私、内科医ですが動悸の原因がわかりません!!
低東 走
第1話 診察室の甘い声
「さすが先生、おおきにねえ!」
かかりつけ医にしてくれているいつもの患者さんとの、ちょっとした雑談タイム。
「ここの病院は小此木先生も高橋先生も、べっぴんで優しいわぁ」
「いやー、そんな……!」
くっ、また高橋先生……。
絶対私の方が優秀だし、べっぴんなのに。
褒められるときはいつも高橋先生と並列。
私、小此木千春はこの
診療科こそ違えど、患者さんが被ることも多く、こういった雑談は日常茶飯事だ。
「お大事にー」
お決まりのフレーズで締めくくり、本日の診察も一段落。
(高橋先生かぁ……)
勝手にライバルだと思ってはいるけれど、実際のところあまり話したこともない。
そんなことをぼんやり考えていたら——
コンコン、とドアがノックされる音。
「小此木先生、高橋です。今ちょっといいですか?」
はっ!? 高橋先生!?
「なんだか腹部痛が続いていて、診てもらえませんか?」
な、なにこのタイミング!
噂をすればってやつ!? しかも腹部痛!?
「それは大変っ!病院へ行って診てもらった方が……いいんじゃないかしら……?」
「えっと、ここが病院で、内科医はあなたじゃなかったですか?」
あっ……そうだったわ。
そうよ、私は内科医。優秀な内科医。
気を取り直して聴診器を手に取り、高橋先生の胸部へと当てる。
動揺しちゃダメ。ここで優秀さを見せるのよ、私!
……なのに。
音が、聞こえない。
「変ね……心音が、聞こえない……?」
ごくりと生唾を飲み込んで、そのまま口に出す。
「聴診器、耳についてないですよ、先生」
なんてこと!
私としたことが、焦って初歩的なミス!?
顔が熱い。
恥ずかしさをごまかすように聴診器を耳に装着し直し、改めて心音を確認。
異常はなかった。よかった。
「触診もするので、横になってください」
咳払いで気を取り直して、高橋先生にベッドに横になってもらう。
お腹から腰へと手を這わせていく。
「んっ……」
その声に、私の手が止まる。
腰に触れた瞬間、びくっと高橋先生が震えた。
その反応は、想像以上に色っぽくて。
「し、失礼……」
高橋先生が咳払いをして視線を逸らす。
今の、なに……?
あの無表情で冷静な高橋先生が、あんな甘い声を……。
やばい。
何か、わからないけど、すごくやばい。
異常はなかったので、触診は終了。
「異常無さそうなので……採血もしますね」
働かない頭でなんとか診察を終え、病名を告げて処方箋を出す。
大きな病気でなさそうで本当によかった。
「では、処方箋出しておきますね~」
……あれは、ただの触診だった。
ただの触診だったはずなのに、あの声が頭から離れない。
「あの……」
「ひゃ、はいっ!?」
さっきのことばかり考えていて、思わず噛んでしまった。かっこ悪い。
「ありがとうございました。実は、前から小此木先生に診ていただきたかったんです」
……え?
高橋先生が、笑ってる?
あの高橋先生が……笑顔で、お礼……!?
「先生もお怪我等されましたら、いつでもお声がけください」
そう言って、高橋先生は診察室をあとにする。
私は真っ白になった頭のまま、ふらりと棚に肩をぶつけた。
……わざとじゃない。
でも、体が勝手に動いてしまった。
気づいたときには、足が高橋先生のもとへ向かっていた。
「あの、高橋先生……早速、診ていただけませんか?」
「えっ……」
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