第一章【禍月来迎 ───かげつらいごう───】
【作者】グルコ☆(スター)さみん
●【台本タイトル】 【禍月来迎 《かげつらいごう》】
●【男女比率】→男4/不問2(6人台本)
●【目安時間】 約90分。
●【ジャンル】 歴史×和風ダークファンタジー
●【配役一覧】(敬称略)
ナレーション/
────────────────────────
【場面:都・平安京 夜。赤黒い月蝕の下、異変が始まる】
ナレーション
───時の
かつての権力闘争と
旧都・
開いたばかりの時代──
火を放たれた屋敷、積み上げられる
そして夜な夜な現れる黒き"影"…………。
"闇"はなおも日ノ本を
──そんな、
更なる
火に焼かれた旧都、
大地に"闇"を落とし、毎夜、現れる“影“が
日ノ本の命を喰らっていた。
人々はそれを、【月を喰らう
【場面:内裏・夜。帝、重病の床】
(障子の向こう、赤黒く染まる月蝕の光。静けさの中に風の唸りが響く)
「……月が……赤黒く……。
これは、
「いいえ、
これは
この世に巣くう"
もはや、祈りだけでは届かぬ"闇"が
天を
「人の……"
ならば、この日ノ本に満ちる"闇"は
我らが招いたのか……。
国も揺らがせ、世界すらを喰らい尽くすと言うのか?
そなたは
……何をすれば良い?」
「まさしく……….
神の声も天の星も
今こそ二人の"祈り手"が必要なのです。
"
彼らに託すほか、ありませぬ」
「
だが
あやつらに"闇"を裂けというのか……?」
「彼らは"光と闇を知る者"、だからこそ良いのです。
"火"と"水"、"
空を
その"正体"を追って【月の記憶】を
"
それが出来るのはあの二人以外にありますまい」
「……よかろう。
この命、朽ち果てようと……
この日ノ本が滅びる事は許されぬ。
……ならばこそ、そなたに
そなたが
【月を喰らう
「
"闇"の深きより来たるものに
地に"祈り"を遺す者となりましょう。
【
(音:役小角の杖が床を打つ音。月蝕の闇の中、風が巻き、障子が鳴る)
ナレーション
作者 ぐるこ☆(スター)さみん作
『月照らす火の記憶 ― 神々の法、慈悲の火―』
第一章【
【場面転換:比叡山・根本中堂】
ナレーション
───夜明け前…………。
初夏の
僧達がまだ夢の中にいる
静かな
穏やかに
だが突如としてその
堂へと駆け込む、彼の弟子である
荒々しい急ぎ足の音が慌ただしく響いた。
「
こちらにいらっしゃいますか、
「…どうしました、
夜明けもまだ遠い
慌ただしくしては………。
心が乱れてしまいますよ、落ち着きなさい。
何か、
「はっ!!申し訳ありません!
失礼致しました、
実は……先程、
――
「……
……して、一体何が起こったのですか?」
「日ノ本中から見える月が欠け、黒き"
それが地上に満ち、国を
【月を喰らう
この"
「【月を喰らう
(最澄は手渡された巻物を広げ、静かに目を通す)
「
今また大いなる"闇"によって空は月を覆い、
地には"影"が満ちている。
この"闇"は天の怒りでも神仏の怒りでも
これは人の心に宿る"
"祈り"の"
されど"祈り"が天を照らし、
届くと信ずるならば………。
今こそそれを
"火"と"月"、二つの"道"と"
"封じられしモノ"が目覚めん。
その時に 問われ続けた答えを出すのは"信仰"か、
あるいは"人の
私はそなたらの答えを見届けよう。 役
「……"月を喰らう"……ですか……………。
(……月が喰われた……。
月が
人は恐れ、神仏の声をも失い、
人は"闇"を恐れ、神も仏も忘れてしまう………
………闇"か、人か…….
本当に"
それとも、"人"なのでしょうか……)
「………
………何かお心が、
「大丈夫ですよ、
少し昔の事を思い出していたのです。
……まさか
再び"道"を共にする時が巡ってきたとは……。
我らを導かれているのですね」
「
この
それでも
行動すべき時では……」
「……そうです……その通りですね……。
"祈り"だけでは"届かぬモノ"があるのなら、
歩むしかありません」
(けれど
再び相まみえる再会が何を導くのか……。
何が目覚めるのか……。
それを知る者はまだこの世にいない………。
ナレーション
優しい朝の日差しが雲の隙間から
顔を覗かせ、夜明けの空を照らし始める。
やがて
「
「いいえ、
そなたは
弟子達を導き、皆と共に民を祈り、
それもまた
貴方は次代の天台を
そなたこそ、いずれ天台の
"祈り"とは、寺の中だけにあるものではない……
その声が届くか否かは、
全ては "行い"に掛かっているのです」
「……ですが!!
