそなたが

そんな神経質になってどうする、身体に毒だぞ?

ほれ、呼吸が少し荒くなっているではないか。

早く沈香ちんこうを染み込ませた布の香りを嗅げ」



最澄さいちょう(やや呆れながら溜め息を更に零して自身の手ぬぐいの香りを嗅ぎつつ、咳を軽くする)

「確かには貴方よりも大きいですが、

それとこれとは関係ありませんよ……

もうこれではどちらが年上か……けほっごほっ」



空海くうかい(にやにやしながらよしよしと最澄の背中を摩り)

「そうねるでない。美人が台無しだぞ?」



最澄さいちょう(少し顔を赤らめ照れながら)

「うっ……貴方がそれを言いますか……」



藤原実高ふじわらのさねたか(空気を裂くように咳払いが響く)

「ゥオッホン!! ………あ、あのー……御二方おふたかた

たわむれはその辺りにして……

そろそろ本題に入りませぬか……?」



空海くうかい(空海と最澄、顔を見合わせ、少しの沈黙が流れる)

「…………ん?」



最澄さいちょう

「…………え?」


(……し、しまった……!!!

まずい………また脱線してしまった…………!!!)



空海くうかい(二人同時にぺこりと頭を下げ、空海はにっこりと、軽く礼をする)

(………………うん、よし。

これは怒られる前に笑って誤魔化すに限るな)


「失礼致しました、実高さねたか殿。

つい話が逸れてしまいまして……」




最澄さいちょう(さっきよりも更に耳まで赤くして恥ずかしそうに、申し訳なく照れながら)

「……誠に………申し訳………ございません………。

話がつい………弾んでしまいまして……」




藤原実高ふじわらのさねたか(藤原実高はやや安心したように柔らかく微笑む)

「ワッハッハ!! いえいえ!

御二方おふたかたが少しでも我らの心を

なごませようとして下さったのですね。

これもまた御仏みほとけ慈悲じひと言うもの、有難ありがたき事ですぞ。

……さて、それでは………。

いよいよ本題へと参りましょうか……」




【第五場:月読の禍と、朝廷の座】


ナレーション

笑いの余韻よいんが消え、静寂せいじゃくが戻ると

ほのかかな灯りのもと"運命"が動き出す。

それはまるで何者かに宛てた"懺悔ざんげ"のように……。



藤原実高ふじわらのさねたか

「まずは御足労ごそくろうに深く感謝申し上げます。

お初にお目にかかる。

私は左大臣さだいじん藤原実高ふじわらのさねたか

今宵、此処ここにお招きしたのは、

全てみかどとこの国の未来を案じての事…。

御二方おふたかたには改めて素性を

お聞かせ願いたい」




最澄さいちょう(一歩進み、深く頭を下げ)

比叡山ひえいざん延暦寺えんりゃくじにて

天台てんだいの教えを広める僧、最澄さいちょうと申します。

師は行表上人ぎょうひょうじょうにん

"衆生済度しゅじょうさいど"をむねとし、御仏みほとけの光を人々に伝えんと

日々、はげんでおります」




空海くうかい(微笑みつつ軽く一礼)

密教みっきょうもって"真理"を求むる僧、空海くうかい

唐にて修行し、帰朝後は高野こうやの山にて修法しゅうほうの日々を重ねています。」




藤原実高ふじわらのさねたか(頷きながら、両隣に視線を移す)

「ご挨拶、かたじけない。

こちらにひかええるは、我が同輩にして

この国のかなめにな御方々おかたがた

右近衛少将うこんえのしょうしょうにして陰陽寮を統べる者、賀茂保成かものやすなり殿。

そして中納言ちゅうなごん、学識深きまつりごとかなめ

橘兼言たちばなのかねこと殿でございます」




賀茂保成かものやすなり(一歩進み、礼をして)

