【悪役貴族と魔女見習い】―銀髪美少女メイドを孕ませる!―

BIBI

一章 転生したら鬱ゲーの悪役貴族だった……!

第1話


 気が付けば、いつも異世界転生を妄想していた。


 恐ろしい敵から美少女を守る騎士とか。


 圧倒的な実力を持つのに無自覚で、周囲をドン引きさせる展開とか。


 そういう規格外の力を楽に得て、楽しく一生を過ごしたい……。


 ずっと……、そう願って過ごしていた。だけど……、実際に異世界転生したら、興味が失せた。


 恋愛、名誉、人助けすら、どうでもいい。


 ファンタジーな世界で求めるには、あまりに平凡過ぎる欲望だ。


 もっと……、力が欲しい。


 もっと……、圧倒的な強者を――殺したい。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 空気の冷たい夜だった。


 月明かりが強く、真っ暗というほどでもない。


 昨夜の雨で地面は湿っており、生物や【モンスター】の鳴き声が響いている。どこか不気味な雰囲気を漂わせる森の中。


 金髪の少年――レオンは、草や落ち葉を踏みしめながら歩く。


 成長途中の彼は、背丈が中背よりも頭一つ分くらい低い。手に持った剣は、小柄な彼には不格好だ。しかし指差して馬鹿にできるほどの可愛げ気は、そこにはなかった。


 彼の黒い軍服に薄らと見えるシミは、血の跡。


 剣にも真っ赤な血が僅かに付着している。


 そして、彼の数メートル背後には死体が転がっていた。


 草木に囲まれた古い教会。今は賊の拠点となり、当然手入れはされていない。レオンがドアノブを引くと、金属が擦れる音が内に響く。


「おい……。マジかよ。こんな雑魚にやられたのかよ、俺の部下達は」


 中から出てきた大柄な男が、剣を抜いて近づく。


「…………」


 レオンは答えず、魔力を纏って剣を構えた。


「そんな脆弱な魔力じゃ、俺に傷一つ――」


 小馬鹿にした様に、男が言い掛けた時だ。


 レオンの放つ鋭い突きが、彼の腹部を貫く。「ぐはァ……!」と口から血を吐き、あっさりと男は倒された。


 まだ完璧に死んだわけではない。薄らと意識は残っている。


「この程度の【魔力隠蔽】すら見破れんとは……。有名な【闇ギルド】だから少し期待していたんだがな……」


 魔術と違い、纏っているだけの魔力なら気配を抑えられる。しかしレオンの魔力制御は卓越していた。彼の魔力隠蔽を、そこらの賊が看破できる訳もない。


「残念だ。次の標的は多少マシだといいんだが……」


 レオンは剣を鞘に収める。彼の声を聞きながら、男の意識はプツリと途切れる。


「相変わらず容赦のない奴だ」


 教会に入り、小柄で金髪の女――レジーナが少し呆れた声を出す。


「人の事を言えた義理じゃないが、随分と悪人面だな……」


 レジーナの背丈は、レオンよりも低い。軍服姿からも分かるほど豊満な胸だが、骨格自体がかなり華奢だ。


 しかし声が低い所為や眠たげな半眼故か、どこか貫禄が感じられる。


「血ってのは恐ろしいよ。家族が見事に悪人面ばかりだなんて……」


 楽しそうに戦う姿を見られていたのだろうと察し、レオンは照れたように頬を掻く。


「同感だな……。特にお前の場合は性格を含めてカーヴェルの血が濃い」


 教会に並ぶ椅子や床は手入れされていない。だから座る素振りすらせず、レジーナはレオンに向かい合って話していた。


「レイラは母親似で戦いを好まないが、お前は私同様戦いを心から楽しんでいる。偶に私の実子なんじゃないかと、疑ってしまうくらいだ」


 少し図々しいと思いながらも、これがレジーナの本音だった。


「半年前まで、お前は怠惰でクズだった。何故唐突に心を入れ替えたのか……。そんな事に興味はない」


 レジーナは目を伏せ、「だが――」と区切る。そして「レイラとイーリスは違うだろうな。レイラは不寛容。イーリスは大の男嫌い。何より――お前の常軌を逸した急成長を恐れている」と続けた。


