第5話 レベルアップ!
冒険者ギルドに戻り、ゴブリン討伐の証拠である耳を提出すると、すぐに依頼達成が認められた。
「はい、ご苦労様でした。報酬は銀貨4枚です。カイトさんへの貸付分を差し引いて銀貨3枚と銅貨50枚になります」
受付の女性がバルガスに手渡す。バルガスはそれを受け取ると、ポンと俺の肩を叩いた。
「よし、カイト。これで借金はチャラだな。ほら、銅貨50枚分だ」
「ありがとうございます、バルガスさん!」
残りの銀貨3枚は、バルガス、エマ、そしてあの無口な斥候(結局、名前は聞けずじまいだったが、どうやらジンという名前らしい)で山分けするようだ。俺は初めての報酬、銅貨50枚を手にすることができた。ずっしりとした重みが、冒険者としての第一歩を実感させてくれる。
「なかなか筋がいいみたいだし、また何かあったら声をかけるぜ」
バルガスはそう言い残し、ジンとエマを連れてギルドの酒場スペースの方へ消えていった。祝杯でもあげるのだろう。
俺は一人残り、改めてギルドカードを確認する。ステータスに変化はないが、討伐経験が記録されたはずだ。そして、先ほどのゴブリン討伐と、これまでの村での地道なスキル使用が実を結んだのか、不意に頭の中にあの声が響いた。
『《重力操作》のスキル熟練度が一定に達しました。スキルレベルが2に上昇します』
『MP最大値が上昇しました。MP:75/75』
「おおっ!」
思わず声が出た。ついに、スキルレベルが上がった! しかも、MP最大値も50から75に増えている。これは大きい。
早速、スキルの詳細を確認してみる。
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【スキル】
《重力操作》 Lv.2
言語理解
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《重力操作》 Lv.2:対象の重力を操作する。Lv.2では、より大きな質量の物体の重力を増減させることが可能。効果範囲、持続時間も向上。MP消費効率がわずかに改善。新たに【身体強化(軽)】、【落下速度制御(弱)】の使用が可能になる。
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レベルアップにより、基本的な性能が向上しただけでなく、新たな応用技が解放されたようだ。
【身体強化(軽)】:自身の体重をわずかに軽減し、跳躍力や移動速度を補助する。
【落下速度制御(弱)】:落下時の速度を緩め、着地時の衝撃を軽減する。
どちらも非常に有用そうだ。特に【身体強化(軽)】は、戦闘時の機動力を大幅に上げてくれる可能性がある。【落下速度制御(弱)】も、高所からの移動や、不意の落下時に役立つだろう。
「よし、試してみよう」
俺はギルドを出て、人目につかない裏路地へと向かった(今度はチンピラに絡まれないよう、周囲を警戒しながら)。
まずは【身体強化(軽)】。意識を集中し、スキルを発動する。MPを5消費。すると、体がふわりと軽くなったような感覚に包まれた。実際に体重が減ったわけではないだろうが、動きが明らかに軽快になっている。
試しに、その場でジャンプしてみる。
「うおっ!」
普段よりも 明らかに 高く跳び上がれた。着地も軽い。壁に向かって走り、蹴り上げてみる。まるでパルクール選手のように、軽々と壁を駆け上がり、宙返りまでできてしまった。これは凄い! 移動や回避能力が格段に向上する。ただし、持続時間は30秒ほどで、効果が切れると急に体が重く感じる。MP消費も5と少ないが、戦闘中に使い続けるには工夫が必要そうだ。
次に【落下速度制御(弱)】。近くにあった荷運び用の木箱(高さ1メートルほど)の上に乗り、そこから飛び降りる瞬間にスキルを発動してみる。MP3消費。
すると、落下する速度が明らかに緩やかになった。まるでスローモーションのように、ふわりと地面に着地できた。衝撃はほとんどない。これも素晴らしいスキルだ。ダンジョン探索などで、高低差のある場所を移動する際に役立つだろう。
(レベルが1つ上がっただけで、これだけ違うのか……!)