………ですがこの"
「
たとえ今は"道"を違えていても……
"祈り"を信じる心は、決して交わる事を
拒みはしないのです」
「……
どうか……どうか
「ありがとう……
この世には"祈り"だけでは
届かぬものもありましょう。
されど、"祈りを携えて歩む者"にこそ、
"道"は開けるのです………。
私達の絆が人々に"光"となる事 を共に
信じましょう……」
(朝焼けの輝きが堂内に差し込み、最澄の背に微かな光が交差する。)
【第二場:讃岐・空海の庵】
ナレーション
風鈴が静かに鳴り、小さな
焚かれた香のかすかな匂いが漂う中、空海は
――その
駆け込んできたのは空海の甥であり、
弟子でもある若き僧・
息を弾ませながら、何かを急ぎ伝えようとしていた。
「どうした、
そんなに駆け出して、何事だ???」
「
京より急ぎの
そして……
(にっこりと目を細め、穏やかに筆を置きながら巻物を受け取り、広げて目を走らせる)
「へぇ……
さては、ただの厄介事では無いな」
「天が今まさに喰われておる。
この"闇"は"祈りの欠片"を喰らい、
"歪み"に成り果てたモノ。
すなわち、【月を喰う
されど、
この旅は
焼かれる"痛み"を越えなおもその"灯火"を
私はその末路を見届けん。 役
ナレーション
そっと
紙は火に
それは"祈り"か、"決別"か………。
揺れる火の色に
「……【月を喰う
ふむ、まるで神話のようだな」
「日ノ本中で見える月が黒く喰われるなんて…
それに文にはあの
書いてありますが……」
「
真面目で穏やかで優しいく……。
だが、芯には
まさか、またこんなカタチで会えるとは………。
ふふ、凄い巡り合わせだ。
やはり、"
………これは、"
「"
「それに"試練"とは………面白い!!!
されど答えを見つける旅というのは
案外、
…………………うん、では、行こうか。
【月を喰う
確かめに…………」
ナレーション
その手をほどくと、ゆるやかに立ち上がり、
仰ぐ視線の先には"祈り"の
彼の瞳は遥か
「さて、
そなたが山で磨いた"光"と水"と
どちらが闇を裂くか……楽しみだ………」
(風鈴が静かに揺れる。場面暗転)
【第三場:山道・夕暮れ】
ナレーション
霧が立ちこめる静かな山道。
夕日が霧に滲み、幻想的な空気が漂う。
遠くからは鳥の鳴き声と虫の音、
風のざわめきが混ざり合い、その中を一人の
(……日も落ちかけてきたか。
屋敷までは、あと
この静けさと深い霧……。
まるで、山が何かを飲み込んでおるようだ……)
ナレーション
その時、遠くから鈴の音と共に
楽しげな笑い声が響いてきた。
静かな山道に一際、明るい音が広がっていく。
「おやおや、こんな霧の中に、人影とは……。
もしや、
「その声は……
いや、"
お久しぶりでございます」
ナレーション
穏やかにそしてどこか懐かしげに微笑む。
その表情には、過去の記憶が優しく
浮かび上がっているようだった。
「やはり、君だったか。
霧の中に見えた姿が
あまりに美しいから山の神かと思ったよ。
しかし、流石は"地に根ざす人"だ……。
まさか霧の山道の中で再会とは……
これはもう、神か仏の演出かな。
うん、嫌いじゃない」
「変わりませんね、貴方は。いつも口がお達者で」
「君だって、相変わらず"おっとり刀"だ。
抜かずとも斬れるような
「んん??…………そう見えるでしょうか?」
「昔からそうさ。
君が静かに笑ってる時が一番怖いと
「それは誉め言葉と受け取っておきましょう」
「誉めているさ。
君が怒る姿なんて想像出来ないけれど……。
きっと雷よりも、ずっと
静かな怒りなんだろうな」
「……そうでしょうか…………。
"もっと怒って下さい"と言われます……」
「………君が? ??怒り足りぬと……???」
「………『教えとは、ただ慈悲であってはならぬ。』