 レイラは毛嫌いしているだけでないと、彼女は見抜いていた。


「お前は自覚がないだろうが有り得ないんだ、たった半年で【元帥】に並ぶなんて事は」


 騎士団の頂点。それが元帥。レジーナのその一人である。その彼女は断言する、レオンの成長は本来なら有り得ないのだと。


「それに剣技、体術、魔術、既にお前は上級の技を会得している」


 殆どの騎士は多彩な技を習得していない。レジーナとイーリスは例外だが、殆どの元帥ですら技は偏っている。


「このまま成長すれば……、現代最強たる私を超える日も、そう遠くない。私としては嬉しい限りだが、レイラとイーリスは危機感を覚えている」


 冷酷なレジーナだが、人の気持ちが分からない訳ではない。寧ろ人の気持ちを察するのは得意だ、ただ無視するだけで。


「近日中、暗殺されるかもな……」


 不敵に笑う。冗談みたいな軽い態度だが、レジーナの本音だった。


「…………。どうにかして止められない? まだ死にたくないんだけど……」


 カチコチに固まったレオンの表情。目は虚ろで、恐怖と呆れが半々。


「難しい話だな……。レイラもイーリスも私にとっては家族だ。お前が暗殺されても大した罰は与えられん」


 腕組みし、レジーナは悩んでいる態度。別に意地悪を言いたいわけではない。しかし暗殺を止める具体的な案がないもの事実だった。


「そこは罰を与えるべきじゃない……? 甘やかすだけが愛情じゃないよ」


 レオンとしては看過できない話だ。


「私がクズな子に厳しい親だったら、今頃お前を殺していただろうな……」


 レジーナはレオンの悪行を見逃してきた。メイドの顔を切り裂いたこともあったが、大して罰を与えなかった。


 つまり彼女の甘さで救われているのは、レオンの方という訳だ。


「身内に優しい親で良かった……」


 異世界転生した話はするつもりはない。だからレオンは知らない過去の蛮行も、否定せずに会話している。


「一つ――妙案がある」


 人差し指を立て、レジーナは邪悪な笑みを浮かべて提案した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 【紅の魔女と騎士見習い】という鬱ゲーに、ハッピーエンドは存在しない。


 そんな鬱ゲーとよく似た世界に転生した時点で、レオンは理不尽に呆気なく死ぬことは覚悟していた。


 だが、まさか強くなるだけで命を狙われてしまうとは想定外。流石に理不尽だと彼は憤慨している。


 鍛えないと将来、魔族に殺されてしまうシナリオ。しかし鍛えた結果、身内に命を狙われる事となった。


 流石に理不尽が過ぎるだろうと、レオンは眉を顰めた。


 しかも理由が安直なのだ。レイラは怖いという理由で兄の死を望む。これは、まだレオンとしても理解の範囲内。


 ゲームのレオンは性格クソなのだ。そんな奴が自分を超える才能を持ち、急激に強くなるなんて恐ろしいに決まっている。


 それに比べてイーリスは違う。彼女の場合は、単なる男嫌いがレオンを殺したい理由なのだ。これには流石に理不尽過ぎると、彼は頭を抱える。


 その上、イーリスは強い。現代最強と名高いレジーナに次ぐ実力者。帝国騎士団元帥第二席。つまり少し機嫌を損ねれば、レオンですら瞬殺だ。


 これはレオンが弱いという話ではない。レオンは強い。騎士団の頂点と言われる元帥。それに並ぶ実力を、ゲーム知識を駆使して身に付けた。


 だが、イーリスには歯が立たない。そのくらい、イーリスとレジーナは騎士団の中で突出した実力を持つ。


 正直レオンとしても出来る限り、イーリスとは関わりたくない。


 それなのに――。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 どうしてこうなったと、レオンは内心呆れていた。


