彼女、ヤニ切れと緊張で苦しむ

 夏鈴さんが選んだお店は、チェーンの喫茶店だった。

 俺と燐華さんは隣同士で座り、対面に夏鈴さんが座った。

 メニューを適当に眺め、俺と燐華さんは、適当にカツサンドを頼んだ。

 夏鈴さんは、ペペロンチーノを頼んでいた。


「本当に俺も付いてきちゃって良かったんですかね......?」


「いーっていーって! 彼氏さんも燐華ちゃんも一緒に居たいでしょ? むしろ、私が居てもいーのかって感じ?」


「ははは......」


「いいわけないでしょ......」


 俺にしか聞こえないほどの小声で、燐華さんは呟いた。


「あ、そーだ。注文した商品が届くまでの間、馴れ初めとか聞いてもいーですか?」


「いいですけど、あんまり面白いもんじゃないですよ?」


「いーですよ! まず、どっちが先に告ったんですか!?」


 それから、夏鈴さんの質問ラッシュは続いた。

 主に俺が回答し、燐華さんがたまに話を振られた際に答えるくらいだ。

 俺は質問に回答しつつ、定期的に燐華さんの様子を確認しているが、時間が経つごとに燐華さんの調子が悪くなっていくのがわかる。

 最初は少し体調が悪そうという感じだったが、今は冷や汗がすごく、手が震えている。

 そして、俺の服をずっと握っている。

 手汗も酷く、握られた部分はびしょびしょだ。


「あれ、燐華ちゃんなんか汗凄くない?」


「え......。あぁ、ちょっと暑くてね......?」


「そう? 店内結構涼しいと思うけど......」


「お待たせしましたー」


 店員が注文を持ってきた。

 俺と燐華さんの前には、美味しそうなサンドイッチが置かれる。


 俺はこのタイミングで携帯を開き、燐華さんにメッセージを送ることにした。


(燐華さんは食事中は喋らない人ってことにしておくんで、話を振られても無言でいてください。急いで食べて、用事があると理由で先に退店しましょう)


 この内容で燐華さんに送信する。

 燐華さんの携帯にメッセージが届いたのか、燐華さんは確認する。

 俺の服を掴んでいる燐華さんの手は、グーからグッドに変わった。

 そして、燐華さんは、カツサンドを食べ始めた。


「あーそれで、燐華ちゃんは、普段何して暇つぶししてるの?」


 燐華さんは答えない。


「あー、燐華さんって食事になると夢中になっちゃって、あんまりお話しないんですよねー」


「へー、燐華さんってクールそうに見えて、食べるの好きってなんかかわいいですね!」


(よかった......。うまくごまかせた......)


 それから、夏鈴さんの相手は俺がして、燐華さんには黙々と食べてもらった。

 そして、ちょっと用事があると言い、先に退店した。

 窓から夏鈴さんが見えなくなるところまで移動すると、俺と燐華さんはダッシュで喫煙所へ向かった。

 途中で燐華さんが何度も嘔吐しそうになったが無事に到達した。


「はぁぁぁぁぁ......。死ぬかと思った......」


 タバコを五本ほど無我夢中で吸った後に燐華さんが言った。


「お、お疲れ様でした......」


「いやーありがとうね。助かったよ、でも......」


「でも......?」


「食いしん坊設定みたいになっちゃったのはなぁ......」


「ま、まぁいいじゃないですか」


「まぁね......。しかし、これからどうしようかなぁ。毎回用事があるって言って抜ける訳にはいかないし......」


 燐華さんの言う通りだ。

 これからも夏鈴さんは絡んでくるはずだ。


「......やっぱ、慣れてもらうしか......」


「だよねぇ......」


「無理そうですか?」


「......わかんない」


「......ですよねぇ」


 燐華さんが五本目を吸い終わると、流石に満足したのか、これ以上吸わなかった。

 俺と燐華さんは、大学に戻りながら今後のことを考えるのだった。

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