…そう申す者もいます。
時に叱り、時に導き、
"師"の器とされておるが故に……」
「……ふむ……なるほど。叱る事もまた修行なのか」
「だが、
声を荒げずとも、人の心は
育てられるのではないかと……。
そう信じたいのかもしれません。
例え……誤り多き世であっても……」
「君らしい悩みだな。
地のように在り続けて、それでも人を育てている。
君の弟子達には、ちゃんと伝わってるよ」
ナレーション
しっとりとした山道に足を踏み入れた二人。
霧が立ちこめ、
遠くの
その眼差しの先にはまだ降らぬ雨を
暗い雲が広がっている。
「………雨の匂いがする………。
草木が静かにざわめいている……。
間もなく、落ちるな」
「はい、夕立にしては湿り気が重い………。
………これは、地を
「君も同じか考えか。
こういう時の雨はまるで……。
何かを鎮めようとしているように思える」
「ならば私達も、それに
今は、歩みを止める時ではありませんから」
「嗚呼……。
そうだな、急ぎこの先の屋敷に向かわねばならんな」
「やはり君も向かう場所は同じ……。
「うん。あの
君にも届いたから
「はい……。
……
「君と
よほど切羽詰まってる証拠さ。
一方は"
両方揃えて保険を掛けたつもりかもね」
「それでも、我らは
言葉ではなく、"願い"に
「嗚呼……雨が落ちる前に。
いや、"願い"が濡れきってしまう前に……」
ナレーション
霧深き山道に、二人の僧の足音が消えていく。
夕暮れの風が木々を揺らし、
遠くの
時の
仏法に国の
その願いの中に現れた二人の
一人は
一人は命を
悟りの道筋は異なれど、その歩みの根底には
人を救わんとする深き"祈り"があった。
互いに
彼らは今同じ願いを胸に、
再びでこの道で出会ったのた。
まるで時代が息を潜め、二人の再会を
見守っているかのように…………。
【第三場:藤原実高の別邸・広間(夜)】
「
身支度を整えているとの事だが、いよいよですな」
「そうですな………。
彼らが
期待するのみだ。」
「うむ………何かが変わるとすれば、
今日の話にかかっている………。
この国の行く末を左右するのだから………」
ナレーション
赤黒く揺らめく月は厚い雲に隠れ、日ノ本の夜は更に不気味な静けさに包まれていた。
かつては
今は静まりかえり、
灯りの火が障子越しにぼんやりと揺れ、虫の声さえ
遠のいて竹林を渡る風の音だけが聞こえる。
広間に座すのは、三人の
真ん中には、
その表情には、日ノ本に渦巻く不安と
左に座るのは、穏やかで
民の声を良く聞き、
右には、若き
陰陽師・
神々への"祈り"を司り、日ノ本の霊的な均衡を
保つ役目を
三人の思いはただ一つ。
この国を、神と仏が見放す事のないように……。
そして今夜、二人の
月明かりに
静かに、だが重々しく顔を揃えて待っていた。
「我が国の日ノ本の空が……。
まるで"死を
「この一年で
野犬が群がると聞きます」
「
原因不明の熱病で倒れました………。
神々の怒りか、あるいは……
"忘れられしモノの嘆き"か……」
「……賀茂殿、その後の
病で倒れられた巫女の後継ぎが見つかったとは
話には聞いていたのだが……」
「えぇ……
火を焚き、巫女が
繰り返しました…………。
しかし……神託は降りませなんだ」
「そして巫女は異様な声を上げ、
"月が逆さに
「……やはり、封じの地が……目覚めたか」
「"
だが
誰も近づかぬはず……」
「"封印"とは、記憶から葬る事だが……。
人の心が薄れれば、"異なるモノ"が這い出してくる。
これは"
「
それでも、この有様か………。
神も仏も日ノ本を見放したのか……」
「
そんな今こそ、"最も祈りの力"を
持つ者の手を借りるべき時です」
「嗚呼……
故に他の貴族の反対を押し切り、
私は
仏門の"光"と"水"と、
