『葡萄真砂は呪われている』/『葡萄鹿の子は祝福されている』

スナコ

『葡萄真砂は呪われている』/『葡萄鹿の子は祝福されている』

もし、真砂の髪が黒くなくて。鹿の子の目が紫じゃなくて。二人の名字が同じじゃなかったら。あの子の気持ちも、この想いも。何も悩む必要なく受け入れて、普通に愛し合えたはずなのに。

お揃いが好きで、分け合うのが好きで、似ている事が好きだった。お揃いは仲良しの証、分け合うのは仲良くなるための手段で、共通点のある相手には心を開きやすくなるから。全ては、愛してもらうため、に。

だから。兄弟の証であり、血の繋がりを示す、全員共通の黒い髪と紫の目が、好きだった。大事だった。これからも一生染めるなんて事はしないだろうし、ガキの頃はバリカンでボウズにさせられるのが、真砂一人だけ仲間外れになってしまうのが。心から悲しくて仕方なくて、そりゃあぎゃーぎゃー泣いたもんだった。


なのに。今更違う色ならよかった、なんて。

あんなにも大事だったこの色を、今では疎んで、どうしようもなく厭わしいものに感じてしまっている。

「お揃い」が、「繋がり」が。鎖のように心を縛って、足下に絡みついて、真砂を一歩も動けなくしている。

嗚呼、どうして。真砂達は「同じ」に、生まれてしまったんだろう。


『葡萄真砂は呪われている』



真砂にとって、血の繋がりは呪いの鎖




黒い髪。紫の目。分け合った、赤い血。そして何より、おんなじ名字!

嗚呼こんなにも、神様に祝福された出会いがありましょうか?ねぇ!


一歩外に出て周りを見回せば、街は色で溢れている。

ピンク、黄色、藍色、白。通り過ぎる人達の髪はとってもカラフル。髪だけじゃない、目も。鹿の子の学校にいる子達を思い浮かべてみる。青、茶色、緑色、赤。髪と目がおんなじ組み合わせの子は、いなくはないけど、そんなにいない。少なくとも、黒い髪と紫の目の子は、鹿の子は知らない。うちの兄弟達以外!

真っ黒な髪、濃い薄いはあっても、みーんなお揃いの紫の目。その中でも、鹿の子とおにぃちゃん、真砂おにぃちゃんは、一番二番で濃い。鹿の子が二番、おにぃちゃんが一番。きらきらして、宝石みたいって思う。綺麗な、自慢の色。

最近になって、余計特別に、大事に感じるのは。このふたつの色が、鹿の子とおにぃちゃんを繋ぐ、大事な糸だから。

だって、地球って広いんだよ。何百って国があって、何億人って溢れるくらい人がいる中でさ?たまたまおんなじ国の、おんなじ県の、おんなじ家に生まれる確率。どれくらい低いと思う?正確な数字はわかんないけど、とりあえずすっごい低い事は、間違いないでしょ?

何かが一個でもずれちゃって、鹿の子でもおにぃちゃんでも、よそに生まれたとしたらさ?鹿の子達、会えたかわかんないんだよ。ううん、会えたとしても、こんなずっと長い間、誰より近くで一緒には、いられなかったんだよ。

鹿の子が生まれた時から、ずーっと一緒。鹿の子、おにぃちゃんと兄弟に生まれられて、ほんとによかった。

だって、この繋がりは永遠だもん。誰にも、神様にだって断ち切れやしない、絶対の絆。

ああ、鹿の子達、世界一幸せな二人だね。ねっ、おにぃちゃん!


『葡萄鹿の子は祝福されている』



鹿の子ちゃんにとって、血の繋がりは祝福の赤い糸

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