彼女、最悪な目に合わされそうな気がする
俺は、一人で電車を待っていた。
母親に返信をし忘れていたことを思い出し、スマホを取り出してメッセージを書いていく。
適当にすぐに帰ると入力し、送信。
母親とのチャットを閉じると、ふと燐華さんの名前が目に入った。
「......流石に大丈夫だよな?」
燐華さんには友達がいる。
夏鈴さんだって最近は話すこともない。
流石に友達がいる前で、夏鈴さんが燐華さんに手を出したりはしないだろう。
手を出したとしても、守ってくれるはずだ。
「うん。考えすぎだな......」
無意識に独り言が出てしまう。
そのくらい、燐華さんのことを考えるのに集中していた。
「まもなく、一番線に......」
電車がもうすぐ到着するアナウンスが聞こえてきた。
俺は、スマホをポケットに入れ、電車に乗る準備をする。
「......本当に大丈夫か?」
もし、もしもだ。
何かしらが原因で、燐華さんが一人になってしまったら。
トイレに行った時や、電話がかかってきて席を外した時。
そして、帰り道。
一人にならない時間は、友達が一緒にいても発生する可能性がある。
そう思うと、急に不安になってきた。
「おい! 邪魔だよ!」
俺はハッとした。
電車が既に到着し、後ろに並んでいる人から怒られた。
「す、すみません......」
俺は電車に乗ろうとした。
だが、歩みを止める。
「チッ。乗らないならどけよ!」
後ろの人が俺を抜かし、電車に乗る。
俺も後に続き、電車に乗ろうとした。
だが、ふと考える。
夏鈴さんは、あそこまで燐華さんと仲良くなったのにも関わらず、いじめることを選んだ人物だ。
わざわざ遅くまで残り、一人になるタイミングを狙っている可能性だって無いとは言い切れない。
気が付くと、俺は走り出していた。
改札に定期券を叩きつけ、改札を通過する。
人の目を気にもせず、構内を駆け抜ける。
俺は、全力疾走で大学へと引き返した。
突然、聞き馴染みのある声で話しかけられ、即座に振り向く。
「な、なんでいるの......?」
燐華の表情、感情。
それは、絶望。
平和な日常を破壊する悪魔。
そんな凶悪な存在が、一人の際に目の前に現れた。
絶望しないはずがない。
「偶然よ、偶然。それより燐華。あんた一人みたいじゃない? 私と話す機会をわざわざ作ってくれたの?」
「そ、そんなわけない......!」
「ふーん......。まぁなんでもいいや。こうして二人で話し合えるわけだし」
夏鈴は、燐華に詰め寄る。
夏鈴に恐れ、燐華は逃げようとした。
しかし、夏鈴はそれを予想していた。
自分の背を向けた燐華に走って近づき、両手で長い黒髪を掴む。
「い、痛い! やめて!」
髪を握っている夏鈴の手を開こうとするが、右手だけで開くのは無理だった。
夏鈴は、髪の毛を引っ張る。
壁に叩きつけられ、そのまま地面に倒れてしまう燐華。
そんな燐華の頭を、夏鈴は容赦なく踏みつけた。
「どう? この感じ。懐かしいと思わない?」
不適な笑みを浮かべつつ、燐華の頭を踏み続ける。
「痛い痛い痛い! やめて!」
だが、夏鈴がやめることはなかった。
燐華と仲良くしてしまった自分に対する怒り、志永や友達に守られ、楽しく過ごしている燐華への憎悪。
それら全てをぶつけるかのように、燐華を痛めつける。
「ふふ。やっぱりあんたにはいじめられる立場がお似合いよ」
「......なんで」
燐華が声を振り絞る。
「......あ?」
「なんで、こんなことするの......?」
痛みに耐えつつ、夏鈴に問いかける燐華。
「なんでって......! ムカつくあんたの周りに、人が集まるのが嫌なのよ!」
燐華の頭を足で地面に押し付ける。
「いたっ......! 」
夏鈴は、中学生の頃を思い出していた。
自分は可愛く、カースト上位の存在。
だが、それ故に高圧的な性格。
男たちは私の周りに集まらず、いつも燐華の周り。
好きだった人でさえ、燐華の虜。
「だったらさ......」
燐華は、夏鈴の足首を掴む。
「......変わろうよ。私みたいに......」
「......は?」
「私だって、夏鈴ちゃんたちにいじめられて、弱気になってたけど......。志永くんのおかげで、周りのみんなのおかげで強くなれた......」
燐華は、夏鈴の足を持ち上げ、頭から離す。
「弱かった私でさえ......変われたんだから。きっと、強い夏鈴ちゃんなら変われるよ......! 私なんか比にならないくらい、魅力的な子に......!」
必死で夏鈴を説得する。
だが、この言葉が夏鈴の逆鱗に触れた。
私は、奈月夏鈴は強い。
こんな弱者とは違う。
強い強い強い強い強い。
それなのに、こいつは弱者の分際で今の私を否定した。
力でねじ伏せる私のやり方を否定した。
私の生き方を否定した。
「私に......!」
「......え?」
「私に口答えするなあああああ!!!」
夏鈴は、燐華の頭を蹴り飛ばす。
そして、鞄からカッターナイフを取り出し、刃を限界まで出す。
「死ねええええええ!!!」
カッターナイフを両手で持ち、振りかぶった。
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