第12話 見るも無残なヒーロー物語
集合場所にやってきた。
私の勧めで、集合時間より少し遅れていくことにした。
「うっ……! ぶおえぇぇぇぇぇ!」
すみれちゃんが、見慣れない光景に吐き気を催したようだ。
人目も憚らず、その場で今朝に食べた朝食を全て地面に叩きつける。
もっとも、そこに生きている人間は数名しかいなかったが。
「あや、悪趣味だな」
「……いつか見る光景を、今この瞬間に見せたかったの」
「まあ、実際にやられているところを見るよりはマシか」
「行こう」
「ああ」
すみれちゃんは立ち止まったまま、ボーっとしている。
まるで意識がそこにないかのようだった。
「純恋はどうするんだ?」
「相手は二人だけ、私たちで止める」
「あやも戦うのか?」
「この場にいるヒーローは虐殺されちゃったからね」
「そうか。言っとくけど、俺は手助けしない」
「ありがとう」
「どういたしまして」
虐殺の限りを尽くし、朱色に染まった二人の視線が私たちを捉える。
それに気がついたころには、死を描く曲線が降りかかろうとしていた。
私から見て左上段からの攻撃。
相手はナイフを逆手に持っている。
私は、サポーターが一つだけ身に付けることのできる武器を、刀にしていた。
既に鞘から出していた刀身で、ナイフを持っている方の腕を払う。
払いながら、右肩で相手に体当たり。
体当たりされた衝撃を和らげるためか、黒フードの女の子は私の体当たりと同時に後ろへと下がる。そのまま私と距離を置く。そして、動きを止めた。
「昨日はよく眠れたか?」
「親友と話したから、ぐっすりだよ」
「それ、私のことを言っているのか?」
ピックを投げる。
「もちろんだよ、他に誰がいるの?」
当然ながらナイフで防がれた。
「こっちはただの知り合いぐらいでしか認識してねえよ」
黒フードちゃんが突進してきた。
ナイフが後ろに構えられている。そのせいで、次の動きが予測できない。
ということで、ピックを投げます。
黒フードちゃんは煩わしそーに、後ろに構えていたナイフで防ぐ。
ビックをはじくために、左下段からナイフを振りぬいた。その動きを見逃さず、刀の先っちょを、そのまま左斜め下に振り下ろすであろう黒フードちゃんの手首に当てる。そして、私は体を左にずらす。彼女の降りぬく力を利用して、黒フードちゃんの後ろに飛ぶ。
黒フードちゃんが私に振り向く前に突進する。
左下段から右斜め上に振り上げる。
彼女の背中に当たる。
彼女はそのまま宙を飛んだあと、地面に体を叩きつけた。
すぐには立ち上がらず、そのまま地面に伏せる黒フードちゃん。
私はただ待つだけ。
やっと立ち上がった黒フードちゃんは、私に問いかける。
「今の戦闘、私は何回死んだ?」
「うーん、三回……やろうと思えば、五回」
「刀に刃がないの、どうにかしたら」
「これは居合刀みたいなもんだからいいんですう」
「そうかよ、はあ……」
「どうしたの、溜息なんかついちゃって」
黒フードちゃんは、絞り出すように言った。
「……死にてえ」
どういう意味で言ったのか、私は解らなかった。
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