その"祈り"の力に賭けるほか、道はない」
「…忘れられし
……それがこれ以上日ノ本を
手を打たねばなりません」
「うむ………。
しかして、我ら
最も信頼の置ける者達だ。
我らの身も決して
「確かに……我々が手を取って進むべき道は
いずれも厳しいが……」
「それに
この両名には
手紙が届いていると聞いています。
彼らの動向がいよいよこの国に大きな影響を
及ぼすであろう」
「
それが何を意味するのか、まだ
彼らの導きも頼りにせねばならぬ」
ナレーション
竹林を渡る風が夜の
闇に潜む気配を揺り起こす。
月明かりが
影を踊らせる中、三人の
言葉なき"祈り"を捧げていた。
その沈黙を破るように遠くから廊下を
踏みしめる音が次第に近付く。
やがてそれは"彼等"の到来を告げる前触れとなる。
「……まもなく、両者共に参られるそうだ」
「しかし……改めて思うが……。
まさかあの両僧がこの御時勢に
応じて下さるとは……」
「かの若き
そして、
噂によれば、
「うむ、そのような
我らが
全てを、語り尽くす事だ」
「その通りでございます……。
この日ノ本の"闇"とその"根"を……。
「"
………封じられしあの地の由来を、
今一度、紐解かねばなりませんな。
彼らに"真実"を託す為にも………」
「嗚呼……共に語ろう………。
かの
人々の記憶からも消されたのか……。
我らは
背負っているのだから………」
【第四場:左大臣邸・奥の間(月下、法の声が響く)】
「おぉ!!
どうぞ、お入りくだされ」
ナレーション
重い扉が軋む音を立てて開く。
奥に揺れる灯籠の淡い光が、仄かに二人の影を映す。
畳を踏みしめて部屋の中へと進んだ。
「……遅れて参りました。
ご無礼の段、何卒お許し下さい。
雨に足を取られ、屋敷を探すのに
少々手間取りました」
「お待たせ致し申し訳ない。
風は我らをからかい、
雨が背を押してくれて助かりました。
……少々、道草を喰いましたがこうして
無事に辿り着いた次第にございます」
「フフッ、道草と言えば………。
覚えておりますか、
あの頃、
『この道は近道だ!』と申されて、
結局獣道を
「ほう……。
その道中で出会った猿に
唱え始めた
『動物にも
「……む。
………それは
あの猿はちゃんと手を合わせていたでは
ありませんか」
「ハハハッ!!
「それを申すなら、
道に迷った
薪を
『お坊様、どうか雨を止めて下さい』と」
「フッ……結果、雨は止んだであろう?」
「はぁ……それはただの偶然でしょう」
「いやいや、それもまた"導き"というモノだ」
「空海、貴方って人は……良いですか???
“導き“と偶然を混同なさらぬよう……」
「うんうん。そう、偶然の力は偉大なのだ。
例えば、こうして今この屋敷に辿り着けたのも、
偶然……いや、"運命"というべきか」
「"運命"の力を信じるのは結構ですが、
使い所を誤るとただの強がりになりますよ?」
「ん??何を言う。
使う使わぬという小さな
……それより、
そんな神経質になってどうする、身体に毒だぞ?
ほれ、呼吸が少し荒くなっているではないか。
早く
「確かに
それとこれとは関係ありませんよ……
もうこれではどちらが年上か……けほっごほっ」
「そう
「うっ……貴方がそれを言いますか……」
「ゥオッホン!! ………あ、あのー……
ご
そろそろ本題に入りませぬか……?」
「…………ん?」
「…………え?」
(……し、しまった……!!!
まずい………また脱線してしまった…………!!!)
(………………うん、よし。
これは怒られる前に笑って誤魔化すに限るな)
「失礼致しました、
つい話が逸れてしまいまして……」
「……誠に………申し訳………ございません………。
話がつい………弾んでしまいまして……」
「ワッハッハ!! いえいえ!