《重力操作》の可能性に、改めて興奮を覚える。レベルが上がれば、もっと重いものを動かせるようになったり、より広範囲に影響を与えたり、さらには重力を攻撃に転用したりすることも可能になるかもしれない。夢は広がる。
スキルの感触を確かめた後、俺は街を散策することにした。まずは、今日稼いだ銅貨50枚で、最低限のものを揃えたい。宿屋に泊まる金はないので、当面はギルドの仮眠室か、安い木賃宿を探すことになるだろう。それから、食料と、できればもう少しマシな装備が欲しい。今の護身用ナイフでは心許ない。
市場を歩いていると、様々なものが売られていた。見たこともない野菜や果物、干し肉、革製品、そして武器や防具。中古の革鎧やショートソードが手頃な値段で売られているのを見つけたが、それでも銅貨50枚では到底足りない。
(やっぱり、もっと稼がないとダメだな……)
結局、俺が買えたのは、保存の効く硬いパンと干し肉、水筒、そして少しだけマシな中古の革の手袋だけだった。残りは銅貨10枚。心許ないが、仕方ない。
その夜、俺はギルドの片隅にある仮眠室(といっても、硬い長椅子が並んでいるだけだが)で眠りについた。レベルアップの興奮と、今後の期待と不安で、なかなか寝付けなかった。
翌日、俺は再びギルドの依頼ボードの前に立っていた。借金はなくなったが、稼がなければ生活できない。Fランクの依頼をいくつかこなして、少しでも資金を貯めよう。薬草採取、荷物運び、街の使い走り……地味な依頼ばかりだが、一つ一つ着実にこなしていく。
時折、《重力操作》Lv.2の力を試しながら。荷物運びでは、以前よりも重い荷物を軽くして運べるようになった。MP効率も上がっているので、前よりも気軽にスキルを使える。【身体強化(軽)】を使って、配達の時間を短縮したりもした。
そんなある日、ギルドでバルガスと再会した。
「よう、カイト。精が出てるじゃねえか」
「バルガスさん。お久しぶりです」
「おう。ちょっと手合わせでもどうだ? お前の動き、少し興味があってな」
バルガスはニヤリと笑って、ギルドの裏手にある訓練場へと俺を誘った。訓練場には、他の冒険者たちも何人かいて、剣や魔法の練習をしている。
「スキルは使うなよ。純粋な体捌きと剣(ナイフ)の腕を見せてみろ」
バルガスは木剣を構える。俺も護身用ナイフ(刃は潰してある訓練用のもの)を構えた。レベルが上がったとはいえ、相手はCランクのベテラン剣士だ。スキルなしでどこまでやれるか。
試合開始。バルガスはゆっくりと間合いを詰めてくる。圧力が凄い。俺は【身体強化(軽)】を使いたい衝動を抑え、集中する。
バルガスの木剣が鋭く繰り出される。速い! 俺は咄嗟に身をかがめて避けるが、体勢が崩れる。そこへ、追撃の突きが!
まずい、と思った瞬間、俺は無意識に足元の地面を蹴り、【身体強化(軽)】で覚えたパルクール的な動きで、バルガスの側面へと回り込んだ。
「ほう!」
バルガスが感心したような声を上げる。俺はそのままナイフで反撃しようとするが、バルガスは即座に対応し、木剣で俺のナイフを弾き飛ばした。
「そこまで!」
あっけない幕切れだった。やはり、実力差は歴然だ。
「……カイト、お前、ここ数日で動きが格段に良くなってやがるな。特に、今の回避の仕方は見事だった。何か特別な訓練でもしてるのか?」
「い、いえ、別に……。ただ、体を動かすのが好きなだけで」
俺はまたしても誤魔化した。【身体強化(軽)】を練習していた成果が出た形だが、スキルを使ったわけではないので嘘ではない……はずだ。
「ふーん……。まあいい。筋は確かだ。だが、まだ動きに無駄が多いし、基礎がなっとらん。俺が少し稽古をつけてやる」
「え、いいんですか!?」
「ああ。お前みたいな伸び代のある奴は嫌いじゃねえ。それに、いつかまた一緒に組むかもしれねえからな」
それから数日間、俺は依頼の合間を縫って、バルガスから剣術の基礎や戦闘時の立ち回りを教わることになった。厳しい指導だったが、実戦経験豊富なバルガスの教えは非常にためになった。《重力操作》と組み合わせれば、さらに効果的な戦い方ができるはずだ。
そんなある日、俺がギルドで依頼を探していると、受付の女性から声をかけられた。
「カイトさん、いらっしゃいますか? あなたに指名依頼が入っています」
「指名依頼? 俺にですか?」
Fランクになったばかりの俺に、指名依頼など来るはずがない。誰かの間違いではないか?
「はい、カイトさん宛てで間違いありません。依頼主は……とある商人の方からです。内容は、『隣町までの荷物運びだが、少し訳アリ』とのことです。報酬は銀貨5枚と、かなり高額ですが……受けますか?」
銀貨5枚! 今の俺にとっては破格の報酬だ。しかし、「少し訳アリ」というのが引っかかる。危険な依頼なのだろうか?
俺は少し迷った。だが、このチャンスを逃す手はない。それに、今の俺には《重力操作》Lv.2がある。多少の危険なら、乗り越えられるはずだ。
「……受けます!」
俺は力強く答えた。高額報酬の裏には何があるのか?訳アリの荷物運び依頼。それは、新たな出会いと、忍び寄る陰謀の始まりだった。
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