『ウチシュバ』
鳩鳥九
『ウチシュバ』
回転ぐるりと頭を回してでんぐり返しと言う物をする。
川野凜太郎は幼稚園の遊具で遊ぶということに飽きて
光の巨人ごっこをすることにした。
ジュワッチではなくシュバと腕を交差させ
壁の空気に向かって脳内で光線を放つのだ。
普段はお昼休みの時間は寝ている凜太郎であったが
この時ばかりは気分が盛り上がって高揚して
大怪獣サボテンジムキョクチョウを一網打尽にせしめた。
「勝ったぞ」「勝った勝った」「光の巨人が勝ったんだ」
凜太郎は閑静な住宅地に響き渡る歓声を一身に浴び
慈悲の星LM110星雲に向けて大きく羽ばたいていくのであった。
頭の中のジオラマではそれがイメージできなかったので
幼稚園の横スライドの扉の向こうに消えていったのである。
「たんぽぽ組」の担当先生である「なおみ先生」は
いつまで経っても落ち着きのない凜太郎が心配だった。
だからお喋りをしたのだ。「今日も勝ったの? 」と
「うん」と凜太郎はガッツポーズをする。
けれど榊原第三幼稚園の中ではテレビ番組の話はしてはいけないのだ。
「ヒーローごっこ」と言ってもいいけど、商標登録された固有名詞に
先生が過剰に喜んで反応するということはよくないことだから
凜太郎のノリになおみ先生は途中までしか反応できなかったのである。
「また今度ね」「うんー」
折り紙とプラスチックのアスレチック
ぴょんぴょん跳ねているだけで終わってしまうような学園会
お誕生日おめでとうとかかれた壁紙の装飾
もう3月だというのに2月のカレンダー
時折疲れを見せるなおみ先生の横顔に
気が付いたのは同じクラスの女児だけだった。
一度ついてしまったワッペンの皺を
もう幼稚園児は二度と綺麗にすることができないのだ。
それを気が付かない男の子がぞろぞろと飛んだり跳ねたり
壁に頭をぶつけて鼻水を垂らしたりしている。
今日も親の迎えがずっと遅くなる。夕方。
ウチシュバ。シュバババ
リコーダーって大人っぽいな
お父さんの仕事ってボクならもっと上手にできるのになぁ
サンタクロースってパイナップルを食べ残せずに食べられるのかなぁ
あ、カラスだ。めっちゃおるやんなぁ
光の巨人は3分で悪いやつを倒すけど
3分経ったら、また退屈な幼稚園に戻るんだなぁ
夕飯はカレーだったら、いいなぁ
去年の夏。キャンプで無くしたサンダルが見つかると、いいなぁ
おしまい
『ウチシュバ』 鳩鳥九 @hattotorikku
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