「陰陽寮を預かる、賀茂保成かものやすなりと申す。

空海くうかい殿……。

やはり……かの"火を宿し、風に乗りて帰る者"とは

貴殿きでんの事か。

尋常ならぬ才と聞いております」



空海くうかい

過分かぶんなるお言葉。"火"と"風"は導きに過ぎませぬ。

真に動かすものは、"祈り"と"心の静けさ"かと」



橘兼言たちばなのかねこと

橘家たちばなけの子、兼言かねことと申します。

最澄和尚さいちょうおしょう……。

その名、比叡ひえいの山より幾度となく耳に致しました。

"慈悲とかいの深き者"………。

この世に並び立つその姿、まさしく今この時に

国が選んだえにしと申せましょう」



最澄さいちょう

「ありがたきお言葉。

人のえにしこそ、仏の導き。

本日は皆様と語らえるこの場を、

何よりの光栄と存じます」



藤原実高ふじわらのさねたか

「……良き出会いにて始まった事、

これもまた何かの"しるし"かもしれませぬな。

さて………御二方おふたかたをお呼びしたのは、

【月を喰らうまが】……。

"月読ツクヨミ廃寺はいでら"にまつわる件でございます」




【第六場:月読の封印、痛みの地】


ナレーション

──────【月が喰われてゆく】




その囁きは何処いずこかの"闇"より生まれ、

やがて日ノ本の津々浦々へと忍び込んでいった。


空に穿たれた黒き穴が静かに、そして確かに、

月を喰らっていく。


赤黒く滲みながら欠けてゆく月は、不吉の"影"を

大地に落とし、星々の囁きを奪い去った。


日ノ本の空に浮かぶその月は、まるで天の怒りを

映すかのように異様な光を放ち、

人々はこれを"神仏の嘆き“と恐れ続け、

最澄さいちょう空海くうかいは調査の末に辿り着いたのが

この地に封じられし祈りの残滓ざんし………。

"月読ツクヨミ廃寺はいでら"の噂。


二人はそれを追ってこの地に招かれたのだった。



賀茂保忠かものやすなり(間をおいて、賀茂保忠が口を開く)

都遷みやこうつりりの前よりこの地の奥深くに

存在した古きほこらまつった廃寺はいでらがございます。

名は“月読ツクヨミ廃寺はいでら“、“無月寺むげつじ"。

陰陽師や山伏やまぶしらが神仏習合しんぶつしゅうごうの儀を重ねていた

聖域でしたが……。

ある時より“声“が満ち、やまいと死が広がった。

"封印の儀"が行われ、

以後は"禁足地"とされております」




橘兼言たちばなのかねこと(古い書状をめくりながら)

「記録によれば、月蝕げっしょくの夜。

女のうめきと子の泣き声が響き、大勢の僧と

術師や神職の者達が命をして封じたと……。

だが、今はその記録も断片的。

いかなる“祟り“か、誰が何を封じたのか……。

もはや不明にございます」



空海くうかい

「なるほど…“忘却ぼうきゃく“と言う名の封印か……。

………むごい事をする…………」


("忘却ぼうきゃく"の名の元に痛みを閉じ込め、

"影"を恐れ、その"想いを"捨てた"………。

ただ静かに黙して、

"祈り"だけを置き去りにして……。

……それは御仏みほとけの"道"と言えない……)



ナレーション

空海くうかいの瞳が細く細められる。

悲しみににじんだ眼差しの奥に確かな怒りと、

かすかな嫌悪がともる。


忘却ぼうきゃく”――それは記録を断ち、痛みすら閉ざす封印。

人は都合よく忘れる事で"祟り"から逃れたのか。

空海はそれをただの"逃避とうひ"と見ていた。


その隣で最澄さいちょうもまた沈黙する。

空海くうかいと同じ痛みを胸に抱きながらも、

その顔に宿るのは怒りではない。

深い哀れみと、全てを包もうとする静かな慈悲。

忘れられた"影"にさえ、手を差し伸べる者の眼差し。

だが、彼の胸にもまた、問いがあった。



最澄さいちょう

(……忘れる事で守れるものと、

忘れてはならぬものがある……。

“心こそ御仏みほとけ御坐おわところ”。

――そう、は弟子達に教えてきた。

だから彼らは、己が心の"闇"すら

見ぬふりをしてきたのかもしれない………)


