彼女、チャンスを活かす

 次の日の朝。

 俺は昨日と同じように燐華さんと一緒に登校し、教室に向かっていた。

 その途中に夏鈴さんと遭遇した。


「燐華ちゃんおはよ。怪我は少し良くなった?」


 夏鈴さんが燐華さんの包帯を見ながら言う。


「す、少しはね……」


 やはり夏鈴さんの前では露骨に暗くなっている。

 だが、怪我のおかげで体調が悪いと思われていそうなので、嫌だという気持ちはカモフラージュできていた。

 無理に気を遣わなくていい分、燐華さんも少しは気楽だろう。


「いやーこのまま無事に治るといいねー」


「……夏鈴ちゃん。あの……」


「んー?」


 夏鈴さんが不思議そうな顔をする。


「もしよかったら……。今日昼食を一緒に食べない……?」


 事前に何か話を聞いていたわけではないので、俺はとても驚いた。

 まさか、燐華さんが自ら誘うなんて思ってもいなかった。


 燐華さんが夏鈴さんを誘うと、夏鈴さんの表情が明るくなる。


「えっ! 燐華ちゃんから誘ってくれるなんて珍しいね! 行こ行こ!」


 よほど誘われたのが嬉しかったのか、とても喜んでいる。


「あまり移動するのはまだ大変だから、学食だけど……」


「いいよいいよ! ……って、あ! そろそろ講義始まるよ!」


 廊下の時計を偶然チラ見した夏鈴さんが言う。


「じゃ、お昼に迎えに行くから! また後でね!」


 夏鈴さんは手を振りながら走って教室へ向かっていった。

 燐華さんもそれに返すように手を少しだけ振った。


「……驚いてる?」


「そりゃ、まぁ……」


「怪我してるっていうチャンスタイムが終わる前に、慣れておきたいからね」


 小声でそう言うと、燐華さんは歩き始めた。

 そんな燐華さんの背中が、とても格好良く見えた。



 時刻は十二時になり、講義は終了した。


「燐華ちゃーん!」


 夏鈴さんが教室の入口で手を振っていた。

 俺たちは移動する準備をし、夏鈴さんの元へ向かう。


「あ、燐華ちゃん。荷物持ってあげるよ!」


「いや、大丈夫だって......」


 しかし、燐華さんのトートバックを半ば無理やり取る夏鈴さん。


「怪我してるんだし、少しでも負担が少ない方がいいでしょ!」


「じゃ、じゃあよろしくね......」


「うん!」


 夏鈴さんは燐華さんのトートバックを肩に掛け、歩き出した。


「やっぱり押しがすごいというか......。グイグイ来る人ですね......」


「うん......。でも、悪意はないし、人のことを思ってるから、悪い子ではないね......」


 俺と燐華さんは二人でコソコソ話す。


「おーい! 二人とも置いてっちゃうよー!」


 夏鈴さんが大声で俺たちを呼んでいる。

 置いて行かれる前に俺たちは夏鈴さんの元へ向かった。

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