彼女、耐える

「どうだった?」


感想を知りたそうな夏鈴が燐華に話しかける。


「ぜ、全体的に良かったよ」


本当は細かい部分を見る精神的余裕は無く、正確なことはわからない。

だが、その場しのぎでそう返事をした。


「本当!? 優等生な燐華ちゃんが言うなら間違いないね!」


夏鈴は喜んだ。


「それで、困っている部分はどこかな......?」


「えーっとね......。ここが今こんな感じなんだけどー......」


夏鈴が燐華の隣に座り、指で気になる部分を示していく。


「それでー......。あれ、おーい燐華ちゃーん!」


「うぇ!?」


ぼーっとしていて話を聞けていなかった。


「ご、ごめん。もう一度いいかな......?」


「大丈夫ー?」


「う、うん......。あ、そうだごめん。少し、席を外していいかな。お手洗いに行きたくて......」


「うん。いってらー」


燐華は立ち上がり、部屋を出た。

トイレに入り、大きなため息をつく。


(あと三時間半......)


燐華はトイレットペーパーを適当に巻き取り、冷や汗を拭う。

個室で一人になり、落ち着いたためか先ほどより体調は幾分かマシになった。


(頑張るぞ......)


大きく深呼吸し、トイレを出た。



それから、夏鈴の質問責めは続いた。

朦朧とする意識の中で、夏鈴とのやり取りを進めていく。

胃酸がこみあげてくるが、ミルクティーで流し込み、抑え込む。


(大丈夫......。今までこんなことより辛いこと、たくさん乗り越えてきたんだから......!)


自分を鼓舞し、ひたすら耐える。


そして、長い長い地獄の時間を耐え続けた。



時刻は夜六時。

夏鈴はレポートは順調に進み、満足そうだ。


「ありがとー燐華ちゃん! めちゃくちゃ進んだし良くなったよ!」


「うん、良かったね......」


このまま倒れてしまうのではないかと思いながら、燐華は返事をする。


「じゃ、私はこれで......」


燐華は辛く苦しい時間を耐えきった。

燐華は喜びで泣いてしまいそうだった。

立ち上がり、帰宅しようとする燐華。


だが、夏鈴はそんな燐華の手を掴み、引き留めた。


「えっ......!? どうしたの.......?」


「手伝ってくれたんだし、お礼にご飯食べて行ってよ!」


「え......でも......」


「いいからいいから!」


夏鈴の押しに負け、座らされる燐華。


「じゃ、待っててね!」


夏鈴は夕食を用意しに部屋を出て行った。


(嘘......)


地獄はまだ終わらなかった。



食事後も会話の相手にされ、時刻は既に九時を過ぎていた。


「燐華ちゃん大丈夫? 体調悪そうだけど?」


 明らかに体調が悪そうな燐華に、声をかける夏鈴。


「うん、大丈夫だから......」


「帰れ無さそうだったら、送っていくけど......」


「大丈夫......。そこまで迷惑をかけられないから......」


 燐華はきっぱりと断る。


「そう? じゃあ、お大事にね」


「うん......。また学校でね......」


 燐華は手を振ると、夏鈴と別れた。



「燐華ちゃん、大丈夫かなぁ」


 燐華と別れた夏鈴は、燐華を心配していた。

 余りにも体調が悪そうだったので、不安だった。


「でも、なんか......」


 夏鈴の中には、不安以外の感情があった。

 なにか懐かしい、忘れていた感情が蘇ってきているような気がしていた。


「なんか、それが嬉しいような......。気のせいだよね......?」


 体調が悪い中帰宅する燐華を思い浮かべ、心配する夏鈴の顔はなぜか笑顔だった。

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