第2話 忘れの砂

砂漠は容赦ない太陽の下で燃え上がり、足を踏み出すたびに試練となった。カインは歩き続けた。方向というよりは、奇妙な感覚に導かれるように――まるで見えない糸が彼を前に引っ張っているかのように。


奴隷時代に聞いた物語の断片が頭に浮かんできた。神々の支配する都市、法も神も良心も通じない混沌の地――そんな場所についての囁き。これらの話はいつも蜃気楼のように感じられた。しかし今、彼自身がその中を歩いているのだった。


砂ぼこりが旋回し、地平線からキャラバンが現れた。重い荷車がきしむ音を立て、砂の雲を舞い上げながら、ゆっくりと、規則正しく進んでいく。まるで巨人の影のようだった。キャラバンの人々はカインを警戒し、興味深げに見つめていた。目を細め、鋭い視線で。質問はない。ただし、評価をしているようだった。


その中の一人が、肩幅の広い巨人で、日焼けした肌と夜のように黒い瞳を持っていた。彼は手を上げ、キャラバンは止まった。


彼は荷車から飛び降りた――重い足取りで砂を巻き上げながら近づいてきた。


「迷子か?」――声はかすれ、軽い笑いを含んでいた。「こんな場所で一人では生き残れない。剣を持っているから、物乞いじゃなさそうだな。戦士か。俺たちにはそういうのが必要だ。どこに行く?」


「東だ。」――カインは短く答えた。


「東か・・・」――男はうなずいた。「乗れ。」


カインは黙って荷車に乗り込んだ。車輪が再びきしみ、キャラバンは進み続け、砂丘の間を慎重に進んでいった。


地平線の向こうに夜の兆しが見え始めた時、休憩を取ることが決まった。砂の上に焚き火の火が揺れだした。


商人たちは円になって座り、話をしていた。混沌の地について話していた――誰にも属さない地、神々さえ慎重に足を踏み入れる場所。カインのそばには、ひげの生えた商人が座った。彼は耳が裂けたようで、酒を飲みながら、鼻で笑って言った:


「この砂の中で誰も信じることはできない。自分すら。」


カインは答えなかった。彼の視線は何度も、離れたところにある荷車に滑った。その周りには武装した人々がいた。彼らはほとんど話さず、ただ目を合わせていた。カインは何が彼を不安にさせるのか分からなかったが、その中に何かが・・・不正義のようなものを感じた。


夜がキャンプを銀色の光で覆った。月は砂丘の上に冷たい眼差しのように浮かんでいた。カインはマントにくるまり、焚き火のそばに横たわった。眠りはすぐに訪れ、断片的で、壊れたイメージや理解できない他人の声が混じった夢だった。


「起きろ。」


声が静寂を切り裂いた。刃のように。


その声は同じだった。「火を見つけろ・・・」


冷気が背骨を走った。


カインは目を大きく開けた。


目の前には武器を持った人々が立っていた。キャラバンの者たちだ。リーダーは少し前に立って、にやりと笑っていた。


「見知らぬ者たちの中で寝るのは、この土地では良い考えじゃない。」――彼は気だるげに言った。まるで天気について話しているかのように。


カインは動かなかった。黙って彼らを見つめていた。その顔は岩のように硬く、恐怖も怒りも、興味もなかった。


「言葉を失ったのか?」――リーダーは笑った。「フードを取れ。顔を見せろ。商品を評価しよう。美しければ、女神カリシの町に送る。醜ければ、バスティオンの鉱山だ。そこでは誰でも取られる。」


カインの目が冷たい火のように輝いた。


「奴隷商人か・・・」――彼の声は低く、金属的な響きを持っていた。「そうか。」


「奴隷商人、密輸業者、切り裂き屋・・・」――リーダーは肩をすくめた。「金があれば、何にでもなれる。」


彼は言い終わることなく、頭が体から切り離され、空中で弧を描きながら砂に落ちた。鈍い音がした。全員が動きを止めた。


カインは彼らの背後に立っていた。


その顔には、抑えられた怒りが氷のように込められていた。手は剣の柄をしっかりと握りしめていた。関節が今にも裂けそうだった。砕けた刃は月の光の中で黒く染まって、まるで現実の中の穴のように見えた。


リーダーの血が砂に飛び散り、すぐに熱で乾いた。


焚き火の音がぱちぱちと鳴った。キャラバンは凍りついたように動かなくなった。空気には恐怖が漂っていた。それは煙のように重く、息苦しかった。


「誰がまだ残っている?」――カインの声は低かった。しかしその静寂の中で、雷のように響いた。


誰も動かなかった。ひとりの番兵が足を踏み出そうとしたが、震えながら止まった。


カインはゆっくりと剣を下ろした。重く、ゆっくりと。まだそれを握っていた――まるでそれが彼を崩壊から守っているかのように。


彼はその中に立っていた。裁判官のように。処刑人のように。そして、何も失うものがない死者のように。


「こいつは・・・」――カインは首なしの体を見ながら呟いた。「他人を売っていたのは、自分が売られていたからだ。パンのために。命のために。売られて、腐り果てた。」


怒りが胸の中で爆発した。


「俺たちは30人だ!」――誰かが叫んだ。「サリムのために!」


キャラバンの者たちが前に突進してきた。


カインは動かずに立っていた。


「お前たちは生きる資格がない。」――彼は囁いた。


砂漠が鋼のように爆発した。

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