第3話 いいか、俺は今から、おっぱいを揉む

 大家さんの勧めで、クソガキに街を案内してもらうことになった。


「大ちゃんは、この街のことが大好きなのよ。だから、いい案内人になると思うの!」


 だそうだ。

 ちなみに会話は一つもない。

 ただ、桜の花びらが私たちの間をすり抜けていくだけ。


 なんだか、桜が揺れに揺れている。私たちに会話をしろと言いたいのだろうか。まあ、あくまで植物だから、そんな意思は持たないだろうけども。私が勝手にそのように思ってるだけだ。でも、そのように思うってことは、会話をすべきだという意思が私にはあるということ。


「あのさ、チチデカ」

「ぶっ殺す」


 こいつ、私に話しかけてきた。

 私が、話しかける前に、話しかけてきやがった。

 許せねえ。ていうか、チチデカってなんだ。

 ぶっ殺していいかな? ぶっ殺していいよね? ぶっ殺すわ。


「俺が、おっぱい揉みたい、とか言ったら、あんたは俺のこと半殺しにするよな」

「へえ、半殺しで済むと思ってんだ。お気楽なことですねー」

「あーはいはい、冗談ですよ。だから、そんな般若みたいな形相で見てくんな。寒気がするわ。あー怖い怖い」


 私が首を絞めて掛かろうとした瞬間だった。

 小さい女の子がボールを追いかけて、桜並木の内側に飛び出していった。


 そこに、トラックが突っ込んでくる。


 大丈夫だ、今すぐに走れば間に合う。

 私は、花びらが落ちるスピードよりも速く走ろうとした


 その動きを読んでいたかのように、クソガキの腕が私の身体を捉える。

 ついでに、おっぱいを揉まれた。


 ん? おっぱいを揉まれた?


「ちょっ……と……」


 クソガキはこれ以上にないほど、真剣な顔つきで少女に向かって腕を伸ばしていた。その腕の先、少女のすぐ目の前に小さい光が収束していた。まるで、ピンボールサイズの太陽を見ているかのようだった。あまりに眩しいその輝きに向かって、呪文でも唱えるかのように、クソガキは早口で何かを呟いている。


「少女の目の前に透明な壁があることを想像しろ。俺が今から作るサッカーボールはトラックの衝撃を吸収する。トラックごとボールにのめり込むイメージの方がわかりやすいか。今すぐに書き換えろ。いける。いける。絶対に、俺が助けるんだ。いや、このままじゃ、エネルギーが足りない」


 ものすごい形相で、クソガキが私に宣言した。


「いいか! 俺は今から、おっぱいを揉む!」

「はあ!?」

「時間がねえ! たぶん、二回ぐらい揉めば足りるはずだ! 我慢しろ!」


 宣言通り、こいつは二回も私のおっぱいを揉んだ。

 よし、あとで理由を説明させたあとに首を握りしめてやろう。


「間に合え、間に合え間に合えまにあえマニアエ……」


 少女の目の前に大きなサッカーボールが出現した。

 しかし、その形は歪だった。まるで、少女の目の前に透明な壁でもあるかのように、ボールは綺麗な丸型ではなく、地面と透明な壁に押しつぶされたような形になっていた。


 トラックが、サッカーボールにぶつかる。いや、吸収されていく?

 サッカーボールがトラックをすべて取り込んだあと、その歪な大きいボールは跡形もなく消えた。


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