「………月読命ツクヨミノミコト三貴神みはしらのうずのみこと内の一柱ひとはしら

月と夜の"ことわり"を司る神と聞きます。

災いをもまつる神なればこそ、

おそれとともに敬われ、まつりが絶えた時、

"神のり方"は人の心を映す鏡となるのでしょう」



賀茂保忠 《かものやすなり》

「まさに……信仰が消え、人の"祈り"が

絶えた時……神すらも変じる。

"祝福"が“祟り“へと裏返るのです」



藤原実高ふじわらのさねたか

「近年、日ノ本に広がる不穏な"影"とえき

その"闇"の連鎖は全てはあの地が

呼び起こしているのではないかと

我らは見立てております。

故に……御二方おふたかたには、日ノ本にこれ以上“祟り“が

及ばぬよう、御二方おふたかたの持つ“祈りの力“を仰ぎ、

月読ツクヨミ廃寺はいでら“、“無月寺むげつじ“に共におもむいて頂きたい」



橘兼言たちばなのかねこと

「その地にはかつて月読ツクヨミの神をまつったやしろ

月光菩薩げっこうぼさつの仏像がありました……。

だが、既にの地は封じて久しい………。

何故、封じたはずの地から

このように事になったのか………。

我らには計りかねる」



賀茂保成かものやすなり

「我らは今までもはらいも結界も、

既に幾度となくほどこしてきた……。

それでも異変は収まらぬ……」



ナレーション

少しの沈黙の後。

空海くうかいは静かに瞼を上げ、微かな笑みを

こらえて空をあおぐ。

それは、悲しみと"祈り"を包み込むような微笑み。


――過去を背負いながらも、なお歩む者の顔だった。


その声は、静けさの中に確かな意志をともしていた。



空海くうかい

「"封じた"のは、人の"ごう"さ。

ならば、それを解くのもまた、"人の手"によるもの。

御仏みほとけも神も、その行いを静かに見ておられるよ」



最澄さいちょう

「……“封じられしモノ“が“邪“とは限りません。

“理解されないままに忘れられた祈り“。

それこそが、あの地に残る“痛み“なのでしょう」



空海 《くうかい》

「“祈り“が届かぬ地であればこそ、

足を運ぶ意味がある。

朽ちたほこらの奥に眠るものを、

我ら二人で共にそのまなこで見届けようじゃないか、最澄さいちょう



最澄さいちょう

「えぇ、空海くうかい。“忘れられたモノにこそ"光"を。

当たらぬ月光の下に、

いずれ芽吹く命があると信じて……」




賀茂保成かものやすなり(2人のやり取りに若干な苛立ちを抑えながら、一歩踏み出し、咳払いをする)

「オッホン!!

……廃寺はいでらへの道は複雑にして、

今や誰も足を踏み入れませぬ。

人の踏み入れぬ獣道。

昼もなお、暗き竹林ちくりんの中なのです。

だからこそ、案内には陰陽寮の者をつけます。

わたくしが選んだ弟子に案内を……」



ナレーション

空海くうかい最澄さいちょうは、すっと手を上げ、

とても通る声で迷いなくきっぱりと言葉を放った。



空海くうかい

「不要だ」



最澄さいちょう

「不要です」



賀茂保成かものやすなり

「………………は???」



橘兼言たちばなのかねこと

「………………………え???」



藤原実高ふじわらのさねたか

空海和尚くうかいおしょう………。

最澄和尚さいちょうおしょう………。

…………今、なんと???」



空海 《くうかい》

「ん???聞こえなかったか???

