第1.65話 「必ず、殺してあげるね」

「悪いけど、時間がない。ちびっ子! 逃げるつもりはないんだな!」

「うん! あやちゃんが心配!」




 男の目つきが変わった。





「……この先は、地獄だぞ」





 ものすごい殺気……ビリビリと痺れるような迫力……。

 かえでちゃんの様子を見る。





 え? なんで気絶していないの?





 あの男の殺気は脅しのために使っているだけだ。

 もしかして、かえでちゃんはそれを理解している?


「後悔はないんだな?」

「……ないと言ったらうそになる!」

「なら、どうしてこの選択をする」







 かえでちゃんはゆっくりと、言葉を紡いでいく。

 まるで、これから先の人生を案ずるかのように。





「あやちゃんが、たすけてくれるから!」

「そうか……」







 男は項垂れた。

 本気でかえでちゃんを心配するその姿は、とても悪人には見えなかった。







 ピチュンッ!







 少女の頭に向けて、レーザーが放たれたように見えた。

 気のせい……だよね?


 ドサッ……。


 倒れる音が聞こえる。







 嘘だ……うそだうそだ、嘘だ。


 なんで撃たれた? なんで撃った? どうして撃った?


 わからないわからないわからないわからないわからないわからない……。

 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなん……。








「おいおい……なんだよ、この殺気! 聞いてねえぞ!」

「今、かえでちゃんを撃った……?」





 嘘をついたら、殺す。





「う、うううう撃ったよ! だけどな! こうするしか……」

「わかった。じゃあ、容赦なく」





 刀を持っているときと同じ構えを取る。


「お前、刀なんて持ってたか……?」


 私が想像している刀と同じかどうか、わからない。でも、相手が刀を持っているように見えている。それだけはわかる。



 それがわかれば、十分だ。







「ま、まさか……必殺、わ……」

「何か、言い残すことは?」






 言葉を吐いた後に、殺してあげる。





 男は、これだけは伝えたい、とでも言うかのように、言葉を吐き出す。


「お前は、因果律から外れている」


 きっと、私の今後の人生に関わる大事な言葉だ。




 この男、最後まで優しかったな




「それでいいの?」

「ああ」

「じゃあ……」






この男の人生は、これで終わりだ。













「必ず、殺してあげるね」

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