彼女、立ち向かう

「......でも、こんなんじゃ......」


「......え?」


「......こんなんじゃ、いけないよね」


 燐華さんはゆっくり立ち上がると、突然自分の頬を強く叩いた。

 まるで、自分に喝を入れるように。


「り、燐華さん? 体調は......」


「悪いよ......。でも、みんなが助けてくれる中、私だけ弱気でなんていられないよ......! 夏鈴ちゃんが私とのこれからより、過去のいじめの楽しさを選ぶっていうなら......! 私を徹底的に叩きのめすっていうなら!」


 燐華さんはもう一度、思い切り頬を叩く。


「私決めた! 徹底的に立ち向かって、ガツンと言ってやる!」


「燐華さん......!」


「だから見てて! 夏鈴ちゃんが二度と私に近寄れないようにしてあげるから!」


 燐華さんが凛とした顔つきでそう宣言した。

 こんなに気合が入っている燐華さんは初めてだ。


 今までの燐華さんならここで心が折れてしまっていただろう。

 だが、トラウマを乗り越え、夏鈴さんと仲良くするという経験が、燐華さんの心を強くしたのだ。


「でも......」


「なんですか?」


「もし、それでもダメな時は頼らせてほしいな......」


「......もちろんですよ!」


 そう返事をすると、燐華さんの表情が明るくなる。

 先ほどまでの絶望した燐華さんの面影はない。


 このままうまく物事が進んでくれ。

 そう願うのであった。



 次の日の大学にて。

 講義に向かう俺たちの前に、当然夏鈴さんは現れた。


「あら、おはよう」


 ニヤニヤと笑いながら挨拶してくる。


「ふふふ、今日は平和に過ごせるといいわね......」


 そんなことを言う夏鈴さんの前に、燐華さんが堂々と立つ。


「ふん。やれるもんならやってみれば?」


「......は?」


「やってみればって言ってるの? 小学生みたいな幼稚ないたずらを、恥ずかしげもなくやってみたら? って言ってるの」


「な、何よ!」


 夏鈴さんが大声で言い返す。

 その声に反応し、周りの人々が注目し始めた。


「突然そんな大声出したら、ヒステリックだと思われて印象ガタ落ちだよ?」


 そんな中でも、態度を変えずグイグイ攻める。


「だ、誰がヒステリックよ! この......!」


 夏鈴さんの怒りが限界に達し、手が出そうになる。

 そこへ俺が間に入る。


「やめてください」


 俺は夏鈴さんを睨む。

 すると夏鈴さんは悔しそうな顔をし、どこかへ行ってしまった。


「はああああ,,,,,,」


 修羅場から解放され、安心感から大きなため息が出た。

 咄嗟に出たはいいものの、心臓はバクバクだった。


「どうなるかと思ったけど......」


「でもやりましたね......!」


「そうだね......!」


 俺と燐華さんはハイタッチした。



 そんな二人の様子を夏鈴は見ていた。

 殺す気でもあるかのような、殺気がある目つきで。

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