案内は要りませぬ。と言ったんだ。

心が向かぬ道ならば、それはが選ぶ"道"ではない。

風と木々の声に従う方が、"真実"に近づけるのさ」



最澄 《さいちょう》

「私も空海と同じ意見です。

はあの地に染みついた"痛み"を辿り、

人の記憶よりも深く残る"地の記憶"に

耳を傾けましょう」



賀茂保成かものやすなり

「な……何故………そのような事を仰るのだ???」



空海くうかい

には"道"が見えているんだよ。

己の内に、ね。

それが"直感"と呼ばれようと、

御仏みほとけの教えは外にあるものではない。

己の中にこそ、真の"道"は"る"。

例えそれが"闇"に覆われておろうとも。

故に案内は不要だ」



最澄さいちょう

「案内を受ければ、見えぬものがあるのです……。

もまた行くべき"道"は、

声無きこえに教えられるものと

思うております。

は……人の"気"を見て歩きましょう。

道に刻まれた足跡よりも、道は人が造るもの。

ならば、廃寺はいでらへ至る道も

また、誰かの"痛み"に寄り添えば見えるはず。

人々の記憶に刻まれた"想い"の方が、

を導いてくれるのです」



橘兼言たちばなのかねこと

「さ、されど、あの廃寺はいでらには……

多くの者が近づこうとも、戻らぬ事も……!」



空海くうかい

「ハハハッ、我らは"近づく"のではない。

"辿たどる"のさ。その地に、何が封じられ、

何が今もうめいているのか、それを知る為に」



最澄さいちょう

「私達はその呻きに耳を澄ませたいのです。

"祈り"が届かぬのなら、それは"祈りのカタチ"が

歪んでいたのでしょう。

ならば今一度、"真の祈り"を。

我が身をもって捧げましょう」



賀茂保成かものやすなり

「そっ、それは理想論だ!!!!

貴方々はまだ"アレ"の恐ろしさを

知らぬから言えるのだ!!!!

本当にあの地に"眠るモノ"を"想い"などで

越えられると思うのか?!?!

は陰陽師として、

あの地をずっとてきた………。

幾度も………幾度も……。

だがる度に…知る度に言葉を失った。

あれはただの"祟り"などと言う簡単な言葉では

表せないでは"怨嗟えんさ"だった!!

誰かの、何かの………

ずっと、あの奥で蠢く"絶望"だ!!!!」



橘兼言たちばなのかねこと

保成やすなり殿!!

御二方おふたかにそのような

口を聞いてはなりませぬ!

我らはこの方々に願いを託す立場、

幾らこうべれても足りぬのですぞ!

恐れや怒りに身を任せては、"祈り"は届かぬ……

違いますか、陰陽師殿!!」



賀茂保成かものやすなり

「しかし!!!

兼言かねこと殿、貴殿きでんだって分かるはずではないか!!!

我らと共に"アレ"を見たのならば!!!」



空海くうかい

「君らは苦しいんだね………。

自分達の"無力"さと"正しさ"が………………。

………あのさ……良いかい、御三方ごさんかた

君達は"理想にすが っている"。

自分達の"正しい理想のにすがりついてしまっている"。

理想というのは、

"理想にすがる"んじゃない、"理想をす"んだ。

想いは形を変える。

念じ、描けば、言霊となる。

が学んだ密教みっきょうとはそもそもそのすべさ」




最澄さいちょう(穏やかに、しかし芯のある声で)

空海くうかい……本当に貴方の言葉は"火"と"風"のごとく、

心を照らすのですね………。

ではは"光"と"水"をもって言いましょう。

理想をす為には、まず“己を知る”事から

始まります。

天台の教えは“えん”にして“中道ちゅうどう”をとくく。

一隅いちぐうを照らす者となれ。

それは他に"光"を求めるのではなく、

己が闇を見つめ、そこにこそあかりともすと言う事です。

理想を掲げる事はやすし。

ですが、それをうつつに降ろすには、

他を責めず、己を掘り下げ、同じ"痛み"を

歩む"覚悟"が要る。

それが“慈悲”という"灯火ともしび"であり、

衆生しゅじょうと共に悟りを

目指す“大乗だいじょう”の"道"なのです」



藤原実高ふじわらのさねたか

「……ありがとう、空海くうかい殿、最澄さいちょう殿……。

我らもかつて、"祈った"のだ………。

あの地に集いし者達と共に……。

だが……その"祈り"は届かなんだ……」



最澄さいちょう

「……………"祈り"が届かぬ事もあります。

ですがそれは"無意味"なのではないのです。

届かぬ"痛み"を知るからこそ、

人は再び手を合わせる事が出来るのです」



賀茂保成かものやすなり

「それでもは恐れた………。

あの地の"声"を、正面から聞く事を………。

霊をるが故に、深淵の底をも

覗く事になる……故に逃げた…………。

逃げ出したんだ!!!」



空海くうかい

「ならばまた聞けば良い、今こそ。

その"絶望"も、"嘆き"も、"怒り"も全て。」



橘兼言たちばなのかねこと

「そ、そんな事……常人に、

"人の身"に出来るものか!!!!

空海くうかい殿と最澄さいちょう殿は我らを悪だと糾弾きゅうだんするのか?!

我々はみかどを!都を!日ノ本を!民を守る為に!!!

己を捨て、"道"を断ち、記録を捨て、

想いを焼き尽くした! !!

