第20話 私の役割を全うする

 ああ、死にそう……。

 うん、これはねぇ……非常にまずいよう。


 文字通り、黒フードちゃんは風を切って私を攻撃……うーん、表現を間違えた。風を“貫通”して、私を攻撃してくる。すんごいまずい。


 風を“貫通”しているから、黒フードちゃんは風の影響を受けていない。どういうことが起きているのかと言うと、めちゃくちゃ速くて私が攻撃についていけていない。んー、もしかしたら、重力も“貫通”している? だってそうだよね? あまりに人間離れしているもん、速さが。あれ? でもそうすると、他にも色々と“貫通”しなくてはいけないんじゃないか?


 うう……頭悪いので、何を“貫通”すれば黒フードちゃんの身体を保ちながらあのスピードが出せるのか、てんで見当がつきません!


「なあ」


 目の前に黒フードちゃんが現れた。


 姿形をちゃんと目で捉えるのが三分振りなので、めためたに嬉しかった。めっちゃ美味しいカップラーメンが目の前にいる気分だ。


「おお! 愛しの黒フードちゃん! どこに行ってたの? 会いたかったよう!」

「なんでそんな余裕綽々でいられんだよ」

「そうでもしないと、ナイーブになりそうなので。ところで、ナイーブのちゃんとした意味を知らないんだけど、教えてくれたりしない?」

「私も知らないよ。言われてみるまで考えようとも思わなかった」

「使い方は大体合っていると思うんだけどねー。ところでどんな用事で?」


 少しだけモジモジし始めた黒フードちゃんである。

 うーん、可愛いなぁ。お手洗いに行きたいのかな?


「いや、その……」

「お手洗いなら私の後ろにあるよ! 私たちの血で真っ赤に染まった赤トイレちゃんだ! 私なら入りたくないね!」

「どうせあんた死ぬんだから、ここで終わりにしない?」

「え、私のボケボケにツッコミを入れてよ」

「いやだ」

「え〜」


 このまま何もしなければ、確かに私は死ぬ。



 致命傷は受けていない。切り傷だけだ。



 二つの情報だけを見たら、不思議と大丈夫だって思えてくるでしょ? でも残念、非常にまずい状況なんですよ。もう一つだけ情報を付け足すね。



 切り傷が多すぎる。



 まあつまり、出血があまりにも多い。人ってさ、血が足りないと死ぬのよ。んで、私はもう貧血になりそう……ってか、もうなっているかも。意識が朦朧としてきた。目の前の景色がぼんやりと白く染まってきた。うーん、これは頑張っても二分しか持たないかも。あ、カップラーメンって二分で食べても美味しいらしいね。


 刀を納める。


「ん? え、まさか……!」



 はあ……私は、私の役割を全うするため、必殺技を使います。



 まずは殺気だ。これがないと私の技は成り立たない。これで相手に「これから殺しますよ」という脅しをかけて、莫大な根源的恐怖を思い起こしてもらう。


 次は構えだね。これは簡単に見えて、かなり難しい。刀がそこにあると認識させるために、完璧な所作をしなければならないからだ。まあ、日頃練習しているから、なんだかんだできてしまうんだけどね。


 私の技は、私の身一つで完成する。どうしてそういう技にしたのか。単純にいつでもどこでも使える技にしたかったからだ。そうすれば、非常時にも対応できるでしょ?


 それは置いといて……最後に技名を言えば、身体が勝手に動く。そうなるように頑張った。うん、頑張った。説明が面倒だから、これは説明しない。あ、どういう動きなのかを説明したいかもしれない。



 よし、説明しよう!


 右下段から左上段への切り上げだよ!



 私の説明タイム……終わってしまった……。





「必ず、殺してあげるね」





 ということで、必殺技だぁ!

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