第16話 証拠2

 分銅屋に戻って、彼らの会話を聞きながらパソコンをいじっていた楓が「お兄、美久お姉さま、なんとかなるかもしれない、羽生さん、事務所の中で起こったことの音声証拠があればいいんでしょ?」とパソコンを見ながら叫んだ。「なんだ、どう、なんとかなるんだ?」とタケシが楓に聞いた。

 

「それほどまでに、美久さんが順子を信じて、紗栄子さんと智子さんを殺しかけた過剰暴力と過剰摂取に加担していない、あれは康夫たちが勝手にやった、順子は止めていたということが事実だったら、その場面の音声データがあればいいのよね?」と楓が言う。


「そんなものあるわけないだろう?カメラとかマイクとかあの場面でぼくらがデータ入手できるデバイスはないだろ?」とタケシが言うと「あのね、私、みんなに渡したリアルタイムトラッカーのインダラな中国製の回路図を読んだのよ。そうしたら、使われていない振動子が基板上にあって、それがマイクの役割をすることに気づいたの。でも、アプリは振動子のデータを拾っていない」


「だから、アプリのAPIをハックして、振動子のデータも拾うようにアプリを改変したの。データをアップするクラウドに対して、バックドアを仕掛けて、振動子のデータも拾えるようにしたのよ。みんなに教えてなかったけれど、改変したアプリをみんなのアイフォンに仕掛けたの。だって、音声まで拾えたらみんな怯えるでしょう?だから、内緒。もしもの時の保険でね。もちろん、私は聞いていません!」


「クラウドのデータは一定期間で消えちゃうけど、このパソコンに圧縮データを生のパケットデータでDLするように設定しておいたの。今、DLした。それを結合、解凍して、復元すれば、音声データのレゾリューションはどうだかわかんないけど、音声が振動子で拾えていたら、順子が無実か有罪かハッキリするわ。お兄、警官か刑事を呼んできて。警官か刑事の前でその作業をします。警官か刑事が証人よ。クッソォ、康夫ちゃん、このカエデちゃんが地獄送りにしてやるわ!」


 美久が心配そうに楓のパソコンをのぞき込んで言う「楓さん、そんなことができるの?」

「美久お姉さま、まっかせなさい!カエデ、この分野で天才よ!」

 

「楓さん、お願い、順子を殺人幇助にさせないで!」

「それは、美久お姉さま、音声データを見てみないとわかんないけど、順子が美久お姉さまの言うような人間なら、音声データが証明してくれるわ!」


「よし、警官か刑事を探してここに連れてくるぞ、カエデ!」

「それまで、このパソコンは触らないからね。早くしてね!お兄!たぶん微弱な音声データでしょうから、増幅作業して、エンコードして、フィルタリングかけないといけないしね。もしかしたら、科捜研にデータ提出の必要があるかもね」


(あれ?このパソコン、証拠品で没収されちゃうかも?・・・やばい!パックンとかゴックンの履歴、消さないと!)


 慌ててパソコンを操作し始めた楓に美久が「楓さん、慌ててなにしてるの?」と天真爛漫に聞いた。(この天然!あなたのパックンとゴックンで私人格疑われるじゃん!)

「美久お姉さま、このパソコン、証拠品提出になるかもしれないでしょ?だから、わたしの関係ない検索履歴を消去してます」

「え?なんの検索履歴?」

「あなたの『パックン』と『ゴックン』に関する検索履歴!」美久は真っ赤になった。


 数日後、美久と楓、節子と佳子が鑑別所に行った。順子に面会するためだ。面会は原則として三親等以内の親族、学校の先生などに限られるのだが、順子の事件の当事者であること、楓が順子の音声データを見つけたことなどで、刑事から便宜をはかってもらったのだ。立会人として北千住の美久の知り合いの警察官がついた。特別なはからいだ。面会時間は十五分と定められていた。


 恭子、敏子、恵美子はそれほどの罪には問われていなかった。あの恭子を取り逃がしたのは痛かったが、仕方がない。彼女らはすぐ出所してくるだろう。警察もそれほどヒマじゃない。恭子、敏子、恵美子程度では警察も時間をとられたくない様子だ。売りをやらされていた少女たちもことを荒立てられたくないのだ。もちろん、順子の言っていたオジサマたちは逃げ延びる。これが世の中だ。

 

 彼女らが接見室で待っていると、紺色の鑑別所の制服を着た順子が連れてこられた。

(うっほぉ~、映画にあるような接見室なのね)と楓は思った。


 順子が正面に座る。後ろに鑑別所職員が立った。「接見は15分だからね」と無表情に言う。美久が「順子!」と呼んだ。順子が無表情に美久を見た。

 

「これはこれは美久ネエさん、お久しぶりです。今日はなんすか?鑑別に入れられた私の見学?あれ?この前鉄パイプをわたしてくれたお嬢さんだ。美久ネエさんの彼氏の妹ってやつ?弁護士先生が説明してくれたよ。私が止めたって音声データを提出してくれたんだってね。まあ、お礼はいわなきゃね。ありがとよ」とボソッと言う。



※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

※高校生の飲酒喫煙シーンが書かれてあります。

※性描写を含みます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る