見て見ぬふりをしたくてしたのではない……

我らは……!我らはただ……!!」




最澄さいちょう(言葉を遮らず、そっと兼言の手を握る)

「……貴方々は、みかどが愛した日ノ本の民を、

日ノ本を守る為に祈った。

今度はその“全てに忘れられたモノ達"の為に

祈っても罰は当たらぬでしょう」




藤原実高ふじわらのさねたか(震えながら涙を流し)

「………我らは……私は思い出す事を……。

恐れたのだ……恐れてしまったのだ………」



ナレーション

空海は冷徹な鋭さが混じった瞳で三人を見つめた。

まるで彼らの内に眠る怒りと苦悩と

一気に溢れ出すかのように相手を見据えて。



空海さいちょう

「ならば、なおの事だ。

思い出せ、己の“過ち“を。その“痛み“を。

人はそれを“きょう“として積む。

………"痛み“から目を背けぬ者だけが、

“祈りの意味“を語れるんだ。

だからさ………もし、その荷物が苦しいなら

達に任せてくれないか?」



最澄さいちょう

「はい、私も空海くうかいも未だ"道"に悩む者。

貴方々に救いの"道"を照らす為に、

私達を頼って託して下さい。

私達は今こそ"祈り"の"原点"に

戻る時なのかもしれません。

"託す"と言うのは己の責を放す事では

無いのですから。

……願わくは、闇に灯る一縷いちる

えにしとならん事を………」



藤原実高ふじわらのさねたか(2人に向かって涙を流しながら手を合わせ)

「………"祈り"とは、"カタチ"にあらず。

魂を通じて届くもの。

式神や札では届かぬところがあると言う事か………。

空海くうかい殿、最澄さいちょう殿、ありがとうござりまする。

どうか………御二方おふたかたの"道"が、

災いを越えて神仏に届かん事を……」




【第七場:封じられし祈り、月下にて揺らぐ】


ナレーション

灯火ともしびが、音もなく揺れていた。

張りつめた空気の中、外の風が遠くをかすめ、

何処からともなく鈴の音が微かに響く。

場を包んでいた沈黙に、もはや言葉は必要なかった。


三人の官人かんじんは、静かに頭をれる。

空海くうかい最澄さいちょうは、

ゆるやかな足取りでその場を後にした。

二人の背が闇に溶けるまで誰一人、

声を発する者はいなかった。


広間には三人の重臣じゅうしん達だけが残された。

障子越しに射し込む赤い月光が薄く、寂しく

その姿を照らしている。

胸の内にそれぞれの思いを抱え、時間だけが

静かに過ぎてゆく。


ふと月を見上げていた藤原実高ふじわらのさねたかが沈黙を破り、

重い口を開いた。




藤原実高ふじわらのさねたか

「……あの地に、再び足を踏み入れる者が

現れるとは思わなんだ。

………しかし………。

私は空海くうかい殿と最澄さいちょう殿に託した。

だが………我らが背負うべきものまで……

背負わせて良いのだろうか?

我らはあの地の"祈り"を絶やしたのか、

それとも…忘れ続けようとしたのか」



賀茂保成かものやすなり

実高さねたか様………それは…………」



ナレーション

時は過ぎ、言の葉は朽ち、声なき記憶となった。

かつての"祈り"も"呪い"も全てを呑みこんだ

あの廃寺はいでらに誰も"真実"を残さず、

誰も"真実"を語らなかった。

ただ、"封じられたまま"。

ただ、"見ぬふりをしたまま"。

"闇"は静かに息を潜めていた。



藤原実高ふじわらのさねたか

「……我らは、ただ"封じた”だけだった。

私もまた逃げ出して、見ないようにした……

人々は廃寺はいでらに何があったのか、

誰も口にせぬようになった。

年月と共に、記録さえも消えていった。

だが、それで良かったのか……?」



橘兼言たちばなのかねこと

「私は、“神祀かみまつり“の責を担う者。

だが神をまつるという事は、“祈りの器“を

整えるだけでは足りなかった………。

あれは神仏すらもまつられぬ“影“だ………。

だが、“影“はやがて“祟り“へと転じる。

我らはその“影“をずっと“無かった事“に

し続けてきたのです……。

あの廃寺はいでらに宿ったものが“神“ならば、

私はそれを見捨てた事になるのでしょう……」



ナレーション

橘兼言たちばなのかねことは己の口から出た言葉が深く刺さった。

それはまるで杭のように心をえぐる。


彼の目は遠く、過ぎし日の"痛み"を追い、

見捨てられた"影"に心を寄せる。

"影"を封じる事の恐ろしさを今更のように痛感する。


だが、その責を果たす事で得た

"救い"はあったのだろうか?


