彼女、焼き肉を食う

「へーい!」


 ガチャりという部屋ドアが開く音とともに、燐華さんは入ってきた。


「志永くん! 美湖ちゃんが焼き肉奢ってくれるって本当!?」


「本当ですよ。今日の夜は焼き肉です。美湖さんがこの前暴れたお詫びをしたいらしくて。別にいいって断ったんですけどね......」


「やったー! 飲むぞー!」


 両腕を上げて喜ぶ燐華さん。


「いやいや、食べてくださいよ......」


 肉より酒、そんな彼女に呆れながら、俺たちは夜を待った。



 夜になり、俺たちは焼き肉を食べに来ていた。

 俺の対面に、燐華さんと美湖さんが座っている。


「今日は私のおごりなんで、ご自由に食べてくださいね」


「本当にいいんですか? ご馳走になっちゃって」


「いいんですよ! 好きに食べてください!」


「ほら、美湖ちゃんもいいって言ってるんだし、遠慮せずに食べよーよ」


 燐華さんはメニューを眺めながら言う。


「すみませーん! ビール大ジョッキ十杯お願いしまーす!」


「あいよー」


 店員が返事をする。


「ちょ、お肉は頼まないんですか!?」


「まずは飲まないと始まらないでしょー! ねー美湖ちゃん?」


「いや、私は今日は飲む気は.......」


「んー?」


「うっ......」


 燐華さんの威圧に負ける美湖さん。


「ダメですよ。今日は外飲みなんですから。勧めないでください」


「うっ......。私、ろくでなしキャラになってる......?」


 美湖さんはショックを受けている。


「あーひどーい。DVだー。ぶーぶー」


「あ......。いや、ろくでなしキャラってわけじゃないですよ! そのー、この前の見すぎましたし! お体に悪いですから! ね!?」


「いいですよ......。私はろくでなしですよ......」


 完全にいじけてしまう美湖さん。


「へい、ビールお待ち!」


 店員二人がビールをテーブルに置く。


「あざーす。ほら美湖ちゃん。これ飲んで元気だして......」


「はい......」


「美湖さん! お酒飲まないんじゃ......」


 しかし、燐華さんに流された美湖さんはビールを飲んでしまった。

 それからはいつも通りである。



「いやー美湖ちゃん寝ちゃったねー」


 一時間後、美湖さんは燐華さんの膝枕で寝てしまった。

 飲み相手がいなくなった燐華さんは、やっと肉を焼き始めた。


「ほーら、お肉焼けたよー美湖ちゃん」


 箸で肉を挟み、美湖さんの口へ運ぶ。

 美湖さんの口に肉が入ると、モゴモゴと口が動き始めた。


「なんか勝手に食べちゃって申し訳ないな......。肉の料金は後でちゃんとお金払おう......」


 焼けた肉を回収し、食べる。

 有名な店なだけあって、肉の味は絶品だった。


「お酒も飲んで肉も食べて。嫌なことを忘れられて最高だねー」


 箸を置き、大ジョッキのビールを流し込む燐華さん。


「嫌なこと......」


 食事に行き、仲が深まったと思った夏鈴さんは、これからも燐華さんに絡んでくるだろう。


(夏鈴さんがきっかけで、これ以上酒やタバコの頻度が増えないで欲しいな......)


 そう思う俺であった。

 そのために、何としてでも夏鈴さんに慣れてほしいと思う俺であった。

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