異能研究都市ニュースアーカイブ

青のり磯辺

#1 桜舞う、バスも舞う

桜舞う、バスも舞う

——新年度初日、博士野駅前で異能事案発生


4月1日午前7時42分、ひさな市西区・博士野駅前にて、市立異能学園・西区本校(西校)行きのシャトルバスが上昇する事案が発生した。バスは地面から約40メートル浮き上がった状態で静止すると、ゆっくりと異能管理局・西区分館上空を15分ほど旋回したとのこと。

その後、現場に到着した初動対処班の誘導により、バスは緩やかに着地。

同8時2分に異能事案は収束した。


乗車していた新入生ら計23名に負傷者はいない。


博士野駅前では一時通行止めによる渋滞や公共交通機関の遅延が発生したが、収束とともに徐々に解消され、同8時5分には通常運転に戻った。


◆ 「うっかり異能暴発」か?

今回の事案は、“新入生”が車内で発作的に能力を発動してしまったことに起因する。異能管理局はこの件を「うっかり異能暴発」事案に分類した。

※通称「うっかり異能暴発」(正式名称は“情動起因型異能干渉事案”)

異能保有者が感情の高ぶりなどによって無意識のうちに異能を発動させてしまうことを指す。特に、春の新年度開始時に多発する傾向が確認されている。


当該異能事案を発生させた“起異者”の少年は、着地直後に震える声で「すみません」「降ろそうとしたんですけど」と繰り返していたという。

現場にいた関係者の話では、目立つ動揺こそあったものの、周囲の声に対して混乱しながらも応じていたとのこと。


◆ 専門家は

「彼(当該異能事案を発生させた“起異者”の少年)の異能発現が先月27日と、比較的最近であったことも要因でしょう。新生活への不安、および自らの“異能”への不安。そのどちらもが彼に大きくのしかかっていたことは、想像に難しくありません」

——日本異能研究機関・ひさな市西区分棟 楓原玲 研究員


また、楓原氏は当局の取材に対し、

「『ストレスは不安ばかりではない』ということを忘れないでください。いわゆる『良い感情』に分類される、嬉しい、楽しい、といった感情もストレスなのです」

「異能の発動は異能者本人の精神状況に大きく影響されます。特にこの時期は大きく生活習慣が変わる人が多いですから、休息は意識的に取るよう心がけて欲しいですね」

などコメントし、

「“異能の春”ですよね。……ひさなの春が、今年もやってきた。そんな感じがします」

と締めた。


◆ 処遇と今後の対応

“起異者”本人については、異能学園の初動ガイダンスに基づき、一時的な観察処分の後、補助講習プログラムへの参加が決定された。

重度の意図的行使ではなく、状況的にも「未適応による偶発的作用」として記録される見込みで、処分などは行われない。


◆ 街の人は

「ちょうどコーヒー飲むとこだったんで、むせました。『バスが空飛ぶなんて、ひさな市やべー』って思ったっす。もう恐怖ですよね。怖かったっす」

「……でもなんか、周りの人みんな落ち着いてて『あっこれが日常なんだ』みたいな。処理班? の人の動きもキビキビしてて、慣れっこ? って感じで。はい」

「最後の方はもう、一つのショーみたいな感覚で見てました。着地した瞬間にスタオベ(スタンディングオベーション)っすよ」

——この春からひさな市内の医療系企業に勤務する移住者の男性(26)


「すごく驚きました。地面がどんどん遠くなっていって……。でも、同車していた学園の先輩や先生、運転手さんが『落ち着いて』『大丈夫だよ』『よくあることだよ』って声をかけてて。『物を浮かせたのは初めて? じゃあ凄いね、こんな安定してるのはもう才能だよ』みたいに」

「だから、なんていうか、この街じゃ異能ってそんな悪い物じゃないんだろうなって。思えて」

「あの人も、自分の異能に慣れてなくて、すごく焦ってたと思います。だからこそこの街で、異能について……一緒に、学んでいけたらなって思いました」

——バスに乗っていた市立異能学園・西区本校 新入生の女子高校生(15)


「駅前のイ管(異能管理局)超える高さまでバス浮かした? えぇ……? あそこ8階建てでしたよね?」

「今年の“新入生”は有望だね! バトル部(異能バトル部)おいでよ!」

「もうスカウトですか。流石は先輩。お速いですね」

「だって異能発現27日っしょ? じゃあ一二ぃ三……五日も経ってないじゃん! なのに学園のバス浮かすって相当だよね。今年の四区祭も、ルーキー部門は西校で決まり!」

「まだ本人は入るって言ってないでしょう。でも……バトル部に来てくれたら嬉しいです」

「先輩たちがビシバシ鍛えてやるぜー!」

——市立異能学園・西区本校 異能バトル部の男子高校生(16)

——市立異能学園・西区本校 異能バトル部の女子高校生(17)


「初対(初動対処班)の奴らが『ああ……春だな』って言いながら出てったのが、今日の俺のハイライトです」

——異能管理局・西区分館 広報課の男性(32)


◆ 異能管理局の呼びかけと対策

「この春から本市に移ってきた異能者の皆さんは、まだ都市の環境や規律に慣れていないケースも少なくありません。温かく見守り、異能を恐れず、共に暮らす姿勢が求められます」

——異能研究都市ひさな生活総合アプリ「@HISANA」 異能管理局広報課の投稿


ひさな市異能管理局では以下の取り組みを実施中だ。

- 『春の異能安全週間』(4月1日〜4月7日)

- 市立異能学園とのコラボ特別講習『異能スタートアップ:力の輪郭を知る』

- 地区ごとの出張講座『異能とのつきあい方 2025』


新年度を迎えたひさな市。桜とともに舞い上がったバスが示したのは、未熟さと、未来への可能性と、そしてこの都市が歩む“共生”の一場面だった。

ひさな市に吹いた春風。新たな一歩が今、始まろうとしている。


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🔗 関連リンク

【特集】異能研究都市の“初日”——ひさな式スタートダッシュ講座(前編)

市立異能学園の春:東区分校・西区分校・南区分校・北区分校の初日風景まとめ

インタビュー|異能管理局・初動対処班の“春”の仕事とは

Q&A:うっかり異能暴発ってなに? いつ起きる? どう防ぐ?


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📢 お知らせ・募集

【春の異能安全週間(4月1日〜7日)開催中】

駅前・公園・商業エリアでの異能啓発展示や体験ミニ講座にご参加ください。

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