これもまた
……さて、それでは………。
いよいよ本題へと参りましょうか……」
【第五場:月読の禍と、朝廷の座】
ナレーション
笑いの
それはまるで何者かに宛てた"
「まずは
お初にお目にかかる。
私は
今宵、
全て
お聞かせ願いたい」
「
師は
"
日々、
「
唐にて修行し、帰朝後は
「ご挨拶、
こちらに
この国の
そして
「陰陽寮を預かる、
やはり……かの"火を宿し、風に乗りて帰る者"とは
尋常ならぬ才と聞いております」
「
真に動かすものは、"祈り"と"心の静けさ"かと」
「
その名、
"慈悲と
この世に並び立つその姿、まさしく今この時に
国が選んだ
「ありがたきお言葉。
人の
本日は皆様と語らえるこの場を、
何よりの光栄と存じます」
「……良き出会いにて始まった事、
これもまた何かの"
さて………
【月を喰らう
"
【第六場:月読の封印、痛みの地】
ナレーション
──────【月が喰われてゆく】
その囁きは
やがて日ノ本の津々浦々へと忍び込んでいった。
空に穿たれた黒き穴が静かに、そして確かに、
月を喰らっていく。
赤黒く滲みながら欠けてゆく月は、不吉の"影"を
大地に落とし、星々の囁きを奪い去った。
日ノ本の空に浮かぶその月は、まるで天の怒りを
映すかのように異様な光を放ち、
人々はこれを"神仏の嘆き“と恐れ続け、
この地に封じられし祈りの
"
二人はそれを追ってこの地に招かれたのだった。
「
存在した古き
名は“
陰陽師や
聖域でしたが……。
ある時より“声“が満ち、
"封印の儀"が行われ、
以後は"禁足地"とされております」
「記録によれば、
女の
術師や神職の者達が命を
だが、今はその記録も断片的。
いかなる“祟り“か、誰が何を封じたのか……。
もはや不明にございます」
「なるほど…“
………
("
"影"を恐れ、その"想いを"捨てた"………。
ただ静かに黙して、
"祈り"だけを置き去りにして……。
……それは
ナレーション
悲しみに
“
人は都合よく忘れる事で"祟り"から逃れたのか。
空海はそれをただの"
その隣で
その顔に宿るのは怒りではない。
深い哀れみと、全てを包もうとする静かな慈悲。
忘れられた"影"にさえ、手を差し伸べる者の眼差し。
だが、彼の胸にもまた、問いがあった。
(……忘れる事で守れるものと、
忘れてはならぬものがある……。
“心こそ
――そう、
だから彼らは、己が心の"闇"すら
見ぬふりをしてきたのかもしれない………)
「………
月と夜の"
災いをも
"神の
賀茂保忠 《かものやすなり》
「まさに……信仰が消え、人の"祈り"が
絶えた時……神すらも変じる。
"祝福"が“祟り“へと裏返るのです」
「近年、日ノ本に広がる不穏な"影"と
その"闇"の連鎖は全てはあの地が
呼び起こしているのではないかと
我らは見立てております。
故に……
及ばぬよう、
“
「その地にはかつて
だが、既に
何故、封じたはずの地から
このように事になったのか………。
我らには計りかねる」
「我らは今までも
既に幾度となく
それでも異変は収まらぬ……」
ナレーション
少しの沈黙の後。
それは、悲しみと"祈り"を包み込むような微笑み。
――過去を背負いながらも、なお歩む者の顔だった。
その声は、静けさの中に確かな意志を
「"封じた"のは、人の"
ならば、それを解くのもまた、"人の手"によるもの。
「……“封じられしモノ“が“邪“とは限りません。
“理解されないままに忘れられた祈り“。
それこそが、あの地に残る“痛み“なのでしょう」
空海 《くうかい》
「“祈り“が届かぬ地であればこそ、
足を運ぶ意味がある。
朽ちた
我ら二人で共にその
「えぇ、
当たらぬ月光の下に、
いずれ芽吹く命があると信じて……」
「オッホン!!
……
今や誰も足を踏み入れませぬ。
人の踏み入れぬ獣道。
昼もなお、暗き
だからこそ、案内には陰陽寮の者をつけます。
ナレーション
とても通る声で迷いなくきっぱりと言葉を放った。
「不要だ」
「不要です」
「………………は???」
「………………………え???」
「
…………今、なんと???」
空海 《くうかい》
「ん???聞こえなかったか???
