誰かの幸せには誰かの犠牲を。

こよい はるか @PLEC所属

私があなたたちの犠牲に。

 全員が幸せになれる未来なんて、小説の中だけだ。

 そんなものを信じている人自体、少ないと思う。


 でもそれを改めて思い知らされる時って、少ないよね。


 ——なんで、君は。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ごめんね……私、〇〇が好きなんだ」


 私にとって数少ない親友が、私の好きな人の名前を出してそう言った。

 いつもの元気そうな表情とは対照的に、眉は下がって、笑顔が引きっている。


 今までそんなこと言ってくれなかった。彼に恋心を持っている風もなかったし、ましてやチラチラ見ることさえなかったのに。


 悔しかった。絶対に彼女よりは想っている期間は長い。

 それでも私に……勝ち目があるようにはとてもじゃないけど思えなかった。


 でも彼女はいつも朗らかで、優しくて、格好良くて可愛くて、私の大切な親友だった。

 だから私は、言ってしまったんだ。


「そうなんだ。私別にもう好きじゃないから……応援してるね!」


 嘘をついた。


 彼女が幸せになるために嘘をついた。


「あ……そうなんだ。ルカって彼と仲良いし、色々協力して欲しい時言うね! ありがとう!」


 彼女はいつもの、周りさえも輝かせるその笑顔で去って行った。


 でもその笑顔が少しだけ、曇っているように見えたのは——きっと私の気のせいだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 修了式が近づく。

 一つ上に進級するための——事実上、この学年としての最後の日が近づく。


 今まで中学、高校と何年も同じクラスだったから、きっと来年は違うクラスになる。

 そうすれば、きっと告白するチャンスもなくなってしまう。


 そうしたら、きっと後悔する。いつか彼女と彼が付き合うのが目に見えている。

 その前に気持ちを告げられなかったら……どれだけ後悔するだろう。




 手紙を書いた。

 彼に告げる思いの手紙を書いた。


 ありのままを書いた。

 悪いところも全部含めて、彼に対する思いを書いた。


 これで終わりにしようと思った。

 彼に対する想いを終わりにしようと思った。


 でも、全部放出したって溢れんばかりの“好き”の感情が絶え間なく流れてきた。


 駄目なんだな、って思った。

 彼への想いは消せないんだと思い知った。


 でも私は彼女の幸せを祈らなきゃいけない。

 彼女は大切だから。

 彼と同じくらい、大切だから。


「これ……手紙ですっ」


 たったそれだけ言って、どうしようもないほどの葛藤を彼にぶつけてしまいそうで。


 逃げた。


 彼から逃げた。


 分かっている事実から目を背けた。


 私は前、嘘をついた。

 彼女を幸せにする嘘をついた。


 その代償だ。

 自分のせいだ。


 それでもやっぱり彼と一緒にいたい自分がいて、泣いた。


 誰もいないところで、声を出して泣いた。

 葛藤が零れ落ちた。


 彼女の幸せを祈った。

 そして、彼の幸せを祈った。


 どちらも大切な人。

 だから幸せになって欲しい。


 けれどそのためには、誰かの犠牲が必要だ。




 人間は、誰かを幸せにするために誰かを犠牲にする。

 その人を幸せにするために、誰かが犠牲になる。


 誰かを犠牲にしたくないから、私は私のままでいい。

 誰かを犠牲にしてまでの幸せは、手に入れても幸せじゃない。


 私は自分から犠牲になる。

 心から、幸せになって欲しいから。


 私は誰かのためなら犠牲になってもいいよ。

 でも誰かに犠牲になって欲しくないの。


 こんな私の我儘を、聞いてくれますか。




 大切な親友の好きな人は、彼だった。

 大切な彼の好きな人は、親友だった。


 これで全て丸く収まった。

 円満に、丸く——。












 収まった、はず。

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誰かの幸せには誰かの犠牲を。 こよい はるか @PLEC所属 @attihotti

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