第2話 メグミと 2
「それで?」
「だから、つまり・・・」
「宮部くん、メグミとエッチしたくない?」
「急にそんなこと言われてもさぁ~」
「急だろうが、ゆっくりだろうが、したいか、したくないか、そんなことわかりそうなものじゃないの?」
「わかったよ、メグミはかわいいし、エッチしたくないって言えばうそになる」
「したいの?」
「うん、したい」
「じゃ、しよ!」
「え?いま?」
「バカねえ、ルノアールでエッチができるわけがないでしょう?」
「しよう、なんて言うから・・・」
「ここを出て、エッチできるところに行こうよ」
「どこ?」
「宮部くん、エッチしたことないの?」
「あるけど、そりゃあ、自宅とか彼女の家とかだしさ・・・」多少ウソだ。
「ウブなんだぁ~?」
「まったく、加藤さんはそんなかわいい顔して何を言い出すんだか・・・」
「あのね、宮部くん」と加藤さんが言う。「神楽坂ってさ、昔から置屋がたくさんあって、色街だったんだよ。早稲田通りの裏の三丁目や四丁目は料亭があるの。今でもあるのよ。それで、そういう色街ならラブホテルだってあるはずよ」
「なんだ、加藤さんだって知らないじゃないか?」
「知らないわよ、ラブホテルの場所なんて。だいいち、男の子にエッチしようなんてメグミから言ったのは生まれて初めてなんだから・・・」
「なぜ、男の子にエッチしようなんて生まれて初めて言うのがぼくなんだ?」
「しょうがないじゃない?急に欲しくなったんだから、宮部くんが」
「頭が痛くなってきた・・・」
「頭痛はそのくらいにしておいて、さ、ここを出ましょう」
「本気なの?」
「冗談でこんな恥ずかしいことを女の子が言えると思う?」
「思わない。わかった、出よう」
ぼくらは早稲田通りの坂をあがっていった。
「どこにあるのさ?その置屋とかが?」
「三丁目よ、たぶん・・・ほら、ここここ。怪しいわ、ほら、この近江屋ビル、ここを右に曲がってみましょうよ」
「こんな路地の奥にあるの?」
「普通、大通りに面して堂々とあるわけないでしょ?」
「そりゃあ、そうだ」
「ほらほら、居酒屋とかあるじゃない?」
「居酒屋くらいあるだろ、普通」
「いくわよ」
「加藤さん、なんだか・・・」
「ドキドキする?私もそう」
「まだ昼間だよ?」
「ラブホテルって、24時間無休じゃない?」
「なるほど」
「ほぉ~ら、ここ、芸者新路って書いてあるわ」
「ここを入っていくの?」
「まさかぁ。置屋の隣にホテルがあったらおかしいでしょ?私の勘だともっと先よ」
「ほんとか?」
「さ、行きましょう」
ぼくらは細い道を歩いていった。それでちょっと広い道との十字路に出た。それで、十字路の左角に加藤さんのいうようにホテルがあった。
「うそ!」
「ほら、メグミの勘を信じなくっちゃ」
「だけど、加藤さん、これからどうすればいいんだ?」
「メグミの見たポルノ映画の場面では、男の子がいやがる女の子の手を引いて、ガラッとホテルのドアを開けて、『休憩したいんですけど・・・』と受付の人に言うのよ」
「あのさ、いやがる女の子って?」
「いいから、いいから、私の手を引っ張って、入って、入って」
「わかったよ」
ぼくはひどく小さな窓があいた受付に加藤さんを引っ張っていって、「あのぉ、休憩したいんですけど・・・」と受付のおばさんに尋ねた。
「ハイ、いらっしゃいませ。二時間三千五百円になります」
「ハ、ハイ」とぼくは慌てて千円札と五百円札を窓からおばさんに渡した。
おばさんがキーをくれる。「二階にあがって、突き当たりの部屋ですよ」とおばさんが言う。
ぼくらはエレベーターで(なんと古びたエレベーターがあった)2階にあがり、突き当たりの部屋のドアをゴソゴソあけて中に入った。
「ほぉら、うまくいったじゃない?」と加藤さんが言う。
「汗かいちゃったじゃないか」
「私もドキドキものよ。生まれて初めて、男の子とラブホテルに入ったの」
「うそ?」
「ホント」
「おいおい、加藤さんって、まさか処女じゃないだろうね?」
「そうだったら?」
「ええ~、うそだろ?」
「うそよ、バカね」
「ああ、よかった」
「なんでよかったのよ?」
「だって、自分からエッチしようって女の子が処女だったらどうしようかと思ってさ」
「処女嫌いなの?」
「好きも嫌いも、加藤さんが処女だったら、ちょっとさ、責任ってものがさ・・・」
「ただのエッチだよぉ~?責任とか関係ないじゃない」
「まあ、そうだけどさ」
ぼくはカーテンを閉めて部屋の照明を消した。ベッドのサイドテーブルの明かりだけつける。「加藤さん?」とぼくは彼女を抱き寄せた。
「宮部くん、私のこと軽蔑する?」
「なぜ?」
「だってね、友達の彼氏に『エッチしよう』なんて言って、ホテルにきちゃったんだから・・・」
「だって、加藤さんはぼくとエッチがしたいんだろ?」
「うん、したい」
