4章 俺の彼女は幸せを勝ち取りたい

彼女、新しい服で登校する

 次の登校日の朝。


 燐華さんの怪我は治ったが、燐華さんと一緒に登校する習慣が付いていた。

 俺は燐華さんの家に行き、支度を待つ。


「お待たせー」


燐華さんは今まで着ていたのを見たことがない服装で出てきた。


「あれ、新しい服買ったんですか?」


「うん! 夏鈴ちゃんに買ってもらったんだ!」


燐華さんは服を指でつまみ、見せびらかす。


「すごい似合ってますよ。見た目とも相性バッチリですね」


俺の感想は純粋なものだった。

美しい見た目の燐華さんにとても似合う服だった。


そして何より、夏鈴さんと本当に仲良くできたようで嬉しかった。


「そう? えへへ......!」


少し照れながら笑う燐華さん。

そんな燐華さんとともに、俺たちは大学へ向かった。



大学に着くと、俺たちの話題はレポート課題に変わっていた。


「いやー、レポート無事終わってよかったですよ......」


「ふふ、志永くん頑張ってたもんね」


 俺はレポートの提出期限に間に合い、ホッとしていた。


「あ、燐華ちゃーん!」


 缶コーヒーを持った夏鈴さんがこちらに気が付き、手を振っている。

 そして、こちらに向かって駆け寄ってくる。


「あ、夏鈴さん。こんにちは」


 俺は夏鈴さんに挨拶する。


「やあ、夏鈴」


 俺に続き、燐華さんもあいさつした。

 遠くにいた夏鈴さんが、だんだんとこちらへ近づいてくる。

 そして、次の瞬間。


「おっとっと!」


 夏鈴さんは思いっきりコケてしまった。


「わっ!」


「きゃっ......!」


 そして、持っていた缶コーヒーの中身が、燐華さんにかかる。

 夏鈴さんが真剣に考えて選んだと思われる燐華さん服には、大きなコーヒーのシミができてしまった。


「ご、ごめーん」


 謝る夏鈴さん。


 俺はそんな夏鈴さんの顔を見て、驚いた。

 そして、燐華さんは俺以上に驚いているだろう。

 いや、それだけではなく、恐怖でパニック直前だろう。


 心臓の鼓動が加速する。

 あまりに怖気づき、体中の血の気が引く。

 俺ですらここまで緊張してしまっているのだ。

 燐華さんなんか気を失ってしまってもおかしくない。


 謝る夏鈴さんの顔が、まるで悪魔のように笑っているのだから。


「あ、あああ......」


 燐華さんが見てわかるほど震えており、怯えているのがわかる。


「んー? どうしたのー?」


 そんな燐華さんに、無邪気に質問する夏鈴さん。

 燐華さんの額からは冷や汗が垂れ始め、顔色も真っ青になっていく。


「あ、そうだ夏鈴ちゃん! 今度のお出かけのことなんだ......」


「チッ......」


 夏鈴さんは不機嫌な顔をして舌打ちをする。


「なんであんたと一緒に休日を潰さないといけないのよ。それに、夏鈴ちゃんなんて、馴れ馴れしい呼び方はやめてくれる?」


 再び笑顔になり、燐華さんに言う。


「ご、ごめ......」


「そっちの彼氏くんとなら行ってあげてもいいけどなぁー?」


「......っ! 行きましょう、燐華さん!」


 俺はそう言い、燐華さんの手を握る。

 燐華さんの手は手汗で濡れていた。

 そして、手の震えから燐華さんがいかに怯えているか、そして、未来を恐れているかが伝わってくる。

 燐華さんの手を引き、俺たちはこの場を去った。


 最悪な事態が起きてしまった。

 おそらく、夏鈴さんの記憶が戻ってしまったのだ。

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