 レジーナの寝室。ベッドで裸になり、仰向けに寝ている彼。そこに肩まで伸ばした銀髪の女――イーリスがメイド服姿で跨っていた。


「お前はまだ知らんだろうが、同等の番と交わることで子に魂を遺伝できるんだ」


 黒い上下の下着姿。レジーナは眠たげな半眼で邪悪な笑みを浮かべている。


 レオンは「魂の遺伝?」と疑問を投げかけ、「そうだ。言うまでもなくイーリスと私は優れた魂を持っている。つまり私達と同等のオスがいなかったんだ」と彼女は意味深な表情で説明を始める。


「まさか……」


 レオンは察し、眉を僅かに顰めた。


「この半年で理解した、お前は私達と同等の魂を持っていると。死んだ妹には申し訳ないが……、お前を種馬として利用させて貰う」


 どうやらレジーナは暗殺を食い止める気がないらしい。それよりも暗殺されてた時の場合に備えて、種を早めに絞ろうとしていた。


「イーリス。何か言ってやりなよ」


 無駄だと知りながらも、一応反応を伺う。「男が嫌いなんだろう? こんな理不尽、受け入れないよね……?」レオンはイーリスに視線を向けた。


「イーリスだってカーヴェル家の一人だ。つまり番を選ぶ権利は長の私が握っている」


 レジーナが呆れた様に「まぁ子を成す自体はイーリスも望むと所だろう」と続け、イーリスの背後に回る。


「何故私が、こんな奴と……!」


 殺意が込められた視線。イーリスはレオンを蔑んで、見下していた。


「そう言うな。兄妹というだけあって、レイラによく似た容姿だ。醜い男に抱かれるようりは、かなりマシだろう?」


 背後から服越しにレジーナがイーリスの胸を揉む。


「…………ッ!」


 イーリスは次第に呼吸が荒くなり、興奮を隠しきれなくなっていた。ゲーム通り彼女はレズであり、レジーナが好きらしい。


「…………」


 まるでメスに食われるカマキリの気分だった。レオンは諦めて、天井を見つめる。


 レジーナはゲーム通り、あまり人の気持ちを考えない。というか目的の為なら、あまり手段を選ばない性格だ。


 それは身内でさえ、例外とはならない。男嫌いのイーリスにすら、平気で子作りを要求する。


 義理堅いイーリスの気持ちを利用しても、何ら罪悪感は持たない。全てはカーヴェル家の為。レジーナは、ただカーヴェル家を強くしようと考えていた。


 それを察したレオンは、イーリスに同情する。このままだと彼女のトラウマ決定だと、彼は考える。


 レオンとしても、無駄に恨まれたくない。だからイーリスにとって楽しい思い出にしてあげようと、【性技スキル】を発動した。


「では――始めようか」


 レジーナが邪悪に笑う。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ゲームにおいてレジーナとイーリスは悪役貴族だった。


 魔力至上主義。当然の様に優生思想を持ち、魔力の劣った平民をゴミ扱いする。独善的で逆らう者は容赦なく殺す。


 逆に強くて従順なら、たとえ【魔族】だろうと受け入れる。


 そんな彼女達は当然、貴族や騎士団の中で厄介者扱いされていた。


 レジーナ達が許されている理由は、敵対する全てを殺したからに過ぎない。貴族も騎士団も賊もモンスターも、敵対した相手は皆殺し。


 特にイーリスは大の男嫌いで、騎士団以外の男なら安易に殺す。レオンにとって魔族なんかより何倍も恐ろしい相手だ。


 本音を言えばできる限り関わりたくない。


「――――ッ!」


 イーリスは破瓜の痛みに耐えながら、ゆっくりと腰を下ろした。


 レオンは歯噛みし、「…………ッ!」強烈な快感に耐える。


「チッ……!」


 イーリスは嫌そうな顔を濃くしながら、自身の腹部を触る。嫌を通り越して殺意すら込められた眼差し。


 彼女は本気でレオンを嫌っており、今も殺したい気持ちを我慢している。


 対するレオンは快感で上手く頭が回らない。イーリスに殺意を向けられているが、それどころじゃない。

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