案内は要りませぬ。と言ったんだ。
心が向かぬ道ならば、それは
風と木々の声に従う方が、"真実"に近づけるのさ」
最澄 《さいちょう》
「私も空海と同じ意見です。
人の記憶よりも深く残る"地の記憶"に
耳を傾けましょう」
「な……何故………そのような事を仰るのだ???」
「
己の内に、ね。
それが"直感"と呼ばれようと、
己の中にこそ、真の"道"は"
例えそれが"闇"に覆われておろうとも。
故に案内は不要だ」
「案内を受ければ、見えぬものがあるのです……。
声無き
思うております。
道に刻まれた足跡よりも、道は人が造るもの。
ならば、
また、誰かの"痛み"に寄り添えば見えるはず。
人々の記憶に刻まれた"想い"の方が、
「さ、されど、あの
多くの者が近づこうとも、戻らぬ事も……!」
「ハハハッ、我らは"近づく"のではない。
"
何が今も
「私達はその呻きに耳を澄ませたいのです。
"祈り"が届かぬのなら、それは"祈りのカタチ"が
歪んでいたのでしょう。
ならば今一度、"真の祈り"を。
我が身をもって捧げましょう」
「そっ、それは理想論だ!!!!
貴方々はまだ"アレ"の恐ろしさを
知らぬから言えるのだ!!!!
本当にあの地に"眠るモノ"を"想い"などで
越えられると思うのか?!?!
あの地をずっと
幾度も………幾度も……。
だが
あれはただの"祟り"などと言う簡単な言葉では
表せないでは"
誰かの、何かの………
ずっと、あの奥で蠢く"絶望"だ!!!!」
「
口を聞いてはなりませぬ!
我らはこの方々に願いを託す立場、
幾ら
恐れや怒りに身を任せては、"祈り"は届かぬ……
違いますか、陰陽師殿!!」
「しかし!!!
我らと共に"アレ"を見たのならば!!!」
「君らは苦しいんだね………。
自分達の"無力"さと"正しさ"が………………。
………あのさ……良いかい、
君達は"理想に
自分達の"正しい理想のに
理想というのは、
"理想に
想いは形を変える。
念じ、描けば、言霊となる。
「
心を照らすのですね………。
では
理想を
始まります。
天台の教えは“
それは他に"光"を求めるのではなく、
己が闇を見つめ、そこにこそ
理想を掲げる事は
ですが、それを
他を責めず、己を掘り下げ、同じ"痛み"を
歩む"覚悟"が要る。
それが“慈悲”という"
目指す“
「……ありがとう、
我らもかつて、"祈った"のだ………。
あの地に集いし者達と共に……。
だが……その"祈り"は届かなんだ……」
「……………"祈り"が届かぬ事もあります。
ですがそれは"無意味"なのではないのです。
届かぬ"痛み"を知るからこそ、
人は再び手を合わせる事が出来るのです」
「それでも
あの地の"声"を、正面から聞く事を………。
霊を
覗く事になる……故に逃げた…………。
逃げ出したんだ!!!」
「ならばまた聞けば良い、今こそ。
その"絶望"も、"嘆き"も、"怒り"も全て。」
「そ、そんな事……常人に、
"人の身"に出来るものか!!!!
我々は
己を捨て、"道"を断ち、記録を捨て、
想いを焼き尽くした! !!
見て見ぬふりをしたくてしたのではない……
我らは……!我らはただ……!!」
「……貴方々は、
日ノ本を守る為に祈った。
今度はその“全てに忘れられたモノ達"の為に
祈っても罰は当たらぬでしょう」
「………我らは……私は思い出す事を……。
恐れたのだ……恐れてしまったのだ………」
ナレーション
空海は冷徹な鋭さが混じった瞳で三人を見つめた。
まるで彼らの内に眠る怒りと苦悩と
一気に溢れ出すかのように相手を見据えて。
「ならば、なおの事だ。
思い出せ、己の“過ち“を。その“痛み“を。
人はそれを“
………"痛み“から目を背けぬ者だけが、
“祈りの意味“を語れるんだ。
だからさ………もし、その荷物が苦しいなら
「はい、私も
貴方々に救いの"道"を照らす為に、
私達を頼って託して下さい。
私達は今こそ"祈り"の"原点"に
戻る時なのかもしれません。
"託す"と言うのは己の責を放す事では
無いのですから。
……願わくは、闇に灯る
「………"祈り"とは、"カタチ"に
魂を通じて届くもの。
式神や札では届かぬところがあると言う事か………。
どうか………
災いを越えて神仏に届かん事を……」
【第七場:封じられし祈り、月下にて揺らぐ】
ナレーション
張りつめた空気の中、外の風が遠くを
何処からともなく鈴の音が微かに響く。
場を包んでいた沈黙に、もはや言葉は必要なかった。
三人の
ゆるやかな足取りでその場を後にした。
二人の背が闇に溶けるまで誰一人、
声を発する者はいなかった。
広間には三人の
障子越しに射し込む赤い月光が薄く、寂しく
その姿を照らしている。
胸の内にそれぞれの思いを抱え、時間だけが
静かに過ぎてゆく。
ふと月を見上げていた
重い口を開いた。
「……あの地に、再び足を踏み入れる者が
現れるとは思わなんだ。
………しかし………。
私は
だが………我らが背負うべきものまで……
背負わせて良いのだろうか?