「ぼくも加藤さんとエッチしたい」
ぼくらはキスをして、お互いの服を脱がしあった。床に服が積み重なっていく。二人とも裸になると、ぼくはベッドに加藤さんを横たえた。加藤さんの横に滑り込む。キスをしながら、加藤さんがぼくに触れた。ぼくも加藤さんに触れる。
「加藤さん、あの・・・」
「恥ずかしいから何も言わないで。『加藤さん』も止めて!メグミと呼んで。それで、濡れているなんて言ったらぶつわよ、だって、ホントにいっぱい濡れているんだから」
「わかった。じゃあ、ぼくも明彦と呼んで」
「オッケー・・・あ!避妊はどうしよぉ?」
「こういうホテルはどこかに常備してあるはずだと思うけどね」とぼくはサイドテーブルをガサゴソやった。「ほらあった。でも、一個だけだ。念の為に受付のおばちゃんに聞いてみよう」とぼくは受付のおばさんに内線をかけた。
「ありますよぉ。五個入り三百五十円。今、欲しいのね。もって行くわ」とおばさんに持ってきてもらった。ドアを半開きにしてコンドームの箱をもらう。おばさんに三百五十円渡した。ヘロインの取引のようだ、って、映画で見ただけで知らないけどね。
「明彦、よく知っているわね?」
「メグミと一緒。ぼくの見たポルノ映画の場面で主人公がコンドームをこうして手に入れたんだ」
「よかったぁ~、赤ちゃんできたらどうしようかと思ったの」
「そうしたら結婚するほかないよ」
「真理子に殺されちゃうわ」
「いまのままでも十分殺される理由になると思うよ」
「そうよねぇ、いけないことしているのかしらね?」
「だって、欲しいんだろう?」
「うん」
「じゃあ、しよう、余計なことを考えないで」
終わったあと、メグミが言った。
「わあ、よかったわ」
「そう言ってくれるとうれしい」
「ね、ね、明彦?」
「なに?」
「まだ時間あるわよね?」
「あと一時間くらいあると思うよ」
「もう一度できる?」
「できるよ」
「じゃあ、もう一度」
結局、一時間では済まず、フロントに電話をかけた。「あのぉ~、一時間延長してもよろしいでしょうか?」とフロントのおばさんにぼくは訊いた。
「結構ですとも。2千円になりますが」
「今支払うんですか?」
「出られる時で結構ですよ」
「ありがとうございます」とぼくは受話器をおいた。
メグミが枕にあごをのせてぼくを見ていた。
「合計三時間!」
「うん、三時間」
「飽きないわねえ、私。明彦は?」
「ぼくもメグミとなら飽きないな」
「明彦、うまいわね、慣れているみたい」
「そうでもないよ。誠心誠意やるとこうなるんだ」
「変な表現」
「メグミのどこが感じるか、というのに集中するとこうなる」
「よく私の体のことがわかるのね?初めてなのに」
「でも、メグミの中に入っていれば、ぼくのあれがそれを感じるからわかる」
「そうなの?」
「そう」
「じゃあ、あと、残り一時間、私を感じてみて」
「うん」
ホテルを出たあと、神楽坂を降りていく途中でメグミが言った。
「あ~あ、やっちゃった」
「そうだね」
「私たち、どうなるの?真理子にどういう顔で会ったらいいかしら?」
「どうしようかなあ・・・だけど、メグミの生理前の性欲が高まった時だからなあ」
「あら?それだけ?」
「まさか、それだけじゃないけど・・・」
「だまっていよ?真理子には。それで、メグミの次の生理前にまたエッチするの」
「そういうものか?それで済むかなあ」
「だいじょうぶだって」
「だまっていようか・・・」
「そうそう、沈黙は金」
「でもだよ、ぼくが真理子とエッチしちゃったら?」
「私、明彦を殺すわ。殺すかもしれない、ホント。だから、マリとエッチしてもだまっていてね、私には」
「そういわれると、何もできないよ」
「だったら、明彦はメグミとだけエッチしていればいいのよ」
「真理子とは清い関係で?」
「それでいいじゃない?」
それから、ぼくらは何度も何度もエッチした。メグミの生理前だけじゃなくて、毎週、毎週、真理子に内緒で会った。神楽坂、新宿、渋谷、いろいろなホテルで。
「メグミ、ぼくらの関係ってなんだろ?」
「お互いの性欲のはけ口友達!」
「なんか、それって、空しくならない?」
「そぉでもないよぉ~。エッチの合間にいろいろな話をしているし、もうメグミ、明彦の専門家だよぉ~」
「ぼくもメグミの専門家だな」
「そうでしょ?」
「でも、これって、ぼくらが恋人同士ってことにはならないよね?」
「ちょっと違うみたいね?」
「メグミだって彼氏いるんだろ?」
「いるわよ、明彦だってマリがいるじゃない?」
「彼氏とはエッチするの?」
「明彦と一緒、清い関係よ」
「あ~、頭が痛くなってきた・・・」
「頭痛はそのくらいにしておいて、さ、もっとやろ?」
「了解」
こんなことがダラダラと続いた・・・
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