第4話 茶をシバく

「教祖様が入れてくださったお茶はやはり格別でございます」


 リビングでお手本のような正座をしながら麦茶を飲む女。そう、アルだ。


 違うんだ、勘違いしないでくれ。

 断じて、断じて俺はアルが美人だから、とか胸が大きいから、とかで家にあげた訳じゃないんだ。


 俺がチェーンを外した途端に、それはもう押し売り業者のようにドアの間に足を挟み、「お邪魔します」って上がり込んできたんだ。

 で、上がられたらもう出来ることないから大人しくお茶出したって訳。


「はぁ…茶のんだら帰ってくれよ」


 俺はスレッドに書き込みながらアルに言う。


「教祖様。あ、これ聖水です。あと、こちらが神典の写しです。これ、読んでください。あと、これが拠点の地図です」


「ちょ、おい、勝手に荷物出すなって!?」


 しかも一つ一つがデカい。何リットルあるんだよその水。

 地図に至っては布だし。地図って布で作るもんだったっけ?


「……で?お前の言う“教祖様”ってのは、具体的に何する係なの?」


 俺は麦茶を啜りながら、覚悟を決めて尋ねた。


 もはや逃げられないと悟ったからだ。

 なら聞くだけ聞いて、いざとなったら録音データを持って警察だ。


「“第三の光”は、世界を導く存在です。全ての信者に救いをもたらし、異能を統べ、七つの試練を乗り越えて神位に昇華するのです」


「神位ってなんだよ」


「神のような存在です」


「説明になってねえ!!」


「すみません、教祖様の前で愚かな比喩をしてしまいました。舌を噛んで詫び――」


「やめろやめろやめろ、落ち着け、怖い怖い怖い!!」


 アルは本気で噛みそうだった。前世でもヤベーことしてたタイプだろコイツ。


「じゃあさ、教祖になるには、なんか儀式でもあるのか?」


「ございます」


 即答で、彼女はローブの内側から分厚い書類の束を取り出す。

 手書き。すべて手書き。しかも万年筆で。宗教らしさ全開。


「……これ、読むの?全部?」


「全部読まなくても、署名していただければ“神意”が通ります」


「だからその“神意”ってなんなんだよ……」


 アルは俺の目をじっと見つめた。


「“あなたの言葉が、真実になる”。それが、教祖様に授けられる力です」


「…………」


 その一言で、麦茶が喉につかえた。


 バレた?俺の異能が?まさか、個人情報だぞ?


「…お前、もしかして俺の異能しってる?」


 冷や汗ダラダラで聞く。基本的に命よりも価値が重い異能の情報がバレている可能性があるのだ。


「もちろんです」


 即答。心臓が跳ねる。


「予言に、すべて記されておりました。“聖なる言葉を語る者”“その声は群衆を導く”と」


 ……あ、なるほど。予言ベースか。

 バレてるわけじゃないのか。

 でもこの感じ、マジで勘違いしてるな……。


「その……“聖なる言葉”ってのは、たとえばどんな?」


「教祖様が“これは正しい”と言えば、それは正しいのです。“これは美しい”と仰れば、それは美になります。“これは神だ”と宣言なされば、それは神です」


「それ、ただの詭弁じゃね?」


「いえ、それが“教祖様の力”なのです」


 真顔で返された。冗談も通じねぇ。

 アルは、絶対に俺の“能力の本質”は知らない。

 つまり───




 ハッタリで騙せるってことだ。

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