一段落…?

朝から、男二人の談笑が聞こえる。

 

「にいちゃん、飯くらいひとりで食えるよ」

「そう言いながら零してんぞ〜、頼りなよ」

「今のは偶然だし…もう、邪魔だってば」


「……」

結果的にわたしの行動でタナトス、ヒュプノス、オネイロスたちの兄弟間の関係が良好になってまた話せるようになったことをこの前タナトスにいたく感謝されて、嬉しかったのは記憶に新しい。


彼らが楽しそうなのは嬉しい。嬉しいのだが――


「イチャつきすぎじゃないですかね、兄弟で」

「…あいつらは前からああだったらしいぞ」

「マジですか、ツッコミ不在だ」


ただの食事介助が女性向けコンテンツのような距離感で行われていて、段々と何を見せられているんだという気分になってくる。


「……シオンが見てるのにこんな子供みたいなとこ見せたくないんだけど、おれはあの子より歳上だし」

「夢境さん?その文脈だとどうやってもそこの白い人に当て馬にされるんですけどわたし」

「いいんだよ〜。食事介助これはお前が地上でちゃんと動けない今のうちだけだもん。ボクとお兄ちゃんくらいしかオネイロスの面倒は見きれないからね〜、悔しいかガキ。やーい」

「勝手に肉親と比較の対象にされてるかわいそうな人間の身にもなってくださいよ」


目を伏せて申し訳なさそうな顔をするタナトス。だがその表情は――口角がちょっと緩んでいる。

「…すまない、うちの弟たちが」

「死神さんも心なしか嬉しそうですね」

「……そんなことはない」




そんな平穏な日常を過ごしながらも、レーテーの対策会議については大分形が整ってきた気がしている。しているだけかもしれない。


「おれの記憶を振り返る中でわかったこと、レーテーの眷属は黄色い魚みたいな何かだ。でも、必要に応じて姿を別のものに変えることだってある。おれの時はリスだったよね。他の動物になってこっちを見ているかもしれない」


「…あのひと、レーテーさんは水場を好んで出てきている気がします。夢境さんのときは川近くで、陸で人魚が出たみたいなあの記事もその多くは大雨だったらしいし、…わたしの両親のときも、叔父さんのときもひどい雨だった。雨の続く時や水場の近くは要注意かもしれないです」

 

「…睡魔さん情報。あいつも、追憶の蔵書庫と似たことができるんだって。目を合わせた相手の内側に干渉することができる、ってやつ。あの小さい姿で人間に近づいてもまず警戒されないだろうし…どう接触しようね。あー、ムカつく。やりづらい…」


「あのひとは…何故“御影堂”に固執しているのか。ただ単に、今世で追憶の蔵書庫の役割を任されたお前を潰して好き勝手したいだけなのか。それだけだとしたら、今までのやり方は悪意が行き過ぎてやいないか。…御影堂の生家の一階が、山の中なのに水害に遭ったように荒れているのはもしかすると…」



「「「「……」」」」


「休憩!」

立ち向かうべき相手の手の内の不透明さに、作戦会議を中断しようと真っ先に声を発したのはわたしだった。



今日のおやつは、お皿の底に食パンの小さく四角に切ったやつを敷き詰めて電子レンジで作るフレンチトースト。


「糖分、効くわ〜…。固形のラムネ欲しい…。」

「作業する人が常備してるやつだ、やめときなよにいちゃん」

「ブドウ糖の方が効率的じゃないのか、味があった方が良いならラムネがいいかもしれないが」

「死神さんはもうちょっと普段からいいもの食べましょうね」


…大丈夫。一度行き詰まっても、一度ミスをしてもこうやって今取り返せている。


もちろん、その“大丈夫”もずっとじゃない。

その内に形を整えて、土台を作る。作らなきゃ。


「……」

「…いたっ。デコピンやめてください睡魔さん」

「お前みたいなガキがそんな顔してんじゃねーよ。ボク達で背負ってんだろ、それは。」

「…はは、そうですね。頼りにしてます」

「ムカつくからもっかいデコピンすんね」

「えっ」

 

その言葉通りビシッと額に強めの衝撃を食らう。

痛みに頭を抱えるわたしに、あのひとたち。


少しずつ、足取りは厄災に近づいていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る