我らはあの地の"祈り"を絶やしたのか、
それとも…忘れ続けようとしたのか」
「
ナレーション
時は過ぎ、言の葉は朽ち、声なき記憶となった。
かつての"祈り"も"呪い"も全てを呑みこんだ
あの
誰も"真実"を語らなかった。
ただ、"封じられたまま"。
ただ、"見ぬふりをしたまま"。
"闇"は静かに息を潜めていた。
「……我らは、ただ"封じた”だけだった。
私もまた逃げ出して、見ないようにした……
人々は
誰も口にせぬようになった。
年月と共に、記録さえも消えていった。
だが、それで良かったのか……?」
「私は、“
だが神を
整えるだけでは足りなかった………。
あれは神仏すらも
だが、“影“はやがて“祟り“へと転じる。
我らはその“影“をずっと“無かった事“に
し続けてきたのです……。
あの
私はそれを見捨てた事になるのでしょう……」
ナレーション
それはまるで杭のように心を
彼の目は遠く、過ぎし日の"痛み"を追い、
見捨てられた"影"に心を寄せる。
"影"を封じる事の恐ろしさを今更のように痛感する。
だが、その責を果たす事で得た
"救い"はあったのだろうか?
「何故見捨てたのか……」
その問いが胸中で絡みつき、消えることなく
心を締めつけた。
賀茂保成(かものやすなり)
「……式を立て、方角を封じ、結界を張った。
だが、何の為に……?誰の為に……?
しかしそれは
ナレーション
まるで自分達を
その言葉で、皆一同に静まり返る。
「守るべきは、何だったのか?」
「己は正しかったのか?」
崩れ落ちる正義の後悔が、心に走る冷徹な痛みが、
「"忘れる事は
我らはその違いを、
見失っていたのかもしれませぬ………」
「………夜は長い…………。
────されど、"祈り"が灯されれば……
きっと、月もまた
「……"託すというのは、己の責を放す事ではない"。
今ようやく……その意味が分かった気がする……」
「えぇ……そうですね……
ナレーション
三人の背に、月の光がそっと滲む。
それはまるで交わされぬ"想い"を静かに照らす、
別れの
障子が微かに揺れ、風の筋がすり抜けてゆく。
遠くに微かな鈴の音が鳴り響く。
それは遥か
忘れられた
"呼び声"のように空気を震わせた。
風が過ぎし時の"記憶"を撫でるように、
そっと通り過ぎてゆく。
空に浮かぶ月は赤黒く滲みながら、
静かに欠けてゆく。
その"影"は地に長く伸び、
やがて世界を染めてゆくように見えた。
そして今、闇に沈む“
音もなく始まろうとしていた。
人の"祈り"と、神仏の
"交わらぬモノ"達の"願い"が
密やかに、確かに、時の底から動き始めていた。
「……風が
あの地より
ナレーション
二人は、まるで全てを悟ったかのように
静かに微笑み合いながら、夜空に滲む赤黒い月を
見上げていた。
それは"
─――"祈り"とも"呪い"ともつかぬその月の下で、
ただ静かに時は流れてゆく。
「嗚呼、
君にも聴こえているんだな………あの声が…………。
ならば共に、一緒に行こう。
君は
共に闇を照らそう。
我らが願いは一つ。
“一切衆生
その“証明“の為に…………」
ナレーション
──こうして始まるのは"祈り"と"
平安の夜を照らすのは月の"光"と"闇"の"記憶"。
さぁ、この世に神仏の"
"闇"を
『月照らす火の記憶 ― 神々の法、慈悲の火―』
第一章 『
『月照らす火の記憶 ―― 神々の法、慈悲の火 ――』 ぐるこ☆さみん @alice996602
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。『月照らす火の記憶 ―― 神々の法、慈悲の火 ――』の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます