Constant
エノマキ
第1話 日常
「おい、病人は学校くんなよ」
「やめろって病木尾が可哀想だろ」
授業を聞かずに笑いながら僕のことを馬鹿にしている。
クラスメイトも先生もそれを止める様子は無い。
これが僕の日常。
高校1年の夏からだからもう1年。
僕も人間だ。流石に辛い。
毎回死にたいような気持ちになる。
「先生も病人がいるの嫌ですよね?」
「静かにしろ。」
「はーい」
僕を馬鹿にしてきた奴はつまらないとでも言いたそうな顔で返事をした。
「ここはこうしてだな―」
キーンコーンカーンコーン
「もうこんな時間か。」
「号令」
「起立、礼」
「ありがとうございました」
クラスメイト全員の声が教室に響き渡る。
明日から2日間休日だ。
1週間この教室で耐えきった。
「よっ」
肩に手の感触が伝わってくる。
「1日お疲れ様でーす」
まさにギャルって感じの彼女は「中本紗良」僕の唯一の友達だ。
「今日は随分早かったな」
「だって早く会いたかったんだもん」
その発言に思わずドキッとしてしまう。
慌てて冷静さを取り戻しいつものことを聞く。
「まわりの視線が痛いけど大丈夫か?」
「いつものことだよ〜」
いつも通りの返事が返ってきて日常は変わらないなと実感する。
「明日、暇?」
「暇だけど」
「じゃあ特別にあたしの家来ていいよ」
「いつもじゃねーか」
「確かに」
話しながら見せる紗良の笑顔は輝いて見えた。
「じゃあ一緒に帰ろっか」
「うん」
紗良と一緒に教室を出た。
「じゃあバイバイ」
「また明日」
僕の家に着いた所で紗良はそう言いながら自分の家の方向に歩き出していった。
僕は家に入ろうとしたところで気付いた。
「薬、学校に忘れてる」
それがないと持病の症状を抑えることができない。
仕方なく僕は来た道を戻って学校に向かった。
それが間違いだったと気付かずに。
そこで見てしまった。
紗良が知らない男と歩いているところを
しかも腕を絡ませながら
何を話しているかは分からなかった。
僕は学校に向かって走り出した。
「違う。違う。絶対に違う。」
そう自分に言い聞かせながら
学校に着いた時には疲れ果てていた。
汗を垂らしながら教室に入り、薬を取って学校を出た。
土曜日―
僕は約束の時間に紗良の家に向かった。
ピーンポーン
「翔だ。開けてくれ」
僕は無意識に少し強い口調になっていた。。
ガチャ
「おぉかーくんいらっしゃ~い」
「あのさ、家に入る前に聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
「昨日さ誰と腕絡ませて歩いてたの」
「え?なんの話?」
「しらばっくれんなよ」
「急にどうしたの?」
紗良は少し戸惑ったような口調で僕に聞いてきた。
「もう分かってんだよ」
そこで僕の抑えていた怒りが爆発した。
「かーくん今日おかしいよ?」
「もういい」
「あ!ちょっと待って!」
バタンッ
僕は怒りにまかせて思いきり扉を閉めた。
その後紗良から何度も電話がかかってきた。
僕はそれらを全て無視して眠りについた。
日曜日―
僕は睡眠をとって正気に戻った。
謝るために紗良の家に向かうことにした。
ピーンポーン
「はーい」
「翔だけど」
「翔?」
紗良の頭には?が浮かんでいる。
「冗談はいいからはやく入れてくれ」
「冗談って何?」
まだ紗良は冗談を突き通すようだ。
「昨日の事は謝るから」
紗良の頭にはまだ?が浮かんでいる。
紗良は冗談が好きなやつだがここまでじゃない。
僕はてっきり怒っているから分からないふりをしているのだと思っていた。
だが現実は違った。
「木尾翔って誰?」
それを聞いた瞬間体が一気に冷たくなるような感覚に陥った。
冗談には聞こえない。
しかもドアを閉めようとしている。
「待って!」
ガチャ
止めたが遅かった。
「なんだよこれ」
状況が整理できていない。
というかできるわけがない。
僕の頭は「紗良がなんで僕の事を知らなかったのか」の答えを必死に探していた。
月曜日―
学校に行って紗良と話したら何か分かるかもしれない。
僕はそういう淡い期待を込めて重い腰をあげ学校に向かった。
1年半歩いて来た道。
しかし今日は混乱していていつもと違う道を歩いている気分だ。
俯きながら歩いているといつの間にか学校に着いていた。
僕はシューズに履き替え紗良とどういう風に話したらいいかを考えながら教室がある階まで歩いていった。
「おはよう」
それが教室に着いて聞いた第一声だった。
なんと先週馬鹿にしてきたいじめっ子が挨拶をしてきたのだ。
「木尾くんおはよう」
僕を見捨てた先生もその後に続き挨拶をしてきた。
しかもどちらもからかっている様子は見受けられない。
「おかしい」
頭がその単語で埋め尽くされている。
取りあえず僕は紗良を探すことにした。
この時間はバレー部の朝練が終わり、それぞれの教室に入る時だ。
紗良がいつもこの時間に友達と一緒にこの階まで登ってきて、こっそり僕に手を振ってくれる。
「今日の朝練キツくなかった?」
「まじで分かる。超キツかったよね」
いつも紗良と一緒に歩いている友達2人だ。
今日はたまたま一緒に居ないのかなとか思いながら見ているとバレー部の列が最後の女子4人組で終わった。
今日は休みなのだろうか。
そう思って僕は女子4人組に確認する。
「あのさ中本紗良って今日休み?」
そして4人が話し合った上で僕に言う。
「中本紗良って誰ですか?」
僕はジェットコースターの浮遊感のようなものを感じた。
魂が体から離れていったかと思った。
「ここに居たらやばい」
僕はそう思って学校から逃げ出した。
目眩を起こしながら
混乱する頭を必死に動かしながら
「どうなってんだ」
僕が発せた言葉はそれだけだった。
この学校が
この世界が 怖い。
多分僕は知らぬ間に除け者にされていた日常を普通だと思って受け入れていたんだ。
何日家に居ただろうか
ピーンポーン
家のインターホンが鳴った。
ドアを開けるとそこには綺麗な白髪の女の子がいた。
「2年3組白鳥雪です」
「翔くん久しぶりですね」
頭がフワフワする。
この女の子が誰か分からない。
分かるようで分からない。
多分学校にこんな子はいなかったと思う。
なのに何故か白髪が懐かしく思えた。
「ほら立ち止まってないで早く出てきてください」
「え、ちょ」
綺麗な白髪に目を奪われていて分からなかったが家の外にはいつもと違う景色が広がっていた。
先週の土曜日から何もかもが分からない。
やっぱりおかしい
「ここどこ?」
景色に目を釘付けにされながら聞く。
「寝ぼけてるんですか?」
「翔くんのこと心配してる人もいるんですよ」
「冗談は辞めてください」
「冗談?」
「冗談?じゃないですよ」
少し怒ったような口調でほっぺをつねってくる。
「痛っ」
「ほらもう学校に行かないと遅れますよ」
「ちょっと待って!」
雪は僕のお願いを無視し、無理矢理腕を引っ張って家から引きずり出そうとしてきた。
「まだ靴履けてないから!」
僕がそう言うと何故か雪は幸せそうに笑っていた。
「さぁ行きますよ」
「道案内はしてくれよ」
「まだ冗談言ってるんですか」
雪は一瞬軽蔑の目でこちらを見ていたような気がする。
「僕は本気で言ったんだけどな」
「はいはい。分かりましたから」
「さっさと学校に行きますよ」
「まぁここで話してても何か変わるわけじゃないからな」
「学校 行くか」
僕はこの不思議な世界の第一歩を踏み出すことにした。
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