第1.45話 無銘の灯籠

「改めて! ありがとうね、楓と遊んでくれて」


 かえでちゃんは小学生だったみたいだ。何年生なのかは、わからないけども。


 彼女は学校の預り所みたいな場所から抜け出して廃工場に来たらしい。本人曰く、ものすんごくつまんない、らしい。そのつまんない場所に、師匠は再び預けに行った。なんか、めっちゃくちゃにしょぼくれているのが印象的だったな。


 その間、私は一人で稽古をしていた。

 でまあ、師匠が戻ってきてまず最初に感謝を述べた。


 そんな感じ。


「遊んだというよりも、遊ばれた、の方が正しい気がします」

「おっぱい揉まれたでしょ」

「んな!?」


 師匠の前で絶対にやらない反応をしてしまった。


 クソォ! 悔しい!


「おお……初めて、素のあやちゃんを目撃したよ」

「……セクハラです。訴えます」


 畜生……これからはもっと気を付けねば……。

 マジで訴えてやろうかな……。


「ごめん! いや、本当にごめん! だからその顔をやめてほしい! え? マジで訴える気!? それはまずいって! 本当にごめんなさぁぁぁい!」


 結局、訴えるのはやめた。

 師匠の土下座を始めて見たから、それでよしとしたのだ。






「今日は、必殺技を考えようか」

「え、考える必要なくないですか?」


 真っ先に師匠の言葉を否定してしまった。


「もっと、こう……はしゃいでほしかったなぁ。これが男子中学生なら、もっとはしゃぐようなところなのになぁ」

「わーい、やったー、まってましたー」

「適当にはしゃぐのはやめようね」


 でも実際、必殺技って意味がない気がしてならない。


 大抵の必殺技って、必ず殺す技になっているイメージがなさすぎるのもあると思う。よくアニメとか漫画に出てくる必殺技って、わかりやすくかっこいい感じを出すだけの演出にしかなっていない。その要素が強すぎるせいか、別に必ず殺せなくてもいいよね感がある気がする。


「うーん……実際に体感してもらいたい、けども……」

「やってみてくださいよ、必殺技」


 ちょっとからかいの気持ちを込めて言ってみる。











 師匠はそんな私の様子を見て、見たことない表情を浮かべた。


「あやちゃん、ヒーローや悪人の前で、軽々しくその言葉を口してはダメだよ」









 …………ゾワッ


 全身の毛が逆立つような悪寒。

 激しく動き出す心臓。

 震えだす、身体。


 え? これはおかしい……な。







「じゃあ、その挑発に乗って、片鱗だけでも見せてあげようかな」







 何か、とんでもないことが起きる。

 そんな予感しか、なかった。


 冷や汗、いや……脂汗か。

 どっちでもいい。とにかく、体中の水分が抜けていく感覚だ。


 ほら、今だって、涙が止まらない。

 鼻水、涎……ダメだ、止められない。







「いくよ」







 嫌だ、嫌だ嫌だいやだいやだいやだイヤダイヤダイヤ、ダ……。

 シにたク…………。














「無名の灯籠」

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