「何故見捨てたのか……」

その問いが胸中で絡みつき、消えることなく

心を締めつけた。



賀茂保成(かものやすなり)

「……式を立て、方角を封じ、結界を張った。

だが、何の為に……?誰の為に……? 

える者として、語らねばならぬ時に

は“口をつぐんだ“のだ。

みかどと民を、日ノ本を、都を、守る為に……。

しかしそれはおのれを守る為の詭弁きべんだったのか………?」



ナレーション

まるで自分達をさいなむ深い闇に呑まれるように

その言葉で、皆一同に静まり返る。


「守るべきは、何だったのか?」

「己は正しかったのか?」

崩れ落ちる正義の後悔が、心に走る冷徹な痛みが、

静寂せいじゃくの中で深く響き、重く反響する。



橘兼言たちばなのかねこと

「"忘れる事はゆるしを得る事ではない"………。

我らはその違いを、

見失っていたのかもしれませぬ………」



藤原実高ふじわらのさねたか(賀茂保成の肩に手を起き、障子の月を見上げる)

「………夜は長い…………。

────されど、"祈り"が灯されれば……

きっと、月もまたこたえるだろう………」



賀茂保成かものやすなり

「……"託すというのは、己の責を放す事ではない"。

今ようやく……その意味が分かった気がする……」



橘兼言たちばなのかねこと

「えぇ……そうですね……保成やすなり殿………」




ナレーション

三人の背に、月の光がそっと滲む。

それはまるで交わされぬ"想い"を静かに照らす、

別れのあかりのようだった。

障子が微かに揺れ、風の筋がすり抜けてゆく。

遠くに微かな鈴の音が鳴り響く。

それは遥か彼方かなた

忘れられた廃寺はいでらから響く、

"呼び声"のように空気を震わせた。


静寂せいじゃくの底、竹が微かにそよぎ、

風が過ぎし時の"記憶"を撫でるように、

そっと通り過ぎてゆく。

空に浮かぶ月は赤黒く滲みながら、

静かに欠けてゆく。

その"影"は地に長く伸び、

やがて世界を染めてゆくように見えた。


そして今、闇に沈む“月読ツクヨミ廃寺はいでら“へと、

空海くうかい最澄さいちょうの旅は、

音もなく始まろうとしていた。


人の"祈り"と、神仏のあわい

"交わらぬモノ"達の"願い"が

密やかに、確かに、時の底から動き始めていた。



最澄さいちょう

「……風がいていますよ、空海くうかい………。

あの地より六道りくどうふちに沈みし、こえなき衆生しゅじょう慟哭どうこくが私達を呼んでいるのでしょう………」



ナレーション

二人は、まるで全てを悟ったかのように

静かに微笑み合いながら、夜空に滲む赤黒い月を

見上げていた。

それは"慟哭どうこくの記憶"をたたえたような光。


─――"祈り"とも"呪い"ともつかぬその月の下で、

ただ静かに時は流れてゆく。



空海くうかい

「嗚呼、最澄さいちょう……。

君にも聴こえているんだな………あの声が…………。

ならば共に、一緒に行こう。

菩提心ぼだいしんともし、

曼荼羅マンダラ中道ちゅうどうぎょうずる者として。

君は迷界めいかいを越え、法の"光"の者として。

共に闇を照らそう。

我らが願いは一つ。

“一切衆生 悉有仏性いっさいしゅじょう しつうぶっしょう“、

その“証明“の為に…………」




ナレーション

──こうして始まるのは"祈り"と"業火ごうか"の物語。



怨念おんねん天命てんめいが交差する

平安の夜を照らすのは月の"光"と"闇"の"記憶"。



さぁ、この世に神仏の"ことわり"をもっ

"闇"をはらい、"真理"を照らせ…………────




『月照らす火の記憶 ― 神々の法、慈悲の火―』

第一章 『禍月来迎かげつらいごう 』完。




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『月照らす火の記憶 ―― 神々の法、慈悲の火 ――』 ぐるこ☆さみん @alice996602

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