幻想と怪奇の一幕。げに恐ろしきは、妄執と呪い。
- ★★★ Excellent!!!
越後国の主・永尾為景のもとに届けられたのは、先の関東管領・上杉顕定の首。長い戦いの末にやっと討ち果たした敵の首を前に、しかし為景は不意にある疑問にとらわれ……
冒頭の語りからすっと物語に引き込まれます。物語の舞台もあいまって、まるで能か狂言でも鑑賞しているような不思議な感覚……そしてたちまち怪奇幻想の世界に入り込む次第。
短いお話の中で描かれるのは、関東管領の浅ましい有り様。誰ひとり信じられるものがなく、パラノイアじみた陰謀を張り巡らせ、それゆえに破滅し、それでもなお妄執から逃れられない……その姿には鬼気迫るものがあります。それはまさに権力という魔物のもたらす悲惨さであって、関東管領をついに討ち果たした永尾為景もまた、その悲惨さから逃れられてないのかもしれない。そういう意味で、二の舞というテーマの重さがしみてきます。
古典の趣を感じさせる語り口もあいまって、優れた出来映えの歴史伝